第21話:言葉遊び
私たちは予定通り20時に高級宿を出てダンジョンに潜りました。
ダンジョンには夜も昼も関係ありませんが、人間には関係あります。
人間は陽の出ている時間に働き、陽が落ちたら休むように出来ています。
生きていくために仕方なく陽が暮れてから働く場合もありますが、そんな生活を長く続けていると病気になってしまいます。
長年ダンジョンで狩りを続けた冒険者たちの貴重な経験で分かっている事です。
私たちもずっと夜に狩りをする気はありません。
騒ぎが落ち着いたら、普通に陽の出ている時間に狩りをする予定です。
それに、今の私たちなら狩りの時間が凄く短くてすみます。
長く狩ってしまうと、持ち帰れないくらいの宝物になってしまいます。
浅い階は、できるだけ戦いを避けて通り抜けました。
棍棒や銭製の武器を持っているモンスターは、完全同時に倒さないようにして、鉄短剣や鉄剣を持っている敵だけ、順番を決めて完全殺しました。
私たちが新発見したモンスターの倒し方をどう名付けるのか、3人で話し合ったのですが、中々言い名前が思い浮かびませんでした。
弱点属性1人完全同時攻撃では、意味は通じますが少々長すぎます。
色々候補が浮かびましたが、短く表す方が良いという事になり完全殺としました。
嫌なら誰かが別の呼び方を使い始めるでしょう。
ダンジョンを潜る時間、狙ったモンスターを狩る時間、戻って来る時間。
全て合わせて2時間ほどで、もうこれ以上持ち帰れないくらい宝物を集めました。
1人で鉄剣36、鉄短剣18、合計45kgの大荷物です。
鉄槍を持っているモンスターは、武器を落とさないようにして倒しました。
鉄を使っていますが、柄の部分が木なので、その重さがもったいないからです。
どうせなら、重さの全部が換金できる鉄剣か鉄短剣を手に入れたいですからね。
「仮眠しちゃったから全然眠くないよ、どうしようか?」
ソフィアが宿の外に出たそうに言います。
「明日からは仮眠を取らないようにしましょう」
王都の夜は問題があると聞いているので、宿からは出さないという決意を込めた表情で答えます。
「そうですね、それが良いと思います」
アーサーも同意見だと賛成してくれました。
「明日からはそれで良いけど、これからどうするの?」
私の考えくらい表情を見て分かっているはずなのに、宿から出させろと言う気持ちを目に込めて聞いてきます。
「眠くなるまで今日の事とこれからの事を考えましょう」
顔だけは大人しそうな美少女のソフィアを、深夜の王都に出す訳にはいきません。
更に厳しい表情を作って答えてやりました。
「今日の事と言いますと、聖水を使った実験ですか?」
アーサーの私を助けるように話し合いの場にしようとしてくれます。
「はい、良い武器を持っていないアンデットは聖水で倒すようにしました。
それもわざとタイミングを外して、完全殺にしないようにです」
「それがどうかしたの?」
よかった、ソフィアも諦めてくれたようです。
鈦剣を少しでも早く手に入れるための、効率的な狩り方を話題にしたのが良かったのでしょう。
「神聖術でアンデットを完全殺すれば、武器を落としてくれるのは分かりました。
それを聖水でやったらどうなるのか、確かめたいと思っています」
「えええええ、めんどう~」
「確かに面倒ですが、それを言えば完全殺も同じですよね。
ハリー様は聖水を使った完全殺なら、神聖術を使った完全殺よりも良い物が落ちると思っておられるのですか?」
「絶対にそうなると思っている訳ではありません。
ただ、倒し方が難しいほど良い物を落とす気がするだけです」
「そうですね、確かに倒し方が難しいほど宝物が良くなっています。
どうせ魔力が余るのですから、確かめても良いですね」
「分かったわ、お金に生るなら頑張る、1日でも早く鈦剣が欲しいし」
「では、明日からも同じように完全殺で金儲けをしながら、聖水を使った実験を重ねる、でいいですね?」
「了解」
「はい、それで大丈夫です」
「それとこれは個人的な事なのですが、食事は個人負担ですよ」
「それくらい分かっているわよ」
「はい、その心算でした」
「アーサーはお母さんのためにお金を貯めていたと思うのですが、方針を変えたのですか?」
「僕たちを助けてくださったグリフィス騎士家の恥になるような言動はできません。
それに、お母さんの美味しい料理を作ってあげられるように、ここの料理を覚えたいとも思ったのです」
「なるほど、そう言うことなら分かります。
確かに、愛する家族には美味しい料理を食べさせてあげたいと思いますね」
「私は食べさせてもらう方が良いなぁ~」
「ソフィアは料理上手な旦那さんを探さないといけませんね」
「まっかっせっなさあ~い」
「ソフィアの美貌と狩りの腕があれば、絶対に逆らわない料理上手な旦那さんが見つかると思いますよ」
「ぶぅ~、私の事馬鹿にしていない?」
「馬鹿になんてしていませんよ、私の叔母上たちの事は覚えていますか?」
「ハリーの叔母さんたち、覚えているけど?」
「4人ともダンジョン騎士になりましたが、2人は家を守ってくれる大人しい旦那さんを見つけましたよ」
「残る2人はいまだに独身じゃない!」
「男前で、料理上手で、絶対に浮気をしない、自分だけを愛し続けてくれる旦那さんを、必ず見つけると言っています。
狩りの名人ですから、言葉通り手に入れるに違いありません」
「ぶぅ~、私も力尽くでないと旦那さんが見つからないと言いたい訳?」
「あれ、その心算で武術も魔術も神聖術も学んだのではないのですか?」
「狩りに役が立つから決まっているじゃない!」
「ですが、ここまで強くなってしまうと、並の男では近づけませんよ。
それでなくても村1番の狩人であるソフィアのお父さんを、村中の若者が恐れているのですから」
「ぶっぶ~、家の村の若い衆なんて、最初から期待していないわよ。
私より弱い男なんて最初から相手にしてないの!
王都なら国中の12歳が集まって来て、ダンジョン騎士に成るような子もいるじゃない!」
「そんな将来有望な男の子が、ソフィアの尻に敷かれる一生を選びますか?」
「そこは私の美貌で虜にしてあげるわ!」
「……頑張ってください、私も将来領内1番の狩人になるソフィアを他所にやりたくありませんから、優秀な婿を取ってくれるのなら、それが1番です」
「ハリー様、僕は一生領地に残ります」
「アーサーには期待しています」
「私の事は期待していないって言うの?!」
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