第29話:叔父叔母たち
地下40階前後には、冒険者たちが私たちを待ち構えていましたが、50階層にまで潜ると誰もいなくなりました。
50階層から60階層までは全く誰もいませんでした。
そこまで潜っても、魔術が切れる時間まではまだまだありました。
昔は1時間も持たなかった魔術が、今では8時間も9時間も持つのです。
「ソフィア、アーサー、ここまできたら、これまで誰も潜った事のない、地下100階層まで行ってみませんか?」
「いく、いく、いく、どんなところか見てみたい!」
「……常に戦える体制を取ったままなら良いです、潜ります。
ただ、少しでも危険だと思ったら直ぐに逃げます」
「そうだね、ここまで隠れている私たちを見つけられるようなモンスターがいたら、魔境でも出会った事のない強さですね。
そんなモンスターに出会ってしまったら、直ぐに逃げるしかありません。
誰か1人でも生き残る事を最優先にしましょう」
「そんなに心配しなくても大丈夫よ」
「ハリー様とソフィアを見捨てたくはありませんが、僕は母を残して死ぬわけにはいかないのです。
申し訳ありませんが、これ以上深く潜るのなら、2人を見殺しにしてでも逃げさせていただきます」
「当然です、いつでも私を見捨ててください」
「また、また、また、アーサーがわたしたちを見捨てて逃げる訳ないじゃん」
ソフィアはアーサーの言葉を全く信じていません。
私も完全には信じていませんが、見捨てられても恨んだりはしません。
家族を置いて死ぬ方を選ぶ人間も卑怯だと思いますから。
地下100階を目指して更に潜って行きました。
信じられないくらい運が良い事に、地下71階で狩りをしている5人組パーティーを見つけたのですが、なんと、叔父と叔母たちでした!
一瞬逃げ出したくなりましたが、グッと我慢しました。
どれほど隠れていても見つけられてしまうのではないかとドキドキしていました。
おどけて、叔母の1人に近づこうとしたソフィアを結構強く叩いてしまいました。
アーサーも気配を隠したまま強く止めてくれたので、ソフィアも悪戯を諦めてくれたので、そのまま叔父と叔母たち5人の狩りを見学しました。
事前に情報を得ていましたので、信じられないくらい強そうなゴブリンが、ノウビラティゴブリンなのが分かりました。
そんなゴブリンが21体も同時に現れて、鈦剣を鋭く振るってくるのです。
5人は危なげなく確実にノウビラティゴブリンを狩っていきます。
倒したノウビラティゴブリンは何も宝物を落としませんでした。
普通に5人で協力して倒すのでは、71階でも1/10の確率なのでしょう。
それを確認するためにも、5人の狩りを見学し続けました。
71階に現れるモンスターは、ノウビラティゴブリンだけではありません。
進化が1つ低いジェネラルゴブリンも出現していました。
アンデット系では、ジェネラルスケルトンとジェネラルレイスが現れていました。
スケルトンは将軍らしい武器と防具を身に付けていますが、ジェネラルレイスは将軍格モンスターと同じ階層に現れるからそう呼ばれているだけです。
ただ、スケルトンとレイスも進化が1つ下のモノもでていました。
ファイタースケルトンとファイターレイスも出ていました。
叔父叔母たち5人は、私たちと同じように神聖術も魔術も使えますので、どのモンスターが現れても堅実に倒していました。
10回に1回は宝物が落ちるのですが、結構な額でした。
1体につき大鈦貨が1枚落ちるのですから、とんでもない収入になります。
ただ、私たちの目が釘付けになってしまったのは、5人の戦いぶりや落とす宝物ではなく、モンスターが持っている武器でした。
71階に現れるモンスターは、ノウビラティゴブリンとジェネラルスケルトンが鈦剣を持っていました。
ジェネラルゴブリンとファイタースケルトンが、普通の剣より長くて太い鉄長剣を持っていました。
私たちの狙うモンスターは、3人で相談する必要もなく決まりました。
ただ視線を躱すだけで分かり合えました。
鈦剣を持つノウビラティゴブリンとジェネラルスケルトンを完全殺して、鉄長剣を持つジェネラルゴブリンとファイタースケルトン、レイス類は3人で瞬殺する。
私たち3人は、鈦剣を山のように持ち帰る想像をしていました。
私は、叔父叔母たちの戦いぶりを十分に見学できたと判断して、ソフィアとアーサーにもっと深く潜ろうと視線を送りました。
僕よりも気の短いソフィアは、もっと前から深く潜りたくてウズウズしているようでしたが、アーサーに睨まれるので我慢していました。
慎重なアーサーは、もっと見学する気でいたようですが、私が合図を来ると直ぐに見学を止めてくれました。
もしかしたら、叔父叔母たちが狩りを終えるまでか、隠れる魔術が切れる直前まで、見学する気だったのかもしれません。
2時間以上見学していた私たちですが、まだこれから4時間くらい時間を潰さなくてはいけません。
叔父叔母たちの戦いぶりを見続けましたので、今の私たちなら、71階でも十分瞬殺も完全殺も可能だと分かりました。
4時間で71階まで戻って来なければいけませんから、片道に使えるのは2時間になります。
2時間で100階よりも深くまで行けるかは分かりません。
ですが、100階よりも浅くても、1度でも見ておけば安心できます。
少なくとも見た目だけは、聞いていたのと違っていないのかを確認できます。
私たちは走って潜りました。
戻る時にはもっと時間がかかるかもしれないと考えて、潜るのに使うのは1時間30分と決めました。
1時間で100階にたどり着く事ができました。
残る30分で103階まで潜ることができました。
30分で3階層だったのは、もの凄く慎重に潜ったのと、これまで誰も潜った事がないので、101階と102階の地図を作っていたからです。
これまで誰も潜った事のない階層の地図を作るのは、私たちが思っていた以上に時間がかかる事でした。
私たちだけが持っている極秘の地図になります。
101階と102階の地図は、グリフィス騎士家の宝物になるでしょう。
時間まで頑張って、急いで71階まで戻りました。
途中で隠れる魔術が全て切れてしまったら、全く太刀打ちできないモンスターと戦わなければいけないかもしれません。
これまで狩ったモンスターが情報通りなので、100階層でも十分狩りができると思いますが、油断して死んでは笑い者です。
72階層より深い階層だけが、昔と変わっている事などないでしょうが、そんな変な事があるかもしれないと慎重に考えて、急いで72階まで戻りました。
運が良いのか悪いのかは分かりませんが、叔父叔母たちは狩りを終えたようで、71階層にはいませんでした。
私たちは隠れる魔術が全て切れるまで、71階で休憩する事にしました。
ただ休憩するだけでなく、完全に元通りになった魔力を使って、全ての武器に神聖術をかけて、最悪の事態に陥っても切り抜けられる準備をしました。
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