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麻生 凪

YELL

海岸に車を止めぼんやり海を眺めていた


今にも降って来そうな曇り空で波の色も濁っている


こんな日は人出も少ない


シートを少し倒し缶コーヒーを飲みながらFMラジオを聴いていると

防波堤の遊歩道を歩く若いカップルが見えた


付き合い始めて日が浅いのか

並んで歩いてはいるがその距離は少し遠慮がちだ


風に乱れるセミロングの髪を片手で押さえながら

彼の話におおきく笑顔でうなずく横顔が初々しい


晴れていれば夕日が綺麗なのだが


そんなことを考えている内に車の前を通り過ぎた


黒地に白い水玉模様のワンピース

レースをあしらったノースリーブの肩から伸びるしなやかな腕




『手を繋いであげなよ』



ラジオから流れる真夏の讃歌が


何処か寂しげにエールを贈った

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