第22話:眠れない夜
私たちは、何時もの他愛のない口喧嘩をして時間を潰しました。
もちろん使った聖水は全部補充しました。
それでも1時間くらいしか時間を潰せませんでした。
「ねえ、どうせ眠れないならもう1度ダンジョンに潜らない?」
「僕は良いけれど、ハリー様も良いですか?」
「そうですね、ここで時間と魔力を無駄にするのはもったいないですね」
「じゃあ今直ぐ行こう!」
まだ日付が変わっていませんから明日の事になるのですが、これからダンジョン狩りを行えば、結構疲れるので眠れるでしょう。
それなりの睡眠時間はずれてしまいますが、完全に昼夜が逆転してしまうよりは良いです。
朝遅い時間に起きてみて、高級宿の支配人が鉄製武器の売り先を探してくれたら、日中に行って値段交渉する事ができます。
武器商人との交渉が上手く行かなかったら、叔父や叔母たちを頼りましょう。
表向きは叔父や叔母たちを頼ってはいけない事になっていますが、鉄製武器の売り先を探してもらう事くらいは許されるでしょう。
ダンジョンで手に入れる武器が1000も2000も超えたら、宿も流石に預かってくれなくなります。
そんな事になったら、叔父や叔母たちの家に預かってもらうしかありません、などと考えたのは一瞬の事です。
直ぐに現実に戻って、部屋係に再度組合に行ってもらいました。
1日2度ダンジョンに潜るという報告です。
こんな雑用を無料でやらせるのはマナー違反です。
心付けとかチップとは言う手間賃を払います。
金額は使う人間と使われる人間の身分によりますが、騎士家の令息である私が、高級宿の部屋係を使うなら、大鉄貨2枚が相場でしょう。
今日だけで3度目になりますから、大鉄貨6枚ですね。
これが冒険者として王都のそこら中にいる子供を使うのなら、小銭貨か小鉄貨を1枚渡せば済むのですが、身分と場所が違うととんでもない出費になります。
部屋係は私たちが宿を出るのと同時に組合に行ってくれました。
少しでも早く雑用を済ませたいのか、凄い勢いで走って行きました。
本当なら眠っている時間なのに、申し訳ないです。
私たちは又2時間ほどダンジョンで狩りをして、1人鉄剣36、鉄短剣18、合計45kgの大荷物を持って帰りました。
硬貨も結構手に入れましたが、もう数えるのは止めました。
400枚前後だと思いますが、数える時間があれば狩りに使います。
ようやく眠くなってきたので、早く眠りたかったのです。
今日最後、いえ、今日最初の報告を部屋係に頼みました。
冒険者組合にダンジョンから戻ったという報告です。
夜が明けてからで良いか、とも思いましたが、それでは部屋係が仕事を残す事になり、支配人に怒られるかもしれません。
王侯貴族の仕事は命がけなので、寝不足くらいでは後回しにできません。
私たちなら全く気のしない事でも、他の王侯貴族が相手だと、殺されてしまうかもしれないのです。
まあ、最後の報告さえ終えてしまえば、後は私たちが起きるまで安眠出来ます。
それに、起きたら部屋係が変わっているかもしれません。
報告専門に、12歳前の子供を部屋係の下につけるかもしれません。
私たちが変に気をまわさなくても、高級宿ともなれば、王侯貴族に失礼の無いように、最善の方法を取るはずです。
私たちが目を覚ましたのは、何時も起きる5時よりも4時間も遅い8時でした。
仮眠を除いて6時間眠れましたから、思っていた以上に壮快です。
「おはようございます、ハリー様」
「おはようアーサー、ソフィアはまだ眠っているのか?」
「いえ、起きているのですが、まだベッドで横になっていたいそうです」
「朝御飯を頼むかい?」
「ハリー様がよければ、非常食用のチーズと白パン、残っているワインで朝食を済ませたいのですが、宜しいでしょうか?」
「構わないですよ、少しでも美味しい内に食べないともったいないですからね。
ソフィア、朝食を済ませたら支配人を呼んで話をします。
場合によったら、武器を売るために外に出るかもしれません。
宿に残るのならそのままで良いですが、外に出たいのなら用意してきなさい。
1人で外を出歩く事だけは絶対に許しませんよ!」
私は大声を出して、食堂の向うの部屋、コネクティングルームのベッドでゴロゴロしているであろう、ソフィアに話しかけました。
「する、する、直ぐ用意するから待って!」
ソフィアが慌て着替える気配がします。
着替えると言っても、楽に寝られる下着の上から戦える服を着て、防御力のある装備をつけるだけです。
ソフィアくらい強ければ、12歳の義務を済ませた首都のゴロツキが相手でも軽く勝てるのは、初日の出来損ないを見て分かりました。
だからこんなに口煩くする必要はないのですが、領地を出る時にソフィアの家族から『くれぐれも宜しく』と頼まれているのです。
どれほど強くても娘や孫娘は可愛いのでしょう。
魔境の強い魔獣が相手でも全く怯まない村1番の猟師や、人並外れて肝の太い母親が、涙を浮かべて村を出る娘を心配していたのです。
領主の息子としては、何があっても守らなければいけません。
例えそれがキングウルフですら逃げ出す猛者でもです。
「ソフィアの着替えが終わったようですので、支配人かコンシェルジュに、武器の話がどうなったか聞いてきます」
アーサーがそう言って受付にまで行ってくれました。
そして直ぐに宿の支配人を連れて来てくれました。
「失礼したします、おはようございます、ハリー卿」
「おはようございます、イーライ支配人」
「昨日ご相談していただきました、武器の件でございますが、冒険者組合と同じ条件で買い取ってくれる者が見つかりました」
「数はどうですか、昨晩の間に随分と増えたのですが?」
「昨晩2度もダンジョンに潜られて、驚くほどの武器を手に入られたというのは、部屋係から報告を受けております。
申し訳ございませんが、増えた武器については分かりかねます。
少なくとも最初にお預かりさせていただいた武器に関しては、全て買い取らせていただくという返事をもらっております」
「それで十分です、増えた武器に関しては、こちらでも処分の方法を考えます」
「そうしていただければ助かります」
「お待ちください、どうかお待ちください、こちらには騎士家の方が泊まられているのです!」
「黙れ、これ以上王族に逆らうようなら斬り殺すぞ!
騎士家のガキがどうした、俺様は王族だぞ、逆らうようなら殺すだけだ!」
この声は聞き覚えがあります。
グラハム伯爵家の出来損ないが押し入ってきたようですが、何の用でしょう?
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