幼馴染は変人

束白心吏

幼馴染は変人

 私の幼馴染は変人だ。

 いつもヘラヘラしてるし、お世辞にも真面目な性格とは言い難い。

 自由奔走で空気は読まないし、言いたいことはその場でズバズバ言う。

 そんな性格だからふゆくんは若干浮いている存在だ。普段から関わる人も少ない。しかし関わる人はみんな、ふゆくんに全幅の信頼を寄せている。ふゆくんは自由だし嘘も容易に吐くけれど、誠実さも持ち合わせているのだ。嘘つきで誠実なんて、矛盾しているような気がするけど、ふゆくんと関わる人は皆こう表現すると思う。故に、惹かれる者は少なくない。故に関わりを躊躇う人は多けれど、同性異性問わず、ふゆくんを嫌う者はいないだろう。


「ね、ねえ冬之ふゆのり君、私達……その、付き合えないかな」


 そんな魅力を持っているからこそ、惹かれる人は惹かれる。いま教室内でふゆくんに告白したクラスメイトだってそうだ。

 私は心臓の辺りがきゅうっと締め付けられる苦しさを感じながら、回れ右して下駄箱に向かう。あのクラスメイトのことは知っている。可愛いし、同性である私でも時折庇護欲をそそられる幼い容姿、ふゆくんの好みにドンピシャな子だし、付き合い始めればすぐ両想いになるだろうことは火を見るよりも明らかだった。


「おーい胡絃」


 傷心した私の作り出した幻聴か、聞こえる筈のない声が聞こえて、しても意味のない期待と共に振り向く。


「……冬之」

「一緒に帰ろうぜ」

「告白はどうしたの」

「あ、聞かれてた? アハハ。『重いのは無理』だって」


 告白してないのに振られちゃったぜ。とふゆくんはおどけた調子で言う。

 歩き慣れた通学路をふゆくんと並んで歩きながら少しだけホッとする。それも束の間、私ならふゆくんのそんな部分も受け止められるのに、なんて昏い感情が湧き上がる。自分から告白して、振られるのが怖いからと現状維持している私が抱いていい感想じゃないというのに。

 しかし彼女のような存在に告白されるほど、ふゆくんは容姿も整っている。そこに惹かれて惚れた私じゃないけれど、きっとこれから外見だけでなく中身にまで惚れて告白する子も出てくるだろう。つまりこれ以上はもう、延ばせない。


「――ねぇ、私じゃ駄目かな」

「?」


 その声は自分でも驚くほど速く紡がれ、思った以上に掠れ、震えていた。ふゆくんは振り返り、苦笑しながら口を開く。


「寧ろ、ボクでいいの?」


 暗に「ボクの癖は知った上で言ってるの?」と言った。憑き物の落ちたような表情で、私の正気を疑うように。


「私が何年、冬之の――ふゆくんの幼馴染をやってると思ってるのよ」


 ふゆくんとの思い出には抱きつかれた記憶が多い。誰彼構わず抱きついていたと言っても過言でないくらいに、今でも抱きつき魔だ。けれどそれは寂しさの裏返しであり、ふゆくんの家庭事情を顧みれば仕方ない部分もあった。

 ……あと、私を抱きしめていたのはふゆくんの趣味の部分も大きいかもだけど。

 そんなふゆくんの趣味に幼い頃……それこそ、物心のつく前から付き合っているのだ。嫌でも癖になるし、実は中学に上がったころも……。

 そんな内心を見透かしたかのように、ふゆくんは私のことを抱きしめた。


「じゃ、付き合おう」

「え」


 意外も意外なふゆくんの言葉に、私の思考は凍りつく。

 何で驚いてるのさと、ふゆくんは目をそらして照れくさそうに頬をかきながら、更に言葉を紡ぐ。


「……言っとくけどボク、のこと大好きだからね?」

「――」

「アハハ信用されてなさそー」


 ふゆくんが近づいてくる。いつものおちゃらけた様子の筈なのに、油断すれば呑まれてしまいそうな蠱惑的な雰囲気に、私は無意識に一歩、二歩と下がる。けれどすぐフェンスとふゆくんに板挟みされる構図になった。

 ふゆくんは何時になく真剣な表情で覆いかぶさるように体を寄せると、右の手で私の顎を持ち上げた。


「……本当に好きだよ。それこそ、誰にも渡したくないと思うくらいに」


 普段よりトーンの低い声はふゆくんの真剣さを表しているようだった。

 視界にはふゆくんしか写らなくなり、唇と唇がくっつかんとする刹那――悲鳴にも似た声が聞こえて、私達は同時に振り返る。

 どうやら見られたようだ。少女――同じ学校の生徒らしい――が呆然としているのをこちらもまた呆然と見ていると、視界の端にあったふゆくんの顔が離れていく。


「……続きは家でしよっか」


 顔を離した代わりと言わんばかりに左手を絡めて、ふゆくんは逃げるように歩き始める。

 続き……つまり、さっきのをまたやるの?


「え、ま、待って! そんなことされたら私の心臓が持たないわよ!」


 そう反抗するとふゆくんはいつものような笑顔で言う。


「今まで我慢してた分、結構溜まってるんだ。軽く3年間分は埋めてく勢いでいくから覚悟してね。いとちゃん」


 どこか照れくさそうにそう言うふゆくんにドキリとしてる時点で私も私だ。顔が熱い。

 けれど言われっぱなしも癪だ。私は更に顔が熱くなるのを感じながら口を開く。


「言っとくけど、私だって我慢してたんだから」

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幼馴染は変人 束白心吏 @ShiYu050766

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