EP.12


「ほれ、ジャン坊やっ、吹っ飛べーっ!」


チュドーンッ!


「あーーーっ!」


叫び声を上げながら、ジャンが師匠の攻撃魔法でぶっ飛んでゆく。


着地っ!着地頑張れっ!

そこ、めっちゃ大事だからッ!


かくいう私も肩で息をしながら、立っているのがやっとの状態。


「ほれほれミゲル坊っ!もっと効率良く治癒魔法を使わんかっ!

そんなチンタラしていたら、負傷者が増え続けるだけっ!

お前さんが魔力枯渇を起こせば、その者共は下手すりゃ死んじまうよっ!」


私に治癒魔法を施していたミゲルに、師匠が怒鳴り声を上げる。


「はいっ!」


ミゲルも荒い息のまま、師匠に大きく返事する。


「私はもう良いから、ジャンをお願いっ!」


「分かりました、シシリア、頑張りましょうっ!」


フラフラのミゲルを抱えて、レオネルが風魔法でジャンの所まで飛んで行った。


「おやおや、数があっという間に半分に減っちまったね?

さて、夕刻まではまだまだあるよ。

まさかもうへばった訳じゃ無いだろうねぇ?」


ニヤリと黒く笑う師匠……。


なぁっ!この人本当に堕ちてないよねっ!?

強さも邪悪さも人間超えて魔王寄りなんですけどっ!?


クラウスもノワールも既にボロボロ。

それでもまだ立っていられるだけ、良くやっている方だ。

全員、どっか骨くらいはいっちゃってると思う。

ミゲルも頑張ってくれてはいるんだけど、いかんせん、師匠の猛攻の前では歯が立たない。


私は一瞬で息を整え、師匠に向かって見えない弓を構える。


「ウインドアローッ!」


叫びと共に、風の矢が師匠に向かって放たれる、が、直ぐに弾き返されたっ!


「構えが邪魔じゃっ、それじゃ攻撃が直ぐに読まれるっ!

ウォーターサイクロンッ!」


師匠が天に掌を掲げると、師匠の体を覆う様に水柱が上がり、背後から飛びかかろうとしていたノワールを弾き飛ばした。


クラウスが風魔法で高く飛び上がり、水柱の上から炎の攻撃魔法を放つ。


「ファイヤーボムッ!」


放たれた炎が水柱とぶつかり、巨大な水蒸気爆発を起こした。


辺りが熱い水蒸気に包まれ、視界が閉ざされる。


徐々に開けてきた視界の先に、光魔法の鎖でグルグル巻きにされたクラウスが、師匠の真上でヒュンヒュンと振り回されている姿が見えた……。



なぁっ!

この人っ!

本当に魔王じゃないよねっ!?


ってか、どっからどう見ても、魔王なんだけどーーッ!!








師匠の魔法特訓1日目は、実に穏やかなものだった。


「さて、魔法とは何か?

それは想像の力じゃ。

例えばこの何の変哲も無い石。

これを、鉛の塊と想像する。

そして、その鉛の塊を、火薬と撃鉄で弾き飛ばす、と想像する」


師匠が、親指を立て、人差し指で近くの岩を指差す。

その人差し指の前で浮遊させていた石が、バンッと火花を上げて放たれ、指差していた岩を砕いた。


「今のは小型の銃を想像して、魔法で掌から発砲したものじゃ。

もちろん、現実とは違い、魔法なら小型でも岩を砕く事が出来る。

さて、早速皆で楽しく魔法を想像してみよう」


と、こんな感じで、夏休みの化学実験教室っぽい始まりだった。


ちょっと拍子抜けしつつ、皆それぞれ思い付く限りの想像力で、様々な物を魔法で具現化させていく。

私は……もちろんっ!


「ファイヤーボーミングッ!」


彼方の山の頂に向かって掌をかざし叫ぶっ!


掌から炎がフワッと現れ、ヘロッと線香花火のように燻って地面に落ちた……。


何でだよっ!


私が地団駄を踏んでいると、師匠がカラカラと楽しそうに笑った。


「いや、良い良い。

何でも思い付く限りにやってごらん。

それで良いんじゃよ」


レオネルが弓を構えるような動きをして、静かに呟いた。


「ウインドアロー」


風の矢が真っ直ぐ、近くの木に突き刺さり、一瞬で掻き消えた。


「おや、レオネル坊やは筋が良いね、そうそう、その調子」


ふむふむと皆の周りを、手を後ろに組んでゆっくり歩く師匠。


「ウォーターガン」


ノワールがさっきの師匠の真似をして、水の銃で岩を撃ち抜いた。


「おやおや、ノワール坊やは早速攻撃魔法を使いこなしているね。

なかなかやるのぅ……」


ニヤリと何事か考え、楽しそうに笑う師匠に、この時初めて背筋が凍ったのだが、愚かにも私はその時、気のせいで済ましてしまった……。


本当に、この愚かな選択を後々嫌という程後悔する事になる。


「ファイヤーボム」


クラウスが炎の塊を森に向けて放つと、木々が爆発してパチパチと爆ぜた。


「ふむ、やはりクラウス坊やの魔法は飛び抜けておるな」


それを素早く水魔法で消火しながら、師匠は関心したように声を上げた。


「師匠〜見て見てっ!火出たっ!火っ!」


ジャンが掌にマッチくらいの火を灯してはしゃいでいる。


途端に師匠は表情をほんわか緩めてニコニコ顔になった。


「ほんに、ジャン坊は私の癒しだよ」



師匠を癒やしてないで、真面目にやれっ!


「ウインドアローっ!」


ジャンに向かって矢を構え、風の矢を飛ばす。


「うわっちっ!あっぶねーだろっ!シシリアッ!」


持ち前の動体視力で、ギリ避けられてしまった……ちっ。


「あっ、血出てるっ!血っ!

ミゲル〜ミゲルさーんっ!」


と思ったが、掠ってはいたみたいで、ジャンの足から血が流れている。

ミゲルが慌ててジャンに駆け寄り、その足に治癒魔法をかける。


「…2.3……5……7……、ふむ、あの程度にそれだけかかるか……。

ミゲル坊やには実戦で数をこなさせるしかないの……」


ぶつぶつ呟く師匠……。

この辺りから、既に雲行きは怪しくなっていたのだ……。



それから、2週間くらいは、イメージの特訓に明け暮れた。

皆それぞれ、使える魔法が増えてきた頃、師匠がニッコリ笑って言ったのだ……。


「良し。もういいじゃろう。

これより、実戦に移る!

ほれっ!皆、心して受け取れ。

ファイヤーボーミングッ!」


師匠が掌を私達に向けて、炎の爆撃を放った。


……あんたそれ、ドラゴンに放ってたやつやないですか……。


チュドーンッ!


もちろん一撃で吹っ飛ぶ面々……。


その後、エリアヒールで回復され、また師匠の爆撃に吹っ飛ぶ……。


いつしか皆死に物狂いで師匠に向かっていっていた。


あらゆる魔法を放ち、お互いを庇いながら、気が付くと連携のようなものも生まれていって………。


……そして、冒頭に戻る……。






師匠の実戦形式の、もはや修行が始まって早3ヶ月。


どんなにボロボロになっても師匠が治癒魔法で治してくれていたけど、最近はそれが必要無い日も増えてきた。

皆が傷を負う確率が減ってきたのもあるが、ミゲルの光魔法が格段にレベルアップしたお陰だ。


更に強力な光の防壁も張れるようになって、私達に足りなかった防御の部分が格段に上がった。


「良いねっ!ミゲル坊やっ!

闇魔法を防げるのは光の防壁だけだっ!

魔族と対峙した時には、お前さんの光防壁が頼りなんだよっ!」


言いながら、まったく手を緩めない師匠の猛攻に、ミゲルが大粒の汗を流して片膝を突いた。


「ミゲルっ!後方に回って体力温存っ!

レオネルッ、シシリアッ!風の防壁を張れっ!」


クラウスの指示に瞬時に動いた私とレオネルは、風の防壁で師匠の猛攻を防ぐ。


「ノワール、土の砦をっ!」


クラウスが叫ぶと同時に、師匠と私達の間に巨大な土の壁が現れ、グルっと私達を囲んだ。


直ぐに私とレオネルが風魔法で上空に飛び、両手を師匠に向かって広げる。


「カウントリースアローッ!」


無数の風の矢が師匠に向かって放たれる。

私達は直ぐに下に降り立ち、同時にクラウスが飛び上がる、ジャンもレオネルが風魔法で跳び上がらせた。


「フレイムランスッ!」

「ファイヤーボールッ!」


2人が同時に叫び、炎の槍と球を放った。


「あーはっはっはっはっ!

見事な連携じゃっ!あっぱれっ!

フレアブレスっ!」


あんたそれっ!

ファイヤードラゴンが使うやつーーーっ!


「ウォーターウォールッ!」


すかさずノワールが水の壁を出現させ、土の砦と共に、師匠の攻撃を何とか防ごうとする。


「ダブルウェイブッ!」


クラウスが強力な水魔法で師匠の攻撃を相殺にかかる。

私とレオネルで風の防壁を張り、更にその中にミゲルが光の防壁を貼った。


ドッガアーーンッ!


激しい衝撃音と共に、ノワールの土の砦がパラパラと崩れ落ちる。


粉塵が辺りを包み、その中でユラリと揺れる一つの人影……。



「……面白くなってきたわい……」


姿を現した師匠が、ニヤリと笑い、カッと目を見開いた。


ど、ど、瞳孔開いてんじゃねーかっ!


あんたそれっ!もうラスボスやーーっ!


チュドーンッ!


すでに慣れっこになってきた、師匠の爆撃で吹っ飛ばされるこの感覚……。


「エリアヒールッ!」


吹っ飛ばされながら、ミゲルが瞬時に治癒魔法を放った。


……ありがとう、ミゲル……。

あとは無事に着地するだけだよ……。

着地、マジ、大事……。





「あっはっはっはっ、ぶっ飛ばされてるぶっ飛ばされてるっ!

懐かしいなぁ!」


楽しそうな声に、皆その声のする方を振り向いた。


あっ、ちなみに、着地成功しました。


大口を開けて笑うその人に、私は首を捻った。

また美形が出てきたな〜。

誰だろう?この人。


「やぁ、みんな〜お疲れ様〜。

みんなの保護者、エリオット兄様だよ〜」


謎の人物の隣に立つエリオットを指差して、私はボソッと呟いた。


「ファイヤーショットッ!」


一直線にエリオットを狙って放たれた炎の弾を、謎の人物が事もなげにガシッと素手で掴んだ。


驚いてその人を見ていると、ニヤリと笑って掌を開いた。

傷一つ無い綺麗な手に、ますます驚きで目を見開く。


「なかなかにお転婆さんだね。

初めまして、シシリアちゃん」


中世的な見た目のその人物が、穏やかに笑い、私達は息を飲んだ。



いや、だから、誰?


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