第4話:話し合い

「大銭貨3枚と小鉄貨9枚、小銭貨が6枚落ちていたよ」


 アーサーがモンスターが落として行った硬貨を手早く集めてくれました。

 その間に僕とソフィアは使った投石用の石を回収しました。


 ダンジョンの中では武器になる石を新しく探すことができないのです。

 投石で戦い続けるには、外から持ち込んだ石を大切に使うか、ドロップした硬貨を工夫して使うしかないのです。


「ここに居座って狩りをしようと思うけれど、いいかい?」


 マナーとしては微妙ですが、初日はできるだけ浅い層の弱いモンスターを狩って、ダンジョンに慣れたいです。


 駆け出しがやってきたら、この場所を譲ってやればいいだけの事です。

 僕たちも表面上は木片級の駆け出し冒険者なのですから、それくらいは許されるはずです。


「ここで狩ると決めたのなら、効率的にやらなくちゃもったいないよね。

 アーサーが出入りしてくれる?」


 僕たちはダンジョンでの狩りは初めてですが、ダンジョンでどうやって狩りをすればいいのかは、長年にわたって研究され広く知れ渡っています。


 特に家は、代々の一族が子孫のためにダンジョンでの効率的な狩り方を伝えていますので、一般的に広まっている知識よりも詳細です。


 その経験と知識を我が家が独占するのではなく、同じ様にダンジョンで修業させられる領民にも惜しみなく伝えています。


 だからソフィアも知っていて、アーサーに囮になってモンスターを素早く湧かせるように言っているのです。


「わかったよ、僕も早く家に戻りたいからやるよ。

 でも次はソフィアにやってもらうからね」


「いいわよ、私も色々なスキルを鍛えたいから、浅い階では順番に役目を変える?」


 騎士や兵士だと、1つのスキル、特に剣術や槍術を鍛えたがります。

 その方が王家の評価が高くなり、家を継ぐ許可が下りやすくなるからです。


 平民が騎士にふさわしい実力をつけたら、国土が狭いので領地はもらえませんが、王家に仕えるダンジョン騎士には叙勲されます。


 ダンジョンや魔境で狩りをしても、勤務時間以外は税を課せられません。

 騎士としての給料は少ないですが、その分勤務時間も短いです。

 実力さえあれば、ダンジョンで充分稼げるのです。


 強欲な騎士領に住む貧しい農民の子供は、12歳に成るのを指折り数えて待っていると、騎士なってから家に遊びに戻った叔父や叔母から聞かされて育ちました。


「次行くよ」


 そんな事を考えているうちに、アーサーが次のゴブリンを湧かせました。


「「「ギャッ」」」


 今度も3頭現れましたが、瞬殺してやりました。

 常に振り回している投石紐は、直ぐに石を放てるのです。


 何十何百とゴブリンを湧かして瞬殺してやりました。

 お腹が空いて軽く休憩する事もありましたが、11時間は狩りを続けました。


 辺境で育った人間なら、感覚で時間が分かります。

 特に腹時計は優秀で、ほぼ間違わずに時間を当てられます。


 1000回以上倒して今日の狩りを止める事にしました。

 100回以上ドロップしましたが、出たのは石材231、レンガ216、水晶93、小銭貨150、小鉄貨75、大銭貨30、大鉄貨15、岩塩3です。


 1つ1kgもある石材やレンガを地上に持ち運ぶ気にはなりません。

 というか、そんな無駄な事をする馬鹿はいません。

 地上に運ぶだけの価値がある物だけしか持って行きません。


 岩塩は人間が生きていくうえで絶対に必要な物です。

 30gの岩塩が1つあれば、4日はダンジョンで戦えます。


 3つも出たのは幸運以外の何もでもありません。

 普通はモンスターを3000回倒して1回落として行ってくれる程度です。

 あ、3頭ずつ倒しているので1000回に1回で出たのかもしれません。


 ダンジョンは必ず同じ大きさ同じ重さの宝物を落としてくれます。

 石材とレンガは1kg、宝石は30g、大硬貨も30g、小硬貨は3gです。

 

 だから今回手に入れた宝物は全部合わせて3kg少しです。

 3人で手分けして運べば1kgしかなりません。


「ハリー、次はもう少し深くまで潜って狩りをしない?」


 ソフィアは今日の狩りの成果が不満のようです。

 王都の物価がどの程度なのかは分かりませんが、12歳の冒険者は優遇されているので、普通の12歳より稼げる僕たちが生活に困る事はありません。


 ですが、故郷を離れて慣れないダンジョンで狩りをさせられているのです。

 田舎を離れて華やかな王都に来ているのです。

 ソフィアが王都での生活を楽しみにしている気持ちは分かります。


「そうだね、僕たちなら十分にやれると思うけれど、少しの油断で死ぬ事もあるのが狩りなのは、分かっていますよね?」


「分かっているわよ、だから一気に深くまで行こうとは言わないわ。

 今日は8階だったから、明日は9階から始めない?

 9階で度狩りをして、楽勝なら10階に下りるの。

 それを繰り返して行けば、直ぐに丁度いい階に下りられるわ」


「アーサーはどう思いますか?」


「1回の狩りで安全だと決めるのは危険だと思う。

 8階でも同じモンスターばかり出る訳じゃなくて、ホーンラビットがでたりゴブリンが出たりした。

 下の階でも強いモンスターと弱いモンスターが出ると思う」


「アーサーはこう言っているけれど、それでもソフィアは1回で判断するの?」


「分かったわよ、1回は少な過ぎると言うのには分かるけれど、それはもっと深い階になってからでいいんじゃない?」


「アメリア様が、急にモンスターが強くなる階があると言っておられた。

 ダンジョンが急に成長する事もあると言っておられた。

 浅い階だって油断してはいけないと思う」


 確かにお婆様はそう言っておられた。

 だからこそ、今日は慎重に狩りをしたのだ。

 でも、今日現れたモンスターは、事前に聞いていたのと全く同じだ。


「私もアメリア様から同じことを教えられたわ。

 でも、今日現れたモンスターは村で聞いていたのと同じだし、受付で確認したモンスターとも同じだったわ。

 1回とは言わないけれど、3回くらい確認すれば十分じゃない?」


「それでも、油断すべきじゃないと思う。

 今日は大丈夫でも、明日急に変化するかもしれない。

 最低でも10回は確認してからじゃないと、次の階に下りるべきじゃない」


 アーサーが慎重になる気持ちは分かる。

 1人村に残っている母親の為に、必ず生きて帰りたいのだろう。

 そんな事はソフィアも分かっているはずだから、余計な口出しは止めておこう。


「分かったわ、10回ね、10回確かめたら下の階に行くわよ?」


「うん、それなら大丈夫だと思う」

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