EP.13
「初めまして、僕はアラン・パーシヴァル。
帝国の魔法騎士団所属で、師匠の弟子だよ。
皆の兄弟子って事になるね」
ベージュブラウンの髪にセピア色の瞳。
優しく穏やかな印象の、中性的な見た目。
女性であれば、綺麗なお姉さんといった感じだ。
先程、私の火魔法の攻撃を素手で受け止めた人とは、とても思えない。
「彼は僕の帝国の友人で、パーシヴァル伯爵。
若いけど、魔法騎士団特別部隊の隊長なんだよ」
ニコニコ笑うエリオットの紹介に、直ぐに私は食いついた。
「パーシヴァル伯爵っ!おいくつでいらっしゃるんですかっ?」
私の勢いにたじろぎながら、彼は照れた様に笑った。
「年は18ですよ。隊長になったのも、つい先日の事で、まだまだ若輩者です。
しかし、このような名誉ある役職を戴けたのも、全て師匠のご指導あっての事」
彼は、親愛の籠った瞳で師匠を見つめた。
師匠はのほほんと笑って、優しい眼差しを返す。
「我が弟子の中で1番謙虚な子でね。
だがこれでも、実力主義の特別部隊で破竹の勢いで出世した男じゃて。
見た目によらず、実力は鬼のようだぞい」
師匠の言葉にアラン・パーシヴァルは照れたように頭を掻いた。
「それから、シシリアちゃん、僕の事はアランと呼んでくれ。
同じ師の元で学ぶ者同士、身分で呼び合うのはやめよう」
悪戯っぽく片目を閉じられ、私の胸がドキンと跳ねる。
えっ?
何これ?
うそっ、ちょっとぉ……。
これって、もしかして、アランさんにトキめいてる……?
頬を染め、アランさんをドキドキしながら見上げていると、エリオットがずいっと私とアランさんの間に分け入ってきた。
「イケナイねぇ……アラン……。
妻帯者のくせに、シシリアに色目を使うなんて……」
いつもより随分低い声で、エリオットがアランさんに放った言葉に、その背中を眺めていた私はショックで頬を染めた。
さ、妻帯者でいらっしゃるのね。
そりゃそうよね……。
ってか年が離れてるし。
いや、前世の感覚で同い年くらいのつもりでいたけど、よく考えりゃ、多少発育が良いとはいえ、私まだ10歳だし?
アランさんから見れば、まだ子供じゃん?
いやいや、それ以前に妻帯者だしっ!
そんな事をグルグル考えていると、いつの間にか隣に立っていたジャンが、コソッと耳元で囁いた。
「なに、お前、あ〜ゆ〜のが好みなの?」
ボッと赤くなった頬を両手で押さえながら、横目でジャンを睨んだ。
「こ、好みって……でもあの年で帝国最強と言われる魔法騎士団の、しかも特別部隊の隊長なのよ。
師匠も認めてるって事は、魔法だってかなりの腕前なんだろーし。
強い人に惹かれて何が悪いのよ」
私の答えに、ジャンは面白くなさそうに口を尖らせ、後ろ頭を両手に乗せながら、クルッと体の向きを変えた。
「ふ〜〜ん?」
何やら意味ありげに横目で睨んでくるが、一体何なんだっ!
「ほらほら、僕なんかに構っている間に、後ろで淡い恋のメロディーが……」
エリオットに向かって降参ポーズを取っていたアランさんが、何やらエリオットの耳元に囁いて、私達を指差した。
途端、グルンッ!とこちらを振り返るエリオット。
怖い怖いっ!動きがキモイっ!
「ジャンく〜ん、君はちょっと僕とあちらで話そうか〜?」
ヒョイっとジャンの襟首を持って持ち上げるエリオット。
意外に力持ちだな〜などと呑気に眺めていたら、ノワールがそれに気付いて慌ててこちらに駆けてくる。
「エリオット様、お許し下さい。
ジャンは我々四天王最弱とはいえ、大事な仲間なのですっ!」
「誰が四天王最弱だっ!」
至って真面目な顔で可笑しな事を言い出すノワールに、ジャンがツッコむ。
私は慌ててノワールを皆から離れた場所に連れて行った。
「ちょっと、その四天王とか、最弱とか、どこで覚えた訳?」
私の問いに、ノワールが不思議そうに首を捻った。
「以前キティが柱の影から皆を眺めながら、ぶつぶつ言っていたのを聞いたんだ。
ハッキリ聞こえたのは、四天王、あとジャンを四天王最弱って言ってた。
それから、レオネルが四天王最弱のジャンを、お前は俺の保護下にいろって上から命令するとか何とか……。
あと、何だっけ?俺様?反発受け?
とか、言ってたかな。
まぁ、つまり、四天王って、クラウスの側近の僕達4人の事だと思って。
キティがそんな風に思ってくれていたのが嬉しくて、皆にも話して仲間内で使ってるんだ……四天王って」
うっとり頬を染めるシスコン。
漏れてるっ!
前世の腐が漏れてるっ!キティたんっ!
一体どんなシチュで腐妄想(不毛な妄想または腐った妄想)してたか、大体っ、大体解っちゃうけどっ!
漏らさないで〜っ!
まぁ、コイツらにバレようがないから、良いちゃっ良いんだけど。
キティたん……。
飢えてんのかな……。
美形でショタな素材はこんなにゴロゴロしてんのに、それを薄い本に魔変換してくれる、虹神がいないもんな〜。
キッツイよな〜。
私は色々落ち着いたら、キティたんの為にその辺も何とかしようと心に決めた……。
って単純に、私も恋しい……。
薄い本。
男女cp専門だけど、キティたんのも嫌いじゃないからね。
私、頑張るよっ!
と、割とくだらない事を心に誓っていると、目の前のノワールがヒョイっとエリオットに襟首掴まれ、宙に浮いた。
ジャンとノワール2人を事もなげに掴み上げるエリオット。
15歳にしては高身長だとは思っていたけど、この馬鹿力はどっからくるんだか。
「うちのシシリアちゃんとコソコソと……。
ノワールくん、ジャンくん、地獄の釜の中を覗いて見たいと思わないかい?」
ドス黒いエリオットの笑顔に、2人が慌てて首を振っている。
その後ろから、アランさんが溜息をつきながら近づいて、エリオットの肩をポンと叩いた。
「狭量が過ぎるよ、エリオット。
シシリアちゃんはまだ10歳なんだ……。
そんなに焦らなくても大丈夫だから、もう少しドンと構えていなさい」
大人な説得に、エリオットは渋々といった感じで2人を地面に降ろした。
「まったく、シシリアちゃんの事となると、いつも飄々と掴み所の無い君も片なしだね。
まぁ、そんなんじゃ困るんだけど。
自分の弱点こそ、いつもの飄々とした態度で隠し通して貰いたいね」
アランさんがギラリと瞳を光らせ、エリオットを射抜くように見据える。
そんなアランさんに、エリオットはヒョイっと肩を上げて、口角を上げた。
「隠す必要も無いよ、アラン。
弱点?僕の?シシリアがそうだと言うなら、君も結婚して随分腑抜けたようだね?
僕が他人に弱みを握られるさまを、君は本当に想像出来るのかい?」
ふふふと笑うエリオットに気押されるように、アランさんが額に汗を浮かべた。
……弱点……。
弱点、ねぇ……。
私は手刀でエリオットの脇腹をズビシっと刺す。
悶絶するエリオットは放っておいて、考え込んだ。
クラウスの弱点は、まず間違いなく、キティたんだよなぁ。
もし、そのキティたんに拒絶されたりしたら、どうなるんだろう?
他にも色々可能性はある。
他の誰かを好きになったり、生理的にどうしてもクラウスが無理だったり。
いやいや、キティたんが誰かに傷付けられたり、もしも、もしもよ?殺されたり……したら?
クラウス、どうなっちゃうの?
えっ?やっぱり、魔王堕ちルート?
アルマゲドン?
そこまで考えて、私は改めてキティに転生した彼女の過酷な運命に、背中に冷たい汗を流した。
彼女の一挙一動、選択一つで、この国の明暗が分かれるかもしれない……。
彼女にしてみれば、ふざけんなってくらい理不尽だよね。
ってか、自分の死んじゃうルートも何とかしなきゃいけないのに……。
やっぱり、私もっと頑張ってレベルアップしとかないとっ!
彼女の要望次第では、魔王堕ちしたクラウスとも戦わなきゃいけないんだからっ!
あと、過酷な状況の彼女の為に、せめて心の安らぎになるような、薄い本〜〜っ!
決意も新たに拳を握る私の腰に、エリオットが後ろから腕を回した。
「ふふふっ、何をそんなに考え込んでいるの?
僕の可愛いシシリア」
ゾワゾワ〜っと鳥肌を立てていると、いつの間にかクラウスが側に立っていて、ジーッとエリオットを見つめている。
……なんか、キュイイーンッて機械音が聞こえる気が……?
ロボか?コイツはロボなのか?
「な、何やってんの?コレ?」
ノワールに、クラウスを指差しながら聞く。
「ああ、それはエリオット様をトレース中ですね。
最初僕がキティに会わせる条件として、女の子の憧れるような王子様を演じて下さい、と言ったんです。
その王子様演技のまま今もキティと接しているので、たまにそうやってエリオット様をトレースして調整するんですよ」
あははっと楽しそうに笑う、ノワール……。
……お前、仕える主で遊びすぎじゃ無い?
そんなクラウスにエリオットが嬉しそうに微笑み、少し首を傾げて言った。
「クラウス、首の角度はこれくらいでね、それから、ふふふっ、て、こう微笑む」
「ふふっ……」
言われた通り素直に微笑む、クラウス。
彫刻のように美しい顔をした2人が、見つめ合って優雅に微笑んでいる……。
顔がっ!
顔が良いんだよなぁっ!
抜群にっ!容赦無くっ!
顔が良いっ!
だか、残念。
どれだけ美しかろーと、この2人は犯罪者と魔王である。
私はもとより、出来ればキティたんにも遠慮して欲しい相手なんだが……。
私はふと、ノワールにダメ元で聞いてみた。
「キティ様は、クラウスの事を柱の影から何か言ってた?」
その問いに、ノワールは首を傾げながら、むむむっと唸り、記憶を辿る。
「……確か……推しだけは固定、スーパー攻め様、とか……言ってたかな?」
……ありがとう、ノワール。
それで全てが分かったよ……。
推しは固定cpリバ無しですね、わかりみが深い。
で、cpの相方は……?
私はグルっと辺りを見渡し、一人一人を見つめた後、ノワールに視線を戻した。
……コイツだろうなぁ……。
キティたんっ!
実の兄で、貴女、そんなっ!
鬼畜っ!
腐り切ってらっしゃるっ!スキっ!
腐の為なら兄をも(脳内で)捧げるその心意気や、よしっ!
むしろ好きっ!
ニマニマとノワールを腐り切った目で舐めるように見つめていると、ヒョイっとエリオットに抱き上げられた。
んっ、何だよ?
怪訝に思ってその顔を見ると、黒い笑顔でニッコリ笑っている。
「皆を見渡した後、ノワールくんで何か決めたみたいな顔してたけど、何?何なの?
怒らないから、ちょっと僕に教えて?
ねっ、怒らないから」
何故、貴様の赦しを得る必要が?
と、喉まで出かかったが、瞳孔の開きかけた目で、黒く微笑まれ、何故か言葉に詰まる。
「ちょっと2人でお話しようね、シシリア」
私の返事も聞かず、エリオットはスタスタと歩き出した。
抱えられたまま、ドナドナ状態で皆に助けを求め視線を合わせるが、ツツツと逸らされてしまう。
オイッ!薄情者っ!
誰か1人くらいっ!
こうなりゃ、クラウスでもいいっ!
クラウス〜っ!て、あか〜んっ!
助けを求めたクラウスは、顎を手で掴み、目を伏せたままブツブツ呟いていて、はなからコチラなど見てもいなかった。
「……怒らないから……教えて?ねっ?……」
誤学習〜〜〜っ!
それ、誤学習だからっ!
クラウスーーッ!
そんなもんっ、トレースすんなーっ!
あと、誰でもいいから、助けろぉーーーーっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます