第19話:今後の狩りの相談

 大発見をする前の予定では、高級宿では寝るだけにして、食事は肩肘張らずにすむ冒険者組合の食堂で済ませるはずでした。


 ところがとんでもない発見をしてしまったので、冒険者組合に戻ると質問責めにされてしまうのが目に見えています。


 隠せるとは思っていませんので、広まるのはかまわないのですが、面倒な説明は1度で済ませたいのです。


 幸い宿の支配人が良くできた人だったので、手に入れた武器をスイートルームに運ぶ事なく、預かり証を発行して受付で預かってくれました。


「どうすれば良いと思いますか?」


「余計な説明をしなくていいように、受付に寄らないで潜ったら?」


「僕もそれが良いと思います、今回に限っては組合の対応が悪すぎます」


「私もそう思いますが、現実的ではありません。

 誰に突っ込まれても言い逃れができるようにしておかないといけません」


「面倒な事はハリーが考えてよ」


「僕は一緒に考えさせていただきますが、直ぐには何も思い浮かびません」


 12歳の義務として、毎日ダンジョンに潜った証拠は必要ですが、病気やケガのような正当な理由があれば、潜らない日があっても許されます。


 小狡い大金持ちや王侯貴族は、受け付けだけ12歳の子供1人にやらせて、実際には大人の護衛に守らせてダンジョンに潜っています。


 昨日食堂で聞いた最低最悪の噂には、ダンジョンに入っている子供が影武者だというモノまでありました。


 流石に嘘だと思いたいですが、この国が徐々に腐っているのなら、絶対に無いとは言い切れません。


 国民からの信頼があれば、最初からこのような噂が広まる事はありません。

 私は誰に忠誠を捧げればいいのでしょうか?


 おっと、今は余計な事を考えている時ではありませんでした。

 大発見を聞こうと群がる冒険者たちをどうするかを考える時でした。


「このホテルの従業員にダンジョンの出入りを伝えてもらおうと思いますが、どう思いますか?」


「それで良いんじゃないの?」


「ソフィアも真剣に考えてください、私たち3人の事なのですよ!

 ハリー様の考えは悪くないと思います。

 ただ、絶対に言い掛かりを躱せるとは言い切れません」


「そうですね、絶対に言い逃れできる方法ではありませんね。

 ですが、少々の危険を冒してでも、殺到する冒険者たちを避けたくなりました」


「わたしも絶対に嫌よ、騎士家の権力を前に出しても避けられないの?」


「そうですね、反感を買うのを覚悟すればできるでしょうが、何かあった場合は殺し合いを覚悟しなければいけないと思いますよ」


「ハリー様に危険が及んではいけません。

 お金儲けができないのは残念ですが、病気を理由にする事を考えても良いのではありませんか?」


「えええええ、お金儲けは頑張ろうよ!」


「よし、決めました、少々の難癖は手に入れた宝物で黙らせます。

 それでもしつこくつきまとう奴はぶちのめします。

 気の良い冒険者たちは、それなりに酒を奢れば笑って許してくれるでしょう。

 ダンジョンへの出入りは宿の伝令に頼みます」


「そう決めてくれたのなら、それで良いよ」


「僕もハリー様が決められた事なら従います」


「ダンジョンに潜るのは人の少ない夜にします。

 今日もこれから仮眠して、夜の狩りに備えます」


「えええええ、夜は眠いよ、休もうよ」


「文句ばかり言うのは止めてください!」


「夜に潜ると言っても短時間だから大丈夫ですよ。

 今の私たちなら、ダンジョンに潜って直ぐに武器という宝物を手に入れられます」


「そっか、だったら良いよ」


「ですがハリー様、最低でも鉄剣や鉄短剣を落とすモンスターが出る深さまで潜らなければいけないのですよね?」


「そうですね、銭製の短剣や槍では満足できないのでしょう?」


「それはもちろんよ、同じ重い武器を持って上がるなら、少しでも高い方が良いよ」


「僕もソフィアと同じです、できるだけ高い武器が欲しいです」


「40階まで一気に潜る心算で、途中でどうしても現れるモンスターは、持っている武器によって経験値を稼ぐ奴と武器を落とさせる奴に分けましょう」


「それが良い、それなら経験値もお金も稼げるね」


「僕もそれが良いと思います」


 3人の意見が纏まりましたので、後は夜のダンジョン狩りに向けて仮眠だと思ったのですが、その前にお腹が減って来ました。


 ダンジョンで大金を手に入れていますので、高級宿で食事をしても支払いは大丈夫なのですが、問題はソフィアのマナーです。


 私は騎士家の嫡男として食事のマナーを叩きこまれていますし、アーサーも館で働いていますので、最低限のマナーは心得ています。


 ソフィアも全くマナーが分からない訳ではないと思います。

 マナーを守って食べると味がしなくて嫌なだけだと思います。


 こんな事で言い争うのも嫌ですから、今日ダンジョンで食べる心算だった黒パンとチーズ、ワインで少し遅い昼食を済ませる事にしました。


 コン、コン、コン。


「ハリー卿、入らせていただいて宜しいでしょうか?」


 昼食を食べ終えて仮眠をしようとしていたら、支配人のイーライが部屋を訪ねてきました。


「どうぞ」


 私の返事と同時に、急いでドアの前に行ってくれたアーサーが、支配人を迎え入れてくれました。


「失礼いたします、不躾な事を伺わせていただくのですが、今は組合の食堂を使えないのではありませんか?」


 支配人は私の事を騎士家の令息として扱う気のようです。

 直接話しかけずに、家臣であるアーサーを通じて話します。


「そうなのです、無遠慮に質問されて、まともに食事できないと思われます」


「もし宜しければ、こちらで食事を準備させていただきます。

 スイートルームでお泊りの方には、お部屋に食事を運ばせていただくサービスがございます」

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