第31話:鈦剣
3人で驚くほどの鈦剣と大鈦貨を手に入れる事ができました。
私が鈦剣168振りと大鈦貨100枚以上で171kgもの大荷物です。
ソフィアとアーサーが鈦剣21振りと大鈦貨100枚以上で23kgです。
私の分をソフィアとアーサーが分け持ってくれますが、それでも1人73kgもの大荷物を持って地上まで上がらなければいけません。
このような状態で、途中で欲に目が眩んだ冒険者におそわれてしまったら、相手を殺さずに済ませられるか分かりません。
絶対に見つかる訳にいかないので、潜る時に使った隠れる魔術を全てかけて、ゆっくり休みながら地上に戻りました。
ただ、地上に戻る前に腹八分目の食事をしました。
完全に身を隠している状態だと、食事を注文する事ができないのです。
筆談はできるかもしれませんが、隠れる魔術は秘密にしておきたいのです。
高級宿の美味しいチーズとパン、ワインでひと息つきました。
酔っぱらわないように、ワインの量には気をつけて美味しく飲む分だけにして、渇きは魔術水を飲んで渇きを癒しました。
身軽な状態でしたら、レベルアップした体の全力を使えば、地下71階から地上まで1時間少しで駆けのぼれます。
ですが、単に完全武装しているだけでなく、1人73kgもの大荷物を持って、できるだけ他の冒険者を迂回してのぼるとなると、3時間以上かかってしまいます。
実際には度々休憩したので、4時間半もかかりました。
地上に戻ってからも大変でした。
高級宿の表玄関は、警備員を兼ねたドアマンが24時間守っています。
出て行く時と同じように、従業員用の裏口から宿に入りました。
入りましたと簡単に言いましたが、警備が厳重な高級宿の裏口です。
従業員が出入りする時以外は厳しく鍵がかけられています。
従業員が宿から出て来るまで、1時間も外で待つ事になってしまいました。
裏口から出て来た従業員のスキを突いて素早く中に入りました。
宿に入ってからも、他の従業員に見つからないように、細心の注意を払って自分たちのスイートルームまで戻りました。
スイートルームの鍵を開けて中に入れた時は、心底ホッとしました。
命懸けの狩りの間も緊張して疲れますが、これはこれでまた別の疲れがあります。
普通の人たちなら、このままベッドに倒れ込んで眠ってしまうのでしょう。
ですが、私たちは家族に鍛えられ続けてきました。
領地が魔境に接するという、とても厳しい環境で生まれ育ちました。
完全に回復した魔力を使って、次の狩りに使う聖水と魔術水を作っておかないと、もったいない気持ちになってしまいます。
何より、できる準備を怠ったために、大切な人が死ぬような事があってはならない、と思うのが辺境生まれの人間なのです。
「ねえ、わたしたちお金持ちになったんだよね?」
全ての準備を終えて、後は寝るか食べるか遊ぶか、隠れる魔術全てが解けるまで、他人とはかかわれない状態で、ソフィアが話しかけてきました。
普通なら互いの声は聞こえないのですが、それでは狩りの時に意思の疎通ができなくて困るので、パーティー内だけで使える念話の魔術を使うのです。
必要に迫られて編み出したのでしょうが、ひと言ごとに魔力を消費してしまうとはいえ、よくこんな魔術を開発できたものです。
「そうですね、とんでもない金持ちになれたと思いますよ。
その気になれば、我が国の王都どころか、ピアソン王国の王都にだって、小さくてよければ家が買えると思います」
魔力に余裕がある今だからこれだけ話せますが、何時どれだけ魔力が必要になるか分からない狩りや戦いの時は、ハンドサインや目で気持ちを伝えます。
「ハリー様、いっそどこかの国の騎士家を買い取ってしまいませんか?」
アーサーの提案は一考の余地があります。
「そうですね、私が手に入れた分を全て使ったら、買えるかもしれませんね」
「そういう事を言っているのではなくて、毎回こんな大変な思いをするのは嫌だから、簡単に出入りできる家を買わないかと言っているのよ」
ソフィアの考えも悪くありません。
「ああ、そう言う事ですか、分かりました。
確かに、従業員が出入りするまで外で待つのは辛かったですね」
「そうですね、僕ももう外で待つのは嫌です。
これで雨でも降っていたら、裏口を壊してしまっていたかもしれません」
「もっと簡単に出入りできる家を買うか部屋を借りようよ!」
「ですがソフィア、簡単に買える家や簡単に借りられる部屋は、警備が甘いです。
安心して眠る事ができませんし、ダンジョンに潜っている間に盗みに入られます」
「う~ん、そっか~、でもこのままは絶対に嫌、何か方法はないの?!」
「そうですねぇ、眠る場所は安全なこの宿にしておく方が良いでしょう。
では、帰って来た魔術が解けるまで休むだけの部屋を借りましょうか?」
「それで良いよ、盗まれるような物を置かなければいいし。
待ち伏せされていても、わたしたちなら簡単に勝てるし」
「そうですよ、それが良いですよ、そうしましょう」
「ソフィアとアーサーが賛成してくれるなら、休むだけの安い部屋を借りましょう。
何所が良いのかは、支配人に教えてもらえばいいです。
彼なら他人に話したりしないでしょう」
「それで良いわ」
「僕も賛成です」
「他に何か言っておく事はありますか?」
「私はもうないわよ」
「ハリー様、家や部屋を借りる話で思いついたのですが、人を雇ってみませんか」
「家を借りるなら使用人は必要かもしれませんが、今の私たちの状況では、雇った使用人が襲われる心配があります。
領地から人を呼んだとしても、人質にされる恐れがあります。
領民なら少々の相手には負けないと思いますが、危険は避けた方が良いでしょう」
「いえ、家を管理する使用人を雇うのではありません。
ダンジョンで手に入れた宝物を運ばせる荷物係を雇うのです」
「あっ、それいい、それなら今日よりもたくさんの宝物が運べるよ!」
「確かに良い方法ですね、私たちが隠れる魔法を使ったら、地下71階であろうとモンスターに襲われることなく潜れます」
「そうなのです、それなのです、今の僕たちの魔力総量なら、9人くらいには隠れる魔術を全種類かけられます。
71階まで下りる時間を逆算したら、魔術が解けるまで5時間半は休憩できますから、ダンジョンに潜る頃には魔力も全回復しています」
「そうですね、確かにその方法なら安全に潜れますね。
9人の荷物持ちに魔術をかけた後、魔力がほとんど残っていないのが問題ですが、最悪の状況になったら、魔力回復薬を飲めばいい事ですし……」
「魔力を全て使うのが不安なのは僕も同じです。
つい9人と言ってしまいましたが、3人でも6人でも良いと思います。
3人いれば今日の倍は宝物を持ち帰れます」
「問題は誰を何人雇って、幾ら礼金を払うかですが……」
「そんなの誰だっていいじゃない、残りの魔力が心配なら、魔術をかける度に回復薬を飲めばいいじゃない。
手に入る宝物の額を考えたら、回復薬の値段なんて安い物でしょ!」
ソフィアの言う通りでした、もったいないと思って物を大切にする性格も、時には邪魔になるのですね。
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