紫陽花のお迎え

紫陽花は6月の梅雨の時期に咲くというイメージだったが、ここ数年、5月の初めごろから母の日などの贈答用として店舗に出回るようになった。

母の日の定番はカーネーションだが、世話が難しく、花の期間も短く多くの場合枯らしてしまうという事で、手入れが楽で長く咲く紫陽花がプレゼントとして定着してきた。そのため多くの品種がつくられることとなる。


この生花店でも立派に花をつけた紫陽花の鉢が売られていた。

コンペイトウ「あら、名無しのごんべさん、ご機嫌いかが?」

名が無い子「元気よ。申請中なだけだもの」

コンペイトウ「へぇ~んだ。強がっちゃって、あんたなんか誰もお迎えしてくれないわよだ。あ!誰か来た!」

店に入ってきたのは、主の娘。名が無い子の鉢を取り上げゆっくりと見まわした。そしてその子をお迎えするために買い求めた。

名が無い子「え、私お迎えしてもらえるの。嬉しい!、コンペイトウちゃんバイバイ」コンペイトウは悔しそうにしたが、そんなこともお迎えされることを喜んでいた名が無い子には届かなかった。

家に着くと名が無い子は包装を解かれ外に置かれた。

「えっと、もう一人いらっしゃるわね、この方がここの主様かしら、うん、何か話している。私の名前の事?主様がお嬢様に何か説明している、良く解らないど・・・。ユーミー?私の事ユーミーって呼んでる。名前つけてくれたんだ嬉しい!!」

そう、品種の登録中だった名が無い子はユーミーシリーズに似ているという事で『ユーミー』と言う名前を貰った。

こうしてユーミーと名付けられた名が無い子はお迎えとなり、この庭の住人となった。


それから数週間後。「うん?お二人で出掛けて行ったのよね、帰りは別々。あらお嬢様が出てきた。じょろに花を挿していったけどあれって紫陽花よね」ユーミーは何がはじまるんだかとワクワク。暫くすると二人とも出てきて、鉢の用意を始めた。切り花などから芽のある節を残して茎を切り、土に刺す『挿し木』と言う方法である。紫陽花の場合切り花でも、摘果した花でも条件が合えば土に刺しておくだけで芽や根を出し増やすことが出来る。

「茎だけじゃお話しできないよね、あちこちから声は聞こえるんだけど、私の声は届かないし・・・」ユーミーは、残念そうにそう呟いた。


それからしばらくして、主の娘は袋を下げて帰ってきた。中から出てきたのはヤマアジサイ。植え付けが行われ、たっぷりと水が与えられた。主がいなくなると早速、

「はじめまして、私ユーミーって言います。よろしくお願いします」

「こちらこそ初めまして、ヤマアジサイの海峡かいきょうといいます。よろしくお願いいたします」

「嬉しいわ、かなり長く一人だったから。おしゃべりする相手ができた。あ、ユーミーっていうのは主様たちがつけてくださったの。品種名が申請中で、ここに来るまで名前が無かったのよ。海峡って不思議な名前ね?」

「もともとは海を越えた島に原生していた種なのだそうです。海を越えてきたのでこの名前が付きました」

「そうなの、これからよろしくいっぱいおしゃべりしましょうね!」

「はい、楽しく暮らしたいです」

紫陽花たちはそうしゃべりあっていた。


紫陽花たちをお迎えし、種まきをした花も成長しちらほら花が咲き始めた。

庭は結構騒がしくなった。

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