第2話:冒険者組合
僕たち3人は、5日間歩いてダンジョンのある王都にたどりつきました。
僕たちの住む国は、全部の国民を合わせても1万人程度しかいないのです。
ダンジョンと魔境から得られる富がなければやっていけない国なので、王都はダンジョンを守るように造られている。
僕たちが魔境にもダンジョンにも遠い村の出身だったら、どちらで実戦訓練をしても良いのですが、家が魔境と接する村の者はダンジョンに行かなければいけません。
故郷だと不正をする者が出ると言う理由で決められたそうです。
僕たち3人は、厳めしい兵士が守る城門で検査を受けて王都の中に入りました。
普通なら王都に入るのに小鈦貨1枚が必要なのですが、12歳の実戦訓練だけは税金が免除されます。
ダンジョンに現れるモンスターを倒すと宝石と硬貨が手に入ります。
硬貨は熔かして武器や防具、道具に造り替える事ができます。
そのまま硬貨として使い、魔境で取れる食糧と交換する事もできます。
僕たちの国に限らず、大陸全ての国々で共通する硬貨になっています。
だからこそ、全ての国がダンジョンを手に入れようと狙っているのです。
国が持っているダンジョンの数が、その国の強さにつながるからです。
僕たちの国の首都は、他の小国に比べると人が多く、5000人もいます。
これはダンジョンで手に入る宝石と硬貨のお陰なのです。
宝石と硬貨を求めて商人がやってくるので、周囲に畑がなくても食糧を手に入れる事ができます。
硬貨を鋳つぶして武器や防具、道具に加工する鍛冶職人が数多く集まります。
当然の事なのですが、ダンジョンで手に入る富を求めて集まる冒険者も多いです。
これに国が定めた12歳実戦訓練法が加わることで、首都に人が集まるのです。
「すみません、僕たち12歳になったので冒険者登録をします」
3人を代表して僕が冒険者組合の受付に申請します。
これでも騎士の子供だから、冒険者の職業欄が騎士になります。
「3人でパーティーを作られるのですか?」
「はい、パーティー名はグリフォンでお願いします」
「申し訳ありませんが、グリフォンを名乗られるパーティーが多いので、前に何かつけていただかないと受理できません」
困った、よくある名前では通らないのか。
「じゃあ、シルバーグリフォンかブルーグリフォンでお願いします」
後ろで聞いていたソフィアが受付のお姉さんに言ってしまった。
「リーダーの髪色から考えたの?」
優しい笑顔を浮かべた受付のお姉さんが、僕を飛び越えてソフィアに話しかます。
僕の国では、冒険者になりたての12歳には、とても優しく接します。
全ての国民が12歳で実戦を体験し、最低でも鉄片級冒険者にならないと他の仕事につく事ができないから、昔の自分を見ている気分になるらしいです。
まあ、国民すべては優しい訳ではなく、例外的に12歳の冒険者を虐めるクズもいるそうですが、そんな奴は誰からも相手にされなくなります。
「はい、リーダーにちなんだ名前にした方が良いと思いました」
「そう、だったらブルーグリフォンにしておくね。
少なくともここでブルーグリフォンを名乗っているパーティーは他にいないから」
「ありがとうございます」
「貴女がソフィアね?」
「はい」
「槍、剣、弓、投石、神聖術、魔術の全てを初級まで使えるなんて優秀ね。
その中でも中級まで使える神聖術士として登録するのね?」
「はい」
「上手く行けば半年で鉄片級になれるから頑張りなさい」
「ありがとうございます」
「次がアーサー君ね」
「はい、僕がアーサーです」
「貴男も槍、剣、弓、投石、神聖術、魔術の全てを初級まで使えるの?」
「はい、ご領主様が立派なお方で、領民全てに学ぶ機会を与えてくださるのです」
「そう、それは運が良かったわね。
何も学ぶ機会がなく冒険者になる子もいるのよ」
「はい、生まれた村に残っていたらどうなっていた事か……」
「……移住したの?」
「はい、モンスターの群れに村が襲われた時に父が亡くなり、それまで耕していた畑を領主様が他に家に渡してしまわれたので、母に連れられて……」
「そう、苦労したのね……」
「でも、今の領主様が優しく迎え入れてくださり、母を館で働けるようにしてくださったので、安心して暮らせるようになりました」
アーサーが父の事を手放しで褒めてくれるのはうれしいが、横にいるソフィアがニヤニヤとしだすし、僕はどのような表情で聞いていればいいのだ?!
「そう、一人前の兵士になって恩返ししなければいけないわね」
「はい!」
事情を察したのか、受付のお姉さんがチラリと僕の方に視線を飛ばした。
アーサーは僕の従者なんかじゃないぞ!
お婆様が話しをつけているかもしれないけれど、僕にとっては大切な友達だ!
「職業は槍と剣が中級だから戦士にするのね?」
「はい」
「リーダーのハリー君が魔術騎士だから、戦士、魔術士、神聖術士とバランスの取れたパーティーな上に、何かあれば役目を変えられるのね」
「小さな頃から3人で畑に来る鳥を追い払っていました。
最近では1羽も逃がす事なく狩れるようになっていました。
できるだけ遠くから戦い始めるつもりです」
「そう、それを聞いて安心したわ。
地元で早くから狩りを手伝っている子の中には、ダンジョンを舐めて痛い目を見る子がいるのよ。
安全な距離をとって戦う気でいるのなら、間違っても死ぬことはないよね?」
「はい、何があっても生きて帰れと言われています。
危ないと思ったら直ぐに逃げてきます」
話好きなソフィアが、アーサーが答える前に答えてしまった。。
「「「「「ガッハッハハハハ!」」」」」
冒険者組合の受付横にある食堂にいた人たちが、一斉に大笑いした。
僕にはないソフィアの魅力を羨ましく思うのはこういう時だ。
ソフィアは、何の企みもなく人の心をつかむ魅力を持っているのだ。
「それでいいぞ、命が1番大切だからな!」
「逃げるのは恥じゃないぞ、しっかり逃げ帰ってこい!」
「初冒険から戻ってきたら1杯奢ってやる」
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