第9話:賞賛

「受付お願いします」


 僕たちは12時間ダンジョンに潜ってから地上に戻りました。

 29階まで潜る時間と戻って来る時間も必要なので、12時間ずっと29階で狩りができたわけではありませんが、1番長く狩ったのは29階でした。


「たった3人で2日目なのに、こんなに狩ってこられたのですか?」


 昨日と同じ受付のお姉さんが手放しでほめてくれます。

 少々照れ臭いですが、素直に受け入れます。

 ここで変な謙遜したら反感を買うかもしれません。


「僕たちは魔境に接する村の出なので、小さな頃から畑を荒らす鳥を追い、狩りの手伝いをしてきました。

 12歳の義務があるので、11歳から魔境で狩りの練習をしてきました。

 教えてもらえる機会のない子供たちよりも恵まれて育ちましたから」


「それは分かっていましたが、これほどとは思っていませんでした。

 これまでも魔境に接する村から来た子はいましたが、その子たちでも2日目から地下10階よりも深く潜った子はいませんでした」


 流石冒険者組合で受付をするお姉さんだけの事はあります。

 僕たちが提出した宝物を見ただけで、何階まで潜ったか想像がつくようです。


 12時間の内3時間は食事と休憩、移動時間に使ったと思います。

 狩りの実働は9時間ですが、1分間に2回は戦ったと思います。

 1時間で120回、9時間で1080回くらいです。


 ただ、モンスターが6体ずつ現れるようになったのと、戦う階層が深くなった分、手に入る宝物が3倍くらいになっています。


 今日3人で手に入れた宝物は、水晶189、小銭貨336、小鉄貨243、大銭貨90、大鉄貨36、岩塩6です。

 もう石材とレンガは宝物の数には入れません。


「それは僕が領主の子供だからでしょう。

 騎士道精神を守らなければいけないと、幼い頃から鍛えられてきました。

 ここにいる2人もですが、領民にはできる限りの教育を行っています。

 12歳の義務で死ぬ事の無いように、武術も魔術も教えるようになっています」


「羨ましい、そのような領地があるのですね。

 領民をそのように大切にするなんて、王都はもちろん、他の領地でも聞いた事がりません」


「僕には当たり前の事なのですが、他の領地は違うのですね」


「我が国は他国に比べれば領民に優しい国ではありますが、それは搾取する領主が少ないと言うだけで、技術や知識を与えてくれる訳ではありません。

 本来なら王侯貴族が独占する技術や知識を領民に与えてくださるご領主は、貴方様の御父君以外聞いた事がありません」


「そこまでほめていただけると少々恥ずかしくなります。

 予約していた部屋で休みたいのですが、良いですか?」


「はい、昨日と同じ部屋を空けてありますから、そのまま使ってください」


「では明日の予約分と合わせて小銭貨か小鉄貨で払いたいのですが、良いですか?」


「今日の分は昨日いただいていますから、小銭貨なら90枚、小鉄貨なら45枚いただきますね」


 僕は小銭を処分したくて全て小銭貨で支払いました。

 今日の部屋代を、昨日予約で支払った際も小銭貨でした。


「ふう、今日は疲れたね」


 何故か2畳しかない狭苦しい僕の部屋に3人で集まる。

 3階の奥まった場所に続けて取った3部屋です。

 奥は美少女のソフィアが使って、真ん中を僕が使っています。


 真ん中なので、建物の外からも中からも盗み聞きされ難いかもしれません。

 ですが、壁が物凄く薄いので、少し大きな声をだしただけで筒抜けです。

 どうせ聞かれるのなら、広い食堂に行くべきだと思うのですが?


「そうですね、僕は初めての階で緊張してしまいました。

 ハリー様はどうですか、疲れられましたか?」


「正直あまり疲れませんでした。

 父上やお爺様、お婆様に鍛錬をつけていただくよりは楽でした。

 特に魔力を全く使いませんでしたから、その点が楽でしたね」


「あ、それ分かるわ、私も魔力を使わなくて楽だったもの」


「明日も魔力を使わないですよね?」


「そうですね、29階までなら剣だけで十分だと思いますよ」


「でしたら魔力を売りませんか?

 館を出る前にアメリア様が教えてくださったのですが、王都なら魔力を売る事ができるそうなのです」


「ああ、確かに、お婆様がそのような事を言われていましたね」


「私も思い出した、魔力が売れたら狩りの成果に関係なく美味しい者が食べられる。

 もうここの不味いご飯を食べるのは嫌よ」


「ソフィア、贅沢を言ってはいけませんよ。

 足らない分を買い足すのは良いですが、宿代についてくるパンとスープはちゃんと食べなければいけません」


「ぶぅ~、あんな不味いモノ毎日食べるのは嫌。

 もったいないのなら、駆け出しの子にあげたらいいじゃない」


「それは駄目だよ、施しは気をつけないと反感を買うよ」


「アーサーの言う通りだよ。

 もし乞食や浮浪児がいるのなら、パンは施しても大丈夫だけれど、12歳の子に施すのは危険だよ。

 それに、持ち運べないスープは水代わりに飲みなさい」


「分かったわよ、スープは水代わりに飲むわよ。

 でもパンを食べるのは嫌よ。

 王侯貴族のように白パンが食べたいとは言わないわ。

 黒パンやライ麦パンでもいいから、焼き立てを食べさせてよ!」


「わかりました、パンは焼きたてを食べましょう。

 正直に言えば、僕もここの腐りかけのパンは食べたくありませんでした。

 部屋を軽く掃除してから受付に行きましょう。

 水くらい出して少しは魔力を使わないと、回復する魔力がもったいないですから」

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