第28話:大失敗

 3人での話し合いが終わり、多くの人に手紙を書いて欲しいと頼みました。

 皆さん好意から書くと約束してくれました。

 多少の礼金は渡しましたが、これは賄賂ではなく純粋な感謝です。


 今直ぐやらなければいけない事を全て終えると、後は狩りの準備です。

 実験のための聖水を用意しました。

 ダンジョンで飲む魔術水も用意しました。


 冒険者組合に行けないので、神聖術の金儲けができません。

 結構な利益になっていたので少々残念ですが、収拾がつかないと予測できる質問責めにされるくらいなら、諦めた方がマシです。


 今日も早めに夕食を食べてダンジョン狩りに備えます。

 有り余る魔力を有効利用するのと、夜のダンジョンで待ち伏せしている冒険者の目を誤魔化すために、見つからないようにする魔術を使いました。


「イクステングウィシ・ザ・ボディ、イクステングウィシ・ザ・プレズンス、エリミネイト・ボディ・オウダ、ミュート・ザ・サウンド、ターン・オフ・ザ・フィーリング、キープ・ユアセルフ・フローム・フィーリング・ヒート」


 狩りをする時、全ての感覚が敏感な魔獣に気付かれないようにするには、自分が気をつけるのは当然ですが、魔術も使います。


 自分の身体が魔獣に見えなくなる魔術。

 第六感、気配でも見つけられない魔術。

 身体から出る臭いを消してしまう魔術。

 自分が立てる音を消してしまう魔術。

 例え身体を触られても分からなくなる魔術

 熱で敵を見つける魔獣もいますので、熱すら見つからないようにする魔術。


 そこまでやって、ようやく狩れるような強大な魔獣もいるのです。

 そのような魔獣でも狩れるから、我が家はとても豊かなのです。

 領民も安心して暮らせるのです。


 ですが、これだけの魔術をじぶんにかけるとなると、そこそこの魔力量を使う事になります。


 ですが、それでも、冒険者たちから質問責めされるよりはマシです。

 これで冒険者たちの目の前を通っても、気付かれないはずです。

 それに、使った魔力はダンジョンの狩場につく頃には回復しています。


 ただ、私はとても大きな失敗をしてしまいました。

 取り返しがつかない訳ではありませんが、随分と時間を無駄にしてしまいました。


 あまりにも厳重に自分たちを隠してしまったので、ダンジョンが私たちを見つけることができず、境界線を超えてもモンスターが出現しないのです。

 これには参りました、40階についたのに狩りができないのです。


「ねえ、ここで待っていても時間がもったいないよ、先にかけた魔術が解けるまでに、もっと深くにまで潜ろうよ」


 ソフィアの言う通りです、時間も魔力ももったいないです。

 ただ、お母さんのために絶対に死なないと誓っているアーサーがどう言うかです。


「アーサーはどう思いますか?」


「どこまで潜るかにもよりますが、ある程度までなら潜っても良いです」


「やったね!」


「そうですか、賛成してくれるのですね、ありがとうございます」


「ですが、最初は完全殺を狙わないでください。

 3人がかりで戦ってみて、僕が完全殺をやっても大丈夫と判断するまでは、安全第一でお願いします」


「良いよ、良いよ、それで十分、私たちならもっと深くても楽勝だよ」


「分かりました、アーサーが安心できない限り、無理な狩りは絶対にしません。

 そうですね、これだけ完璧に隠れられているのですから、他の冒険者が狩りをしているのを見学しましょう」


「えぇえええええ、人の狩りなんて見てもしかたないよ。

 狩りは、自分でやって獲物を手に入れなきゃ面白くないよ!」


「確かに獲物を手にできない狩りは面白くないですが、安全のためです。

 事前に情報は集めていますが、その通りに現れるかを確認するのです。

 それに、情報で聞いただけのモンスターと現実のモンスターとは全然違います。

 目の前で他の冒険者が狩りをしているのを見た方が実感できます」


「ハリー様がそこまでしてくださるのなら、安心できます。

 目の前で狩りが見られれば、自分たちと他の冒険者を比較して、安全に狩りができるか確認できます」


「分かったわよ、だけどそこまでやるなら、一気に深く潜っても大丈夫じゃない?」


「はい、現れるモンスターと冒険者の戦いが見られるなら、最適な狩場まで一気に潜れますが、この時間では確実ではありません」


 アーサーが私の見落としを指摘してくれました。


「あっ、そっか~、この時間にいる冒険者は私たち狙いだけかぁ~」


「申し訳ありません、夜に潜っているのを忘れていました」


「はい、地下60階も70階もの深くにまで潜れるような実力者は、健康のためにも昼間に潜っていると思われます」


「分かったわ、しかたないわね、期待して損しちゃったよ」


「ですがハリー様、地下60階や70階まで潜るような実力者なら、泊りで狩りをしているのではありませんか?」


「その可能性はありますが、そんなパーティーなら、夜は仮眠していると思いますから、期待はし過ぎないでおきましょう。

 思いつくままに言ってしまったので、妙に期待させてしまいましたが、今言った事は昼間に潜る時にやってみましょう」


「アアアアア、そうか、この隠れる魔術を使えば、昼間も潜れるのか!」


「はい、ダンジョンですら見つけられない隠れ方です。

 王都にいる冒険者たちに見つけられるとは思えません」


「だったら今日は我慢してあげるけど、明日の昼は潜れる所まで潜ってよ。

 できれば銹製の武器が落ちる所まで潜ろうよ。

 そうすれば直ぐに銹剣を使えるよ!」


「物凄く魅力的な話ですが、欲に目が眩んで命を危うくする気はありません。

 ソフィアにも絶対にやらせません。

 必ず生きて連れて帰ると、ソフィアのお父さんと約束しているのですよ」


「分かっているわよぉ~、お父さんの事を持ち出さないでよ」


「分かってくれているのなら良いです。

 では、安全を最優先にできるだけ深くまで潜りましょう」

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