第25話:武器商人

 支配人の言う事は本当でした。

 急いでやって来た騎士は、王家の血が流れているグラハム伯爵家のジャスパーを、ちゃんと犯罪者として連れて行きました。


 王国の騎士にも心ある者がいるのだと感心しました。

 ただ、私たちが叩きのめす前のように、ジャスパーが王家の騎士を言葉と武力で脅していたら、同じ様に取り締まれなかったかもしれません。


 領地持ち騎士家である我が家は、ダンジョン騎士よりも格上になります。

 王侯貴族が、王家、伯爵家、領地持ち騎士家、ダンジョン騎士しかいない我が国では、領地持ち騎士家の地位は他国と比べ物にならないくらい高いのです。


 王国中から嫌われているグラハム伯爵家と、伯爵令息を恐れずぶちのめしたグリフィス騎士家一行。


 ダンジョン騎士がそれ両家を比べて、武力で圧倒しているグリフィス騎士家一行を恐れて従ってとも考えられます。

 それだと、ダンジョン騎士は憶病な卑怯者となります。


 ……そんな風に考えてしまうようになってしまった、自分の事が少し嫌になってしまいました。


 王都に来るまではこんな風に考えた事もありませんでした。

 王族は尊敬できる存在で、多くの騎士は誇り高く勇敢だと思っていました。

 全く違う現実を見て、悪い方に考えるようになってしまったのです。


「ハリー様、イーライでございます。

 武器商人が参りましたので、共にご挨拶に来させていただきました。

 お部屋に入らせていただいて宜しいでしょうか?」


 スイートルームの片付けが終わり、宿の食堂からスイートルームの食堂に戻っていた私たちに、支配人が廊下から声をかけてきました。


「どうぞ、入ってください」


 廊下につながる扉と接しているのは、護衛や付き人が寝起きするコネクティングルームで、間に食堂を挟んで私が眠る寝室になっています。


 3人で、有り余る魔力を無駄にしないように、水晶瓶に聖水を詰めていたので、ソフィアやアーサーに扉を開けてもらう訳にも行きません。


 それに支配人がその気になれば、合鍵で扉を開ける事ができます。

 宿の警備を考えれば、内部の者が手を貸さない限り、騒ぎもなしにスイートルームにまでは来られません。


 現に、ジャスパーをコンシェルジュが止めてくれていました。

 まあ、私たちが起きている間は、鍵を開けていても不意討ちされたりしません。


 襲ってくる奴は、全員返り討ちにしてやります。

 その自信が、起きている間は鍵をかけない事につながっています。


「失礼いたしますハリー様、こちらがハービー商会のドミニクでございます。

 我が国を含めた近隣の小国だけでなく、ピアソン王国にも支店を出し、武器を売り買いしております」


「初めて御意を得ます、ハリー卿。

 支配人が紹介してくださいましたが、改めて自己紹介させていただきます。

 ハービー商会の会長をさせていただいております、ドミニクと申します。

 以後お見知りおき願います」


「わざわざ部屋まで来てくださってありがとうございます。

 こちらこそ宜しくお願いします」


「私のような平民に丁寧な挨拶を賜り、感謝の言葉もございません」


「挨拶に時間を使い過ぎると何もできなくなりますから、本題に入らせていただきますが、宜しいですか?」


「その方が助かります」


「最初に話していたよりも武器の量が増えているのは聞いてくれましたか?」


「支配人から聞かせてもらっています」


「受付に預けている武器は確認してくれましたか?」


「はい、すでに確認させていただいております」


「売り物である武器に不審や不足はありましたか?」


「いえ、全く傷がなく、こちらから値引きをお願いしなければいけない点は、何1つありませんでした。

 お約束通り、冒険者組合が提示している料金で買い取らせていただきます」


「しつこく聞いて申し訳ありませんが、鉄剣が大鉄貨60枚、短鉄剣が大鉄貨30枚、鉄槍が大鉄貨30枚で良いのですね?」


「はい、結構でございます」


「それでどうやって利益を上げられるのですか?

 我が国では、鉄貨を必要な枚数渡せば鉄剣を造ってもらえます。

 こんな誰が使っていたか分からない鉄剣を、この値段で買う者がいるのが不思議なのです」


「ハリー卿、全ての国にダンジョンがあるわけではありません。

 ダンジョンがない国は、他国から武器や硬貨を手に入れなければなりません。

 特に争いの多い国では、3倍4倍の値でも買いたいと思っているのです」


「なるほど、そう言う事でしたら、この値段で買ってくれるのも分かります。

 それでピアソン王国にも支店を持っているのですね」


「ポーウィス王国の民としては複雑な気持ちなのですが、多くの小国に戦争を仕掛けているピアソン王国は、多くの武器を高値で買ってくださるのです。

 ピアソン王国に狙われた小国も、多くの武器を高値で買ってくださるのです」


「1つ教えて欲しいのですが、ピアソン王国は今も武器を買っているのですか?」


「はい、最近は特に武器を買い集めております。

 特に私を通じて買っていただいております」


 ほう、全て正直に話してくれるのですね。

 この話が本当でしたら、ピアソン王国は我が国に攻め込む準備をしています。

 国王陛下はこの事を知っているのでしょうか?


「では、この部屋に置いてある武器も全部買ってくれるのですか?」


 先の話を聞いてしまったら、武器を売るのに罪悪感を持ってしまいます。

 私の売った武器が、この国を攻め込むときに使われます。

 最悪なのは、私が売った武器で国民が殺されてしまう事です。


「はい、喜んで買わせていただきます」


「ではじっくりと品定めをしてください」


「お言葉に甘えまして、全部確認させていただきます」


 さて、これからどうするべきでしょうか?

 ここで知った事を国王陛下に直訴するべきでしょうか?


 そうする事で、少しでも罪悪感を軽くしたいのは、私の弱さですね。

 ダンジョンで手に入れた物を売る事は冒険者の権利です。


 そもそも王国法が定めた12歳の義務がなければ、私たちはダンジョンに来る事もありませんでしたから、武器を手に入れる事もなかったのです。


 大本を辿れば、全て王家王国が定めた法が原因です。

 私たちが損をしなければいけない理由にはなりません。


「ねえ、ねえ、ハリー、この利益で鈦貨が溜まったら、鈦剣を造らない?」

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