第18話:困惑

 私の推論は見事に当たっていました。

 1人で、完全に同時に全てのモンスターを、苦手な属性魔術で急所を1撃で貫いて倒すと、持っている武器を落として行くのです!


 ソフィアとアーサーの2人は、39階より上の階だったので、9体しかモンスターが現れません。


 しかも1番多く現れるのがレイスなので、何の武器を持っていません。

 更に言えば、空中を飛び回るレイスに、全く同時に神聖術を急所の当てるのはとても難しくて、何度やっても硬貨しか落としませんでした。


 1度の戦いで大鉄貨45枚ならそれなりに美味しい収入なのですが、鉄剣9振りに比べると1/15なので、ソフィアは地団駄踏んで悔しがりました。


 アーサーも表情には出しませんが、内心ではとても残念がっているのが、長年一緒に暮らしてきた私には分かります。


 2人が9振りの鉄剣を手に入れたのは、スケルトンを9体倒した時です。

 どうしても鉄剣を手に入れたかった2人は、スケルトンが9体現れる30階で何回も粘っていました。


 その間にもホブゴブリンやゴブリンが9体出る事があり、もったいないのと、偶然ではない事を検証するために、土属性の魔術で同時に倒しました。


 結果は常に持っている武器を落とす事が分かりました。

 穂先が鉄の槍が18本、鉄剣が27振り追加で手に入りました。

 合計57kgも担いで地上までの戻るのは結構大変でした。


「ハリーさん、それはどうされたのですか?!」


 これほどの新発見です、本当なら黙って独占したいです。

 ですが、これだけの大荷物を隠して地上に上がる事などできません。

 100組以上のパーティーに見られてしまっています。


「アンデット系のモンスターを神聖術だけで倒すと、武器を落とすようです。

 この成果は、1人でスケルトンを同時に倒した時に落とした物です。

 以前にこんな事はありましたか?」


「そんな話は聞いた事がありません!

 直ぐに信じられない話ですが、目の前に宝物があるので、信じない訳にはいきませんが、本当に信じられません!」


 冒険者たちが多くいる時間なら大混乱になっていたでしょう。

 ダンジョンに潜って早い時間に、持って帰るのも大変な量の宝物を手に入れたので、冒険者が1番少ない昼過ぎに戻って来る事になりました。


「信じてもらえるかどうかは別にして、これは換金してもらえるのですか?」


「使い古した武器を引き取らせていただく事はありますが、1度にこれだけの量となると……」


「預かって頂く事はできますか?」


「組合長がいれば安心して預かれるのですが……」


「では記録だけ取っておいてください。

 運が良いのか悪いのか、信用できる宿に移っています。

 そこで預かってくれるか確認してみます」


「申し訳ありません、そうしていただけると助かります」


 私たちは重い宝物を持って高級宿に戻りました。

 朝にいたドアマンとは違う2人が入り口を守っていました。


「大荷物ですが、お持ちさせていただいて宜しいですか?」


 高級宿のドアマンだけあって、朝の事をちゃんと引き継いでいました。

 私たちの特徴を伝えておいて、2度と無礼を働かないようにしていたのです。


「重いのに申し訳ないですね」


「これも私たちの仕事でございます。

 お荷物を運ばせていただきなさい」


 ドアマンの言葉を受けて、入り口の内側で待ち受けていた荷物係、ポーターが私たちの荷物を持とうとしてくれましたが、多過ぎました。


「全部は無理ですね、槍だけを運んでください」


「直ぐに人を集めて運ばせますので、宜しければそこに置いておいてください」


 宿の受付にいた壮年の男性が素早く出て来て話しかけてきました。


「支配人をさせていただいております、イーライと申します。

 朝だけでなく、2度も失態を重ねてしまいました。

 3度目は絶対に無いようにさせていただきますので、どうかお許しください」


「いえ、このような大荷物を、こんな時間に持ち込む客はいないでしょう。

 不運が重なっただけなので、気にされなくていいですよ」


 この宿では、騎士家の令息として振舞った方がよさそうですね。


「寛大な心でお許しいただき感謝の言葉もございません。

 ロビーの椅子でお休みいただいている間に、お荷物を運ばせていただく者を呼んで参りたいのですが、宜しいでしょうか?」


「その前に支配人に聞きたいことがあるのですが、良いですか?」


「私に分かる事でしたらお答えさていただきます」


「思いがけない事があって、これらの武器を手に入れたのですが、武器を買い取ってくれる所に心当たりはありませんか?」


 高級宿の支配人に、信用出来る所、なんて野暮な言葉を足す必要はないです。


「冒険者組合以外で宜しいのでしょうか?」


「はい、組合長が不在なので、1度の大量の武器は引き取れないと言われました。

 これが12歳の義務でなければ、領地に持ち帰るのですが、今は勝手に領地に戻れないので、困っているのです」


「ハリー卿の事情はコンシェルジュから聞いております。

 冒険者組合と同じ条件で買い取ってくれる商人を確認しておきますので、それまでお待ちいただけますか?」


「はい、特に急ぎませんので、待たせていただきます。

 ただ、私たちがダンジョンに潜っている間、この武器を預かってもらう事になるのですが、迷惑にはなりませんか?」


「迷惑などとんでもありません。

 わたくしどもを信じて預けていただけるなら、これほど光栄な事はありません」


「よかった、捨てるのはもったいないですし、かといって12歳の義務を放棄して宿に残る訳にも行きませんし、困っていたのです」


「12歳の義務のお手伝いをさせていただけて光栄でございます」

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