ゼフィランサスと、ユリ

さて、アナベルと、なでしこが話していたもう一つの植木鉢。それには『ゼフィランサス』が植えられていた。これは主が意識して植えたものでは無く、どこからか飛んできて根付いたもの。球根なのだが、よく石垣の間とか岩の隙間とか思わぬところから生えている。花はピンクで、葉は水仙のよりも細く柔らかい。花期が短く数カ月咲いて冬には地下の球根で越冬する。

ようやくゼフィランサスも目覚める時期がやって来たようである。

「ああ、やっと葉を伸ばせる時が来たみたいね。花が咲くにはもう少しかかりそうだけど、あれ、ここ何所?私、道路の側に置かれていたはずなのに」ゼフィランサスは周りを見渡した。

「あ、アナベルさんがいる、向こうは良く見えないけどなでしこさん?う~ん花が咲かないと声が出ないか」ゼフィランサスはそう呟いた。

ゼフィランサスが葉を伸ばし始めたことにアナベルも、なでしこも気がついた。

「ね、ね、アナベルちゃん、ゼフィちゃん葉が伸び始めたね」

「そうね、やっと目覚めたのかな。花が咲くといいね、そしたらお喋りできる」


暫くしてゼフィランサスは花を咲かせた。

「あ~やっと喋れる。アナベルさんこんにちは」

「ゼフィランサスちゃんこんにちわ。やっと喋れるようになったのね、あ、名前呼びにくいからゼフィちゃんでいい?」

「いいよ、それにしてもここ何所?」

「ああ、主様引っ越したのよ。ゼフィちゃんは葉だけになっていたから解らなかったのね。あっちになでしこちゃんがいるよ」

「そうなんだ。ここ日当たりいいね、静かだし、でも嬉しいなぁ引っ越してもつれてきてくれたなんて」

「そうなのよ、日当たりいいし、静かだしいいところよね。え、何!なでしこちゃん。うんうん、そういっとくわ」

「え、なでしこさんなんだって?」

「声が直接届きそうにないから、『引っ越しても連れてきてもらって、花が咲いてよかったね』って」

「私も伝言いい、ありがとうって」

「いいわよ、なでしこちゃん、ゼフィちゃんがありがとうって!」

そうやってアナベルを中継ぎにして、3人は喋り続けた。


さて、この庭にたくさん芽を出しているもの、それはユリ。主の父がいたころには気づかなかったのだが、毎年数が増えて今年はあちらこちらに広がり芽が出てきている。ゼフィランサスもそうだが、ユリも球根で増えるのに、石の隙間やコンクリートの割れ目からも芽を出していてどうやってそこにはいれるのか?

種なら鳥とかが運ぶという事も考えられるが、球根で増える植物がどうやって移動しているのだろうか?

疑問は尽きない。

去年は一本だったところが球根が増えたのか2,3本になったり、去年は生えていなかったところにも芽が出ている。

昔から、『立てばシャクヤク、座ればボタン、歩く姿はユリの花』と、美しい女性をたたえる言葉があるが、この庭のユリはぐんぐん伸びて、人の背丈ほどになっている。確かに花は美しいだろうが、しなやかと言うよりは『頑丈』と言う言葉の方はピッタリくる。

近頃は女性も強くなってきているから、あながち間違いではないのかもしれない。



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