目覚めの頃。

暑さ寒さも彼岸まで。今年の冬は水道管が凍結するほど寒かった。温かい日差しに植物たちは目覚め、成長を始める。それは、コムラサキにも訪れた。

「ねえ、ねえ、隣の子少し緑色の芽が出てきてるんだけど」

「しゅんちゃんも新しい芽が出始めたね」

「それは、羽衣ちゃんもさつまちゃんもいっしょよ!」

「早く葉が伸びないかな、お喋りしたい」椿たちは口々にそう言い合った。

暫くすると、緑色の部分は葉となり全体の成長が始まった。

「ふう、やっと周りが見える。えっとそちらはどなた?」

「あ!やっと喋った。初めまして、お話しできるの待っていたのよ。私は椿の春曙紅しゅんしゅくこう皆からしゅんって呼ばれているのよろしくね」

「隣の椿のさつまです。初めまして」

「その隣の椿の羽衣。初めましてよろしくね」

「こちらこそ初めましてよろしくお願いします。コムラサキと言います」

「私たちは、冬に花が咲くんだけど、コムラサキちゃんは?」

「私は、夏ごろに花が咲いて、紫色の小さな実が秋にります、小鳥とかがよく食べに来るんですよ」

「ああ、それでお迎えされたのね。主様たち鳥好きだから」

「主様たち?」

「私たちを主に世話してくれている人と、その娘さん。コムラサキちゃんが枝だけでも全然動じていなくて、せっせと水やりしていたのよ」

「そうなんですか、良かったこれからぎゅんぎゅん伸びないと」

「それは私たちも一緒、みんなで大きくなろうね」

「はーい!」楽しそうな話は長く続いた。


それを少し離れたところから見ていたものがいる。アナベル。彼女も枝だけになっていたのだが少し葉が伸びてきてやっと周りが見えるようになっていた。

「やれやれ、今年も伸び始めたわね。あれ、なでしこちゃんがいないどこ行ったんだろう」アナベルはきょろきょろと見渡した。

「あれ~棚の上が騒がしいな、う~ん、まだよく見えないか」アナベルは下の方を見た。

「うん?あれなでしこちゃんみたい。ああ、地植えされたのね。もう少し私が成長しないと声が届かないか。後は、ユリは去年もあったよね。あれ、何か整地してある。何するんだろう?とにかく私も伸びないと」


なでしこは地植えされ、枯れた茎を取り除かれて一息ついていた。

「ふー。やっとあの狭いプランターから出られた。前の家って日は当たらないし車は通るしで、きつかったのよね。ここは土もいいし、日もよく当たる。さあ、伸びよう花をいっぱい咲かせるんだ!」


そして、前から自生していたユリや、ベコニア、そして駆逐くちくされていたと思われていたクローバーも伸び始めた。


庭は一気に賑やかになった。

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