少年騎士

克全

第1話:旅立ち

「父上、母上、行って参ります!」


 僕は胸を張って両親に挨拶した。


「気をつけて行ってきなさい」


「無理をしてはいけませんよ、生きていればやり直せるのですよ」


 両親の励ましの言葉に涙が流れそうになります。


「お爺様、お婆様、行って参ります」


「うむ、グリフィス家の騎士道精神を忘れず、弱きを助け強きを挫くのだぞ」


 先祖代々我が家は誇り高い騎士家なのです。

 騎士道精神が脈々と受け継がれているのです。

 受け継がれているのは騎士道精神だけでなく、髪色も受け継がれています。


 祖父から父、父から僕と受けつがれている青銀髪ですが、祖父は少し白髪が混じり出しています。


「はい、お爺様」


「命はたった1つしかありません。

 誇りよりも命を大切にして、恥を受け入れ泥水を啜ってでも生き延びなさい」


 お爺様の言葉を全否定するお婆様の言葉に、お爺様が苦笑いしておられます。

 お爺様の理想はとても素晴らしいのですが、それが原因で我が家は何時も損ばかりしている、と言うのがお婆様の口癖です。


 それでも、常にお爺様を立てられ、家が傾く寸前に口と手を出され、何とかされてこられたのがお婆様だと、母上が言っておられました。


「分かりました、お爺様、お婆様。

 死なない範囲で騎士道精神を守り、いざとなったら逃げるのをためらいません」


「……うむ、それでよい」


 お爺様が苦笑いのまま答えられます。


「よく言いました、貴男はジャックよりもずっと立派になれますよ」


 僕よりも融通が利かないと遠回しで言われた父上が苦笑いされています。

 この話題には触れない方が良いでしょう。


「ポピー、リリー、コナー、僕がいなくなる分、家の手伝いをするのですよ」


 僕の言葉が理解できる妹弟に後の事を頼んでおきます。

 我が家は実力のある大人が多いので、収穫量の少ない100人程度の騎士家ですが、無理に幼い子供を働かせる必要はありません。


 ですが、今から頑張っておかないと妹弟が後で困ります。

 僕の家が仕える王国は、周辺の国と同じように狭く小さいのです。

 魔境やダンジョンがあるので貧しくはありませんが、人が少ないのです。


 大国が攻め込んで来たら、騎士や兵士が強くないと国を守れないのです。

 だから、この国の子供は12歳になると魔境やダンジョンで戦い方を学びます。

 王族であろうと貧民であろうと関係なく、1人で修業させられます。


 お婆様に言わせる、ズルをしている王侯貴族が多いそうですが、我がグリフィス騎士家は国法を守っているので、1人で修業に出されます。


 他の家のように、村の子供達と一緒に修行したり、大人の騎士や兵士に守られながら修行したりするは、グリフィス騎士家の恥だとお爺様が言うのです。


 などと考えながら、いざという時は村人全員が逃げ込んで来る館をでました。

 館の有る小高い丘の斜面には村人家が密集しています。


 魔境から魔獣が溢れ出てきた際に、少しでも被害を少なくするように、村の家はできるだけ高所に集めて、その周りに壁や壕を築いて守るのです。


「行ってらっしゃいませ、ハリー坊ちゃま。

 無事のご帰還を心から願っております」


 村を囲む壁の城門で、当番村民が心からの言葉をかけてくれます。

 例を言いながら村の外に広がる麦畑の畦道を進みます。

 この麦畑も、昼夜を徹して当番が守らないと獣や鳥に喰われてしまいます。


 僕もやってきましたが、穀物を狙う鳥を投石器で落とすのが子供の役目です。

 最低でも近くに石を投げて追い払わなければいけません。

 上手く鳥に当てられたら、その日の食事が1品多くなるので真剣です。


 畑を獣から護る為の壁を超えて街道にでます。

 ここからが本当に危険な村外で、運が悪いと簡単に獣の餌になってしまいます。


 街道とは言っても馬1頭が通れるか通れないかの細い道しかありません。

 大国が攻めてきた時のために、道を整備するのが禁止されているのです。


「ハリー様、偶然ですね、こんな所で会うとは思ってもいませんでした」


「本当ね、こんな偶然があるとは思ってもいなかったわ」


 ダンジョンに向かう街道を歩いていると、右側の森からアーサーとソフィアが不意に出て来ました。


 こんな偶然など絶対にありえません、明らかに僕を待ってくれていたのです。

 騎士道精神を貴ぶお爺様を立てつつ、僕を死なさないように現実的に対応する。

 お婆様の差し金に違いありません。


「本当だね、良い神様か狡賢い魔女が仕組んでくれた偶然に違いないね」


 僕の言葉にアーサーとソフィアが困ったような笑顔を浮かべています。


 王族のような光り輝く金髪が眩しいアーサーは、5年ほど前にお母さんと一緒に家の村に流れてきた母子家庭です。


 母1人子1人の家族なので、とても仲が良い母子です。

 そんな2人きりの家族でも、12歳になれば家を出なければいけません。


 平民には、騎士道精神などという、守らなければいけない決まりはありません。

 少しでも危険を減らすために、同じ12歳でパーティーを組むのが常識です。


 ただ、家の村は100人しかいない小さな村です。

 同い年の子供はとても少なくて、僕たち3人しかいないのです。


 そんな3人しかいない子供のうち、僕を1人で修業させるなんて、村の子供を見殺しにするも同然だと、お婆様は内心で怒っておられたのでしょう。


「良い神様でも狡賢い魔女でも良いじゃない。

 この偶然を利用して、3人でパーティーを組みましょうよ」


 あまり物事に拘らない、心底明るい性格の、とても可愛い女の子、ソフィア。

 ソフィアは、家のような田舎騎士家が治める村に住むとは思えない美少女です。


 見た目が美しいだけでなく、とても優しい性格で、小さい子供たちの面倒をよく見る優しいお姉さんでもあります。


 ただ、魔境の接する村で育った影響か、芯が強く決断も早いです。

 多くの村人は、冒険者が傷つき死んでいくのを小さな頃から見て育っているので、起きてしまった事を割り切るのも速いです。


 まあ、これは、僕もですが、魔境と共に生きる田舎者共通の性格です。

 アーサーはまだ完全に染まっていないけれど、この修業を終えて村に戻る頃には、そういう割り切りができるようになっているでしょう。


★★★★★★


「ダンジョン産の硬貨と価値」


小銭貨:100円(アルミニウム)

小鉄貨:200円(アルミニウム)

大銭貨:1000円

大鉄貨:2000円

小鈦貨:2万円(ステンレス)

大鈦貨:20万円(ステンレス)

小銹鋼:40万円(タングステン)

大銹鋼:400万円(タングステン)


鉄剣 :1kg:大鉄貨67枚:手数料大鉄貨7枚=大鉄貨60枚

鉄槍 :500g:大鉄貨34枚:手数料大鉄貨4枚=大鉄貨30枚

短鉄剣:500g:大鉄貨34枚:手数料大鉄貨4枚=大鉄貨30枚

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る