第10話:売魔力

 魔力というのは全ての人間に備わっています。

 ただ、魔力を魔術として使うには持って生まれた才能が必要です。


 更に個人が持っている魔力の量には結構な差があるのです。

 その量によって使える魔術の回数が決まりますので、才能と魔量の両方に恵まれないと、魔術士として生活するのは難しいのです。


 その魔力ですが、有難い事に使ってもまた溜まってくれます。

 しっかり食べてよく眠れば、個人の限界まで溜まってくれます。

 一杯まで溜まった魔力を使わないと、回復する量を損する事になります。


 持って生まれて魔力の多い者は、魔力を売って生活する事ができます。

 辺境では魔力の売り先が限られますが、王都なら多いそうです。


 ただ、今は12歳の義務を優先しなければいけないので、王都にいる親戚を頼って利益の多い相手を紹介してもらう事もできません。


「お姉さん、魔力が余っているから売りたいのですが、冒険者組合で買ってくれるのですか?」


「あれだけの狩りをしているのに、魔力が残っているの?!」


 また受付のお姉さんが驚くと同時に賞賛してくれます。

 領地ではあれくらい狩れて普通だったのですが、王都では違うようです。


「僕は騎士の跡継ぎですから、幼い頃から剣と槍を厳しく仕込まれています。

 アーサーも母親と館に住み込んでいますから、ひと通り学んでいます。

 ソフィアは村1番の猟師の子供ですから、幼い頃から狩りをしています。

 魔力を使わなくてもある程度のモンスターなら狩れます」


「貴方たちが来てから驚かされてばかりよ。

 魔力が余っているのなら喜んで買い取らせてもらうわ。

 回復薬を作るための魔術水が欲しかったのよ、私について来て」


 お姉さんは同僚の受付に『この子たちが魔力を売ってくれるそうだから、製薬部に案内して来るわ』と言って僕たちを奥に連れて行ってくれました。


 冒険者組合は表から見ても結構大きな建物でしたが、奥行きも思っていた以上にありました。


「この子たちが魔力を売ってくれるそうよ。

 先ず魔術水を出してもらう、それとも魔力を込めてもらう?」


「回復薬を作るための魔術水が不足していました、こっちに連れてきてください」


 回復薬は家でも作っていますが、薬草から必要な薬効を抽出する方法の1つが、魔術で出した純粋な水に漬け込む事です。

 もう1つの方法が、甘い酒に漬け込む事です。


 普通の水では薬草から薬効を取り出せません。

 酒精が強いだけの酒でも、甘いだけの水でも、薬効を取り出せません。

 魔術水か甘い酒だけが薬効を取り出せるのです。


 薬を作るには、危険な森や魔境に入って薬草を採取しなければいけません。

 貴重な魔術水か高価な甘くて強い酒を用意しなければいけません。

 それでも、時間をかければ何とか作れる下級薬はまだましです。


 中級や高級、最高級の薬になると、下級薬に魔力まで込めないと作れません。

 だから中級以上の薬はとても高いのです。


「こちらの甕に魔術水をお願いします。

 20リットルありますが、出せますか?」


 魔術には属性があって、人によって得意不得意があります。

 水を出すには水属性が必要です。

 水属性を持っている人でも、適性が強い人と弱い人がいます。

 

 同じ1の魔力を使っているのに、100ccしか魔術水を作れない人もいれば、1000ccも作れる人がいます。


 何故そのような事が分かるかと言えば、長年かけて研究した成果です。

 使える魔術の適正によって効果が違う事が証明されたからです。


「私なら20リットル出せます、幾らもらえますか」


 ソフィアが誰よりも先に返事をしました。


「1リットルに大鉄貨1枚払います。

 20リットルで大鉄貨20枚です」


「やったぁ~、それだけあれば美味しいご飯が食べられます」


「では直ぐにお願いします」


 ソフィアがご機嫌で魔術水を作りに行きました。


「こちらもお願いできますか?

 使用期限が過ぎて魔力が抜けてしまった薬があります。

 中級薬1つで小鉄貨1枚、高級薬1つで大鉄貨1枚です。

 全部魔力を込めてくれれば、大鉄貨100枚になります」


「そんなに再生して大丈夫ですか?

 また使用期限が切れたら全部損失になってしまいます。

 必要な時に魔力を込めれば良いではありませんか」


 受付のお姉さんが製薬部の人に文句を言っています。

 確かに、魔力が抜けてしまうと下級薬同然にまで薬効が下がってしまうので、使う時に魔力を込めた方が良いです。


「大丈夫です、これらは全部買い取り依頼があった分です。

 新薬を作るだけの薬草も時間もないので、期限切れに魔力を注いだ再生品でも良いと契約してある分です」


「それなら良いのですが、ちょっとおかしいですね。

 急いで大量の回復薬を必要とするような事件でもない限り、再生薬を買う人はいないはずです」


「そんな疑問はどうでもいいんですよ。

 製薬部は副組合長の命令で作っただけなのに、不良在庫を作ったと文句を言われたのです。

 少々の値引きや再生で追加費用が必要になっても、不良在庫を処分したいのです」


「また副組合長ですか!

 組合の名誉を傷つけ損害を与えるような副組合長など不要です!」


「そんな事を言っていると、闇から闇に葬られますよ。

 今回の組合長の出張も、暗殺の為だと言う噂があるのですよ」


「何ですって、そんな噂があるのなら組合長を止めなさい!」


 やれ、やれ、父上やお爺様から聞いていたよりも状況が悪くないですか?

 この国、思っていた以上に傾いていませんか?

 ダンジョン騎士となられた叔父上や叔母上は、何をしておられるのでしょう?

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