第33話:荷運び交渉
心配だった事は、支配人に全部頼めましたので、安心して眠れました。
21時に眠って4時に目覚めるという、とても健康的な朝の始まりです。
流石にこの時間から食堂は空いていません。
今が夏で、日の出が早い季節なら4時でも食堂が空いているのですが、今は1月も始まったばかりなので、日の出が遅く食堂が開くのも6時前になります。
私だけなら2時間くらい我慢できるのですが……
「お腹空いた、これから動くのならもっとお腹が空くよ!」
ソフィアは大喰らいなので我慢してくれません。
「そうですね、昨日の計画通りにするのでしたら軽く食べておくべきだと思います」
アーサーの考えが正しいですね。
「そうですね、食べておいた方が良いですね。
ですがその前に、自分たちが使う事にした鈦剣に神聖術をかけておきましょう」
「そうね、今かけたら20時間くらい持つのよね?!」
「昨日の効果はそれくらい続いていました」
アーサーはもう黙って2振りの鈦剣に神聖術をかけています。
呪文は昨日の空き時間に刻み込んであります。
「おはようございます、入らせていただいて宜しいでしょうか」
「今空けますのでお待ちください」
神聖術をかけ終えたアーサーが、食堂からコネクティングルームに移動して、廊下に続く扉の鍵を開けました。
「失礼いたします、食堂のご用意はまだなのですが、それまでに何か食べられるのでしたら、昨日や焼いた物で申し訳ないのですが、白パンがございます。
チーズとワイン、リンゴならご用意できるのですが、どうなさいますか?」
「食べます、食べます、白パンとチーズ、リンゴとワインもください!」
「ハリー様も同じ物で宜しいでしょうか?」
「はい、私も同じ物をお願いします、アーサーはどうしますか?」
「僕も同じ物を食べさせていただきます」
「今直ぐお持ちさせていただきますが、他に御用はありませんか?」
「昨日支配人にお願いしていたのですが、回復薬を作る薬草が欲しいのです」
「はい、伺わせていただいております。
昨晩のうちに、お聞かせいただいておりました、各種薬草、水晶瓶、調薬甕を冒険者組合や薬種商会から取り寄せさせていただいております。
有れば欲しいとお聞きしておりました、期限が切れてしまった回復薬ですが、冒険者組合にはありませんでした」
「できる限り用意してくださったのですね、ありがとうございます。
全部持っていてください、順番はどちらが先でもかまいません」
「だめ、だめ、だめ、ご飯が先、ご飯が先だからね」
「はい、ハリー卿、ご飯が先で宜しいでしょうか?」
「はい、申し訳ありませんが、ご飯が先でお願いします」
「承りました、ご飯を先にご用意させていただきます」
部屋係がテキパキと食事を用意してくれました。
私に気を使ってくれているのか、空腹のソフィアを可愛そうに思ってくれたのか、12歳前を1人含む3人で用意してくれました。
部屋係が付きっ切りで給仕をしてくれる間に、2人の部屋係助手が、回復薬を作る材料をコネクティングルームに運び入れてくれます。
あれだけあれば、魔力が尽きても直ぐに回復させられます。
少々のケガをしても、直ぐに回復させられます。
「ハリー卿、お食事中申し訳ありません。
お邪魔させていただいても宜しいでしょうか?」
部屋の外、廊下から支配人が声をかけてくれます。
「いいですよ、入ってください」
「失礼させていただきます。
受付に冒険者組合の女性が来られているのですが、こちらにお通ししても宜しいでしょうか?」
「はい、ここに来てもらってください」
私たちは元々騎士と従士と猟師です。
怠惰な王侯貴族のように、時間をかけて食事を愉しむ習慣はありません。
美味しい物は大好きですが、テキパキと食べます。
冒険者組合の女性がスイートルームに来る頃には、朝飯を食べ終えていました。
「ハリー卿、冒険者組合の方をお連れしました。
中に入らせていただいて宜しいでしょうか?」
「はい、こちらに案内してください」
冒険者組合を代表するというのは大袈裟ですが、副組合長が起こした事件の後ですから、組合も私たちをこれ以上怒らせるような人は派遣しません。
初日からお世話になっていた受付のお姉さんが交渉役になっています。
ソフィアが、無役の受付にどれほどの権限があるのかと文句を言うと、組合の幹部一同が謝りに来ましたが、自分たちが交渉しようとはしませんでした。
結局、受付のお姉さんが臨時副組合長に祭り上げられる事になりました。
逮捕された副組合長に属していた、悪徳幹部たちの保身かもしれません。
組合内部の権力闘争に興味はありませんから、好きにすればいいです。
また邪魔するようでしたら、2度と邪魔をする気にならないように、徹底的にぶちのめしてやるだけです。
「ハリー卿、昨日話しておられた荷物運びの件ですが、モンスターが武器を落とす技を代価にするとお聞きしましたが、本当に宜しいのですか?」
「宜しいも何も、組合を通して正確な情報を伝えているのに、冒険者の方々が全く信用してくれず、そこら中で待ち伏せしているから、しかたなくですよ!」
「申し訳ございません、副組合長の件があり、組合の信用が地に落ちているのです。
幾ら教えていただいたやり方を伝えても、全く信用してもらえないのです」
「そのせいで、逃げ隠れしながらダンジョンに潜らなければいけなくなりました。
それを終わらせるために、私たちが手に入れた宝物を運んでくれる冒険者だけに、目の前でやって見せる事にしたのです」
「はい、申し訳ございません」
「私たちの役に立ってくれない冒険者には、やり方を教えません。
私たちの狩りを邪魔する人にも教えません。
毎回希望者全員の前でやって見せますから、組合は希望者の順番を決めて、私たちが邪魔されずに狩りができるようにしてください」
「希望者が殺到しておりまして、順番も決めるのも喧嘩になってしまいまして……」
「それは私たちの知った事ではありませんし、私たちの責任でもありません。
組合が強権を発動してでも順番を決めてください。
もし決めてくださらないのでしたら、もう冒険者も組合も相手にしません。
私の叔父と叔母が5人も王都にいます。
全員ダンジョン騎士に叙君されています。
叔父叔母たちを通じて、騎士団にだけ見学させても良いのですよ」
「分かりました、その事を冒険者たちに言って、順番を守らせます。
それでもグズグズいう者は、冒険者組合を除名します」
「どのような方法を取られるのかは、組合の自由です。
私たちの関知する事ではありません。
ただ、また不正をするようなら、叔父叔母を通じて厳正に処分させますから、その覚悟はしておいてください!」
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