EP.14

皆に見放され、哀れエリオットにドナドナされた私。


空間魔法で練習上から切り離されている筈の師匠の家を、エリオットが何故か出現させて、そこに連れ込まれてしまった。


「まったく、シシリアちゃんは、自由にさせると直ぐこれだ。

僕の目の前で他の男とイチャイチャと」


プンスコ怒っているエリオットに、言いたい事は山ほどあるが、まず、お前。


怒らないからって、言わなかった?

めっちゃ、プンプンやんっ!

めっちゃプンプンやんっ!(2回目)


あと、あのショタ達を、他の男、と表現するなっ!

それから、僕の目の前だろうが、誰の目の前だろうが、誰かとイチャイチャした覚えなど無いっ!


何かと思えば、エリオットのいつものただの言いがかりに、私は呆れてその顔をジトっと見つめた。


どさくさに紛れて膝に抱いているのも含めて、もう色々許すべし。


「だいたいさ〜、僕はシシリアがいくらお転婆してても、邸とか、たまに市井で暴れてたけど?

まぁ、基本、1人で暴れ回ってただけだから、まぁいいかって見守ってたんだよ?

それなのに、最近は騎士団に顔を出したり、クラウス達と連んだり……。

流石に囲まれすぎじゃないっ?

男に囲まれすぎだよね。

僕さ〜自分でもよく耐えてると思うよ?

物分かりの良い保護者として温かい目で見守ってるよ?

でも、近過ぎんだよねっ!

ジャンくんとか、ジャンくんとか、ノワールくんとかさぁ……。

あと、何あれ?アランへのあれ。

頬とか染めちゃってっ!

キィィィッ!僕にもしてくれた事ない潤んだ目しちゃって!

好きなのっ?アランみたいなのが良いの?

でも、ざんね〜ん、既婚者でしたーっ!」


うるさっ!長っ!むっかつくーーーーーッ!

ウッキーっ!とエリオットの膝で暴れ回るが、ガッシリ腰を抱き締められていて、微動だにしないっ!


クッソーーッ!体格差っ!体格差めーっ!

絶対いち早く身体強化魔法を師匠に教えてもらうっ!

そんで完璧にマスターした暁には、コイツを空の彼方までぶっ飛ばすっ!


調子に乗ったエリオットは、私の頭の上に自分の顎を乗せて、はぁ〜っと悩ましげに溜息をついた。


「あ〜あ、あと6年かぁ……。

長いなぁ……。僕、耐えられるかなぁ……」


エリオットの呟きに、プンプン怒りながらも反応してやる。


「6年って、何かあるの?」


怒り口調で問うと、頭の上でエリオットがニヤリと笑う気配を感じた。


「6年後には、シシリアの社交界デビューがあるでしょ?

ほら、16歳になる年の春に。

だから、正確には5年と数ヶ月……。

はぁ、長い……。」


頭の上で陰気な溜息を吐き続けられ、いい加減額に青筋が浮かぶ。


「だからっ!その社交界デビューがっ!

あんたとどう関係あるのよっ!」


怒りに怒鳴り散らすように聞き返すも、エリオットは全く気にならないのか、更に溜息をついた。


「分からないかな〜、ダメだなぁシシリアは。

良いかい?社交界デビューを終えた女性はその時から大人として扱われるんだよ?

つまり、大人の女性として扱っても良いって事なんだよぉっ!

あーっ、楽しみっ!

大人になったシシリアと、あ〜んな事やこ〜んな事して、いっぱい楽しむんだぁっ!」


ゾワワ〜ッと寒気が背中を駆け上がる。

お巡りさんッ!こいつですっ!


宇宙の彼方までぶん投げてやりたいが、だがしかし、急に陰気から陽気な声色に変わったエリオットに、躁鬱過ぎないか?っと心配になる。


こ、怖いっ!

私今、情緒不安定なストーカーセクハラ野郎のお膝の上にいるのっ!

タスケテェ………。


怒りで真っ赤になっていた顔が、一気に青ざめた。


こ、こういう人間は……刺激しちゃダメだって……じっちゃんの名にかけて、あっ、違う、じっちゃんが言ってた……。(混乱)


冷や汗をダラダラ流しながら、エリオットの膝の上でカタカタと震える。

ちょ、ちょっと……冷房が効き過ぎじゃないですかねえ?

キョロキョロと部屋を見渡し、エアコンのリモコンを探す。(そんなものは無い)


「ふふふ〜、どうしたの?シシリアちゃん。

急にキョロキョロとしちゃって……?

まさか、アランが助けに来てくれるとでも?

……残念だったね。誰も来ないよ。

君はここでこれから僕と2人きりで、楽しくお喋りするんだよぉ〜〜っ!」


サイコパスッ!

私、サイコパスに拐かされて監禁された被害者の役じゃんっ!


ぎゃーーーっ!

標本にされるっ!

鍋でグツグツ煮られるーーっ!


誰かッ!コイツに、拘束具〜〜っ!

拘束具持ってきて〜〜っ!


思わず、昔のホラー漫画の劇画タッチな顔になりながら、助かる術は無いのかと涙を流す。

前世見た、サイコスリラー物が次々頭に浮かび、震度3の震えを叩き出した。



「エリオット、いい加減にしなさいよ」


いつの間にかドアが開け放たれていて、そこにアランさんが立っていた。

付け足すようにドアをコンコンと叩く。


「アラン〜、邪魔しないでよぉ〜。

これからシシリアの成長具合を、こう、ねっとりと確認しようと……」


「はいっ!アウトーッ!」


テキパキとアランさんがエリオットから私を引き剥がし、その背に庇った。


「お前……シシリアちゃんが大人になるまで待つって言ったよな?

だから僕も安心して帝国に移ったんだぞ?

約束を違えるなら、今すぐ王国に戻ってお前を縛るが、どうする?」


アランさんのドスの効いた声に、エリオットが拗ねたように口を尖らせた。


「今更王国に戻ってどうすんのさー。

君が受けた魔法手術はそんな軽いものじゃないよ?

また同じ手術を受ければ、体への負荷がどうでるかも分からない。

そもそも、エマちゃんはどうするつもり?

君、新婚でしょ?」


ぶちぶち文句を垂れるエリオットを、アランさんが鼻で笑って一蹴する。


「お前がシシリアちゃんを困らせるというなら、話は別だ。

この身がどうなろうと、王国に戻りお前に首輪を付けてシシリアちゃんから引き離す。

エマもついて来てくれるさ。

彼女は僕がどうだろうと、気にしないからね。

むしろ喜んで僕と2人でお前の監視役になってくれるさ」


ギラリとエリオットを射抜くように睨むアランさんに、いつものようにヘラヘラ笑いながら、でもその瞳の奥を昏く鈍らせて、エリオットは自分の首を片手で掴んだ。


「僕に……首輪、ねぇ……?

つけられるものなら、どうぞご自由に?

つけられるものなら、ね」


ニヤリと黒く笑うエリオットと睨み合うアランさん……。


体が自由になったなら、こっちのもの。

私はアランさんの背中から、ひょっこり頭を出して、ボソッと呟いた。


「ウォーターバインドッ」


水の首輪がエリオットの首を締め付ける。


「うぐぐっ!シ、シシリアちゃ〜んっ!

くるしっ、苦しいヨォ〜」


首輪を両手で掴んでジタバタもがくエリオット。


「煩いっ!全部っお前が悪いっ!

このっ、サイコパスセクハラストーカー野郎っ!」


「ほぅ、立派な異名だなぁ?エリオット」


楽しそうに笑うアランさんの後ろから、床をバタバタともがき暴れるエリオットを睨み見た。


「そうだ、シシリアちゃん。

新しい剣、刀?の事で話があるって師匠が呼んでたよ。

僕も興味があるからね、一緒に行こう」


「はいっ!」


アランさんに向かって元気に良い子のお返事を返す。

やった!ついに刀が完成したのかな?

異世界の刀、しかも自分発っ!

どんな出来になってるか、楽しみだっ!


ワクワクウキウキしていると、アランさんが苦しそうに床をバタバタ暴れ回るエリオットをチラリと見て声を掛ける。


「ほら、お前も遊んでないで、一緒に行くぞ」


途端に、さっきまでもがき苦しんでいたエリオットがむくりと起き上がって、エリオットの首に巻いた私の水魔法がパシャッと飛び散って消えた。


「はいはい〜っと、あらら、濡れちゃったよ」


水魔法で濡れたエリオットの首元を、アランさんが風魔法で一瞬にして乾かす。


私はポカンとした顔でそれを見ていた。


「あ、あんた……どうやって?」


私の魔力量は当然ながらエリオットより多い。

魔法だけなら、私の方がエリオットより強い筈なのに、それをいとも簡単に消されてしまった。


「さぁ、何でだろうね?

でもシシリアに首輪をつけられるのは、悪くなかったなぁ。

ねぇ、シシリア?またいつでも僕に首輪をつけて、縛っていいからね」


ほんのり頬を染めて、モジモジとするエリオットをぶん殴ろうとして、慌ててアランさんに体を後ろから抱えられた。


「耐えろ、耐えるんだ、シシリアちゃん。

コイツのこの程度でいちいち腹を立てていたら、君の身が保たないっ!」


アランさんの顔を立て、その場は怒りを何とか鎮めてやったが、いいか、2度は無い。

2度は無いからなぁ……。


ギヌロッと下から睨み付けると、エリオットは更にポッと頬を染め、モジモジと体を捻っている……。


もうっ、色々と、絶対に、許すまじっ!






「師匠、お呼びですか?」


アランさんに救出された私は、早速師匠の元に急いだ。


「ああ、シシリア嬢ちゃん。

さっき連絡があってね。

シシリア嬢ちゃんの刀の試作品が出来上がったそうじゃ。

もちろん、見に行くじゃろ?」


そう言われて、頭を高速で上下にブンブン振る。

行きますっ行きますっ!もちのろんっ!


「ほっほっほっ、元気じゃの。

では、ちょっくら出掛けようか」


師匠がパンっと一回手を叩くと、地面に大きな魔法陣が現れ、皆の足元から上に風が吹き抜けた。


ふわぁっとした浮遊感を感じて、一瞬目を閉じ、次に目を開いた時には、私達は知らない場所に立っていた。


「ほっほっ、ここは帝国の中にあるドワーフの村じゃ。

鍛冶の村としても有名じゃな。

さっ、行くぞい?」


呆然と辺りを見渡していた私達は、師匠に促されて、村の中に入っていった。

沢山の建物の煙突から、煙が上がっている。

金属を打つ音が彼方此方から聞こえてこだましていた。


「赤髪の魔女様、よくお越し下さいました。

さ、こちらへ。どうぞお連れ様もご一緒に」


歳をとったドワーフが師匠に丁寧にお辞儀をして、私達を一層大きな建物に連れて行く。


「ようっ!来たなっ、魔女殿。

またとんでもない物を依頼してきおって。

まぁっ!慣れっこだがなっ!」


奥からドカドカと体躯の良いドワーフが現れ、ガッハッハッと笑う。


「ふぉっふぉっ、ヴィクトール、元気そうじゃな」


師匠はヴィクトールと呼ぶドワーフに、ニコニコと笑った。


「で?どうだい?シシリア嬢ちゃんの頼んだ物は出来たかい」


片眉を上げてニヤリと笑う師匠に、ヴィクトールもニヤリと笑い返した。


「俺を誰だと思ってる?

今までだってあんたの無理な注文に応えて来たんだ。

これくらい、朝飯前さ」


そう言ってヴィクトールが、出来上がった刀を私達の前にズイッと差し出した。


「と、言いたいとこだか、今回はちと骨が折れたがな」


ヒョイと肩を上げるヴィクトールから、刀を受け取り、手に感じる懐かしい重さに頬が緩んだ……。


か、刀だぁっ……!

すっごいっ!

本当に本物ッ!

この異世界に、刀がっ!


ニマニマと笑いが止まらない。

私はゴクリと唾を飲み込むと、鞘から刀身をゆっくりと引き抜く………。


美しく輝く刀身に、白い刃文が波の様に波打っている。

スラリと抜刀し頭上に掲げると、光を受けて刃がキラリと光った。

その美しさに、おおっとその場にいる人間から声が上がった。


「……凄い…」


私も感嘆の声を上げた。


「さて、ではさっそく試してみるかね」


師匠が人差し指を立てると、そこに小さな魔法陣が浮かぶ、それを刀の柄にピトっと引っ付けると、スゥッと吸い込まれるように消えた。


「単純な作りで構築してあるからね。

王国の魔術師団に魔法式を渡してあるから、刀の数さえ揃えば、あとは国の魔術師に付与して貰えばいい」


これで、強化魔法を付与された刀が完成した。


私は刀を握り、正眼の構えをとった。

剣道でいうところの、中段の構えにあたる。

体の中心で刀を構え、切っ先を真っ直ぐ、相手の喉元に向ける。


ヴィクトールさんが用意してくれた丸太に向かって、刀をゆっくり頭上に上げ、そのまま真っ直ぐ斬り落とす。

とてもシンプルな切り方、唐竹斬りだ。

薪とか割るのと一緒のやつ。


丸太は一直線にスラっと斬れて、左右にパタンと真っ二つに倒れた。


刃を確認すると、刃こぼれ一つ無い。

まぁ、ここまでは通常の刀と大差無い。

いや、この異世界で通常の刀が作れた事が既に異常なんだけど。


「鎧ってあります?出来れば1番頑丈なやつ」


ヴィクトールさんに聞くと、後ろ頭をガシガシ掻きながら、オイッと若いドワーフに声を掛け、部屋の奥を親指で差した。


若いドワーフは直ぐに奥から重そうな鎧を運んできてくれた。


「金属製のヘビーアーマだが、これを斬るってのかい?」


ヴィクトールさんの問いに、ニヤリと笑って返す。


「もちろん、急所を突くという使い方もありますが、やはりここはっ!」


最小の動きで、鎧の右肩から腹に向かって斜めに切り込む。


「袈裟斬りも試したいとこですね」


言い終わると同時に、鎧が斜めに真っ二つに切れ、肩部分から上がスススと下部分からズレていき、ゴドンッと音を立てて、床に落ちた。


「これを、切っちまいやがった……」


ヴィクトールさんが驚愕の表情で呟く。


私は再び、刃を確認し、そこに刃こぼれ一つ無い事に目を見開き、師匠を振り返った。


「師匠っ!凄いっ!刀をここまで強化出来るなんてっ!

これで魔法を使えない人間にとっての最強の武器の完成ですっ!」


私の満面の笑顔に、師匠はハァーッと深い溜息をついた。


「刃物でここまで喜ぶ子供に、私はどんな顔をすれば良いか、分からんね」


呆れ半分、心配半分といった感じの師匠に、申し訳なくなり、誤魔化すように頭を掻いた。


本当、すんませんっ!

滾るとこがこんなんでっ!

刃物の扱いは、慎重にするんで、許して下さいっ!


師匠曰く孫くらいの年齢の子供が、刃物片手にキャッキャッ言ってたら、そりゃ心配になるよねっ⁈


ってか、サイコッ!

最高にサイコな光景っ!


……えっ、私今、隣のサイコパスセクハラストーカー野郎と同類?同類なのっ⁈


カタカタと震えながらエリオットを振り向くと、私と自分を交互に指差し、指でハートマークを作っている……。


……ほぅ?そんなに私の刀の錆になりたいか……。


刀を頭の上まで振りかぶり、上段の構えでエリオットの脳天を狙う私を、慌ててアランさんが後ろから抱える。


「シシリアちゃんっ!耐えろっ!耐えるんだっ!」



アランさん……私の忍耐、焼き切れそうです……(血涙)

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