第12話:朝食と売魔力
昨日の晩御飯では、強面の冒険者に絡まれてしまいました。
本心は分かりませんが、口にしたのはまだ稼げない12歳への支援でした。
金を寄こせとか、狩りを手伝えとかではなく、僕たちが食べ残す堅パンとスープを分ける事だったので、直ぐに了解しました。
そのまま酒を飲む流れになってしまいましたが、ソフィアがいるのでエールを2杯飲んだだけでの部屋に戻りました。
薄いエール1杯で小銭貨5枚なら、田舎と比べてもそれほど高くありません。
酒が高いと冒険者の文句が激しいのかもしれませんね。
多くの冒険者が食事よりもエールで栄養を取っているのでしょう。
「おはようございます、朝の魔力は売れますか?」
起きて直ぐに3人で受付に行きました。
ダンジョンに潜っている間も、ちゃんと食べておけば魔力は回復します。
寝て完全に回復した魔力を売っておかないと損ですから。
「魔術水と薬の再生は昨日やってもらいましたので、今朝はありません。
有るのは武器に神聖力を付与していただく事か、聖水を作って頂く事です。
希望者がいないか聞いてみましょうか?」
「お願いします」
神聖術は、アンデット系モンスターに効果があります。
僕たちが全く魔力を使っていない事に驚かれたのは、スケルトンを倒すのに、普通は神聖術を使うからです。
僕たちは非常識なくらい正確な攻撃ができるので、スケルトンの急所を一撃で破壊する事ができますが、普通は何所を攻撃しても効果のある神聖術を使います。
神聖術が使えない場合は、神聖術士にお金を払って神聖な力を武器にまとわせるか、神聖な力の籠った聖水を使う事になります。
神聖術の攻撃でないと効果の少ないアンデット系は、並の冒険者がとても苦戦する難敵なのですが、ダンジョンでは一定の割合で出現してしまいます。
その時のために武器に神聖力を付与してもらうか、聖水を買っておくのです。
中級神聖力付与:大鉄貨20枚
中級聖水 :大鉄貨4枚
下級神聖力付与:大鉄貨5枚
下級聖水 :大鉄貨1枚
まあ、絶対に必要な武器かと言われれば、そうでもありません。
駆け出しならスケルトンが現れる深さまでは潜りません。
そこそこ戦える冒険者なら、時間をかけて攻撃すれば、いずれ急所に当たります。
ただ、運が悪かったり疲れたりしていると、普段は絶対に負けないようなスケルトンから、きつい攻撃を受ける事もあります。
できるだけ効率的に、早く狩りがしたいパーティーもいます。
そういうパーティーで、神聖術士がいない場合は、武器に神聖力の付与を希望したり、聖水を購入したりします。
あとは30階よりも深くにいる、レイスのような実体を持たないモンスターとの戦いに備える為ですね。
「を、坊主たちが神聖力を付与してくれるのか?」
「おい、おい、おい、大丈夫かよ、本当に効果あるのか?」
「この子たちの実力は冒険者組合が保証します、安心してください」
「だったら1度試しに頼もうか」
「そうだな、レイスの急所に上手く当てるのは難し過ぎるからな」
朝ダンジョンに潜る前の慌ただしい時間なの、思っていた以上に多くの人から依頼がありました。
武器への神聖力付与は、半日持てばいい方で、多くの場合は7時間程度で効果が消えてしまいます。
武器に神聖な言葉を刻んでおけば長く効果が留まると言われているので、メニューになかった彫金を頼む者まで現れてしまいました。
彫金:大鉄貨20枚
彫金だけでは効果がなく、神聖力付与と組み合わせなければいけないので、地下30回よりも深く潜れないと採算が合わないのですが、頼む人がいました。
こんな事にお金を使うのなら、神聖術を覚えた方が良いのでないでしょうか?
或いは神聖術士をパーティーに向かえた方が良いのではないでしょうか?
「ハリー君はあまり常識を知らないようだから、教えておいてあげる。
魔術を使える人も少ないけれど、神聖術を使える人はもっと少ないのよ。
神聖術士がいないパーティーの方が圧倒的に多いの。
3人も神聖術士がいるパーティーなんて、貴方たちが初めてよ!」
どうやら僕は、家族に騙されていたようです。
騎士家に生まれた者なら、魔術も神聖術も使えて当たり前というのは、大噓だったようです。
ですが、本当に嘘だったのでしょうか?
現に僕は両方使えるようになっていますし、叔父や叔母たちも全員使えます。
家族だけなら特別な血統と言う事になりますが、家に流れて来たアーサーも領民のソフィアも両方使えます。
この件に関しては領地に帰ってから研究しなければいけません。
「もう頼む人もいないし、朝飯にしようよ」
朝から1人大鉄貨103枚分もの利益があったので、ソフィアがご機嫌な表情を浮かべて話しかけてきました。
そういう僕も笑みが自然と漏れますし、アーサーも笑顔を浮かべています。
思っていた以上に魔力を使ったから、お腹一杯食べておかないと、ダンジョンに潜ってから戦えません。
「おばちゃん、エールと厚切りベーコンと黒パンをちょうだい」
「僕もエールと厚切りベーコン、パンはライ麦パン」
「僕はエールと猪肉の肩ロースのステーキ、パンはライ麦でお願いします」
「ハリー、昨日も言ったけれど、私たちのリーダーで騎士でしょう。
いい加減僕と言うのを止めなさいよ!
せめて私、できたら俺様くらい言いなさい」
「僕はジャスパーじゃないぞ!」
「分かったわよ、俺様は許してあげるから、俺か私にしなさい」
「そうですよ、ハリー様が僕と言ってしまうと、僕と一緒になってしまいます。
ハリー様には騎士家の若君らしく、私と言ってもらいたいです」
「いや、そうは言うけれど、僕まで私と言ってしまったら、家の中が私ばかりになってしまうよ」
「何言っているのよ、ここはもう領地じゃないのよ」
「そうですよ、王都に来ているのですから、他の騎士家からきている12歳に示しをつける為にも、私と言っていただかなければいけません!」
困った、アーサーの言葉に反論できない。
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