第12話 登録済みか…

 私が教務員室へ入っていくと若い女教師がビクッとして、そ~っと私の方へ振り返り、目が合うとサッと背中を向けた。

「あの~…」

「なっ…なにかしら?」

 女教師は明らかに動揺していた。

「この画鋲が僕の下駄箱へ入っていたので…その…どうしたらいいかと思って」

「そ…そう…この缶の中に戻しておいてくれる」

「はい…」

 私への嫌がらせの相談もしたかったのだが、どうも、そういう雰囲気ではなかったのだ。

 画鋲を教務員室へ運んで私は、トボトボと校門へ向かった。

 校門の脇にはパトカーが停まっていた。

 カチャッと助手席のドアが開いて警官が一人出てきた。

「ちょっといいか?」

「はい?」

 警官は私の肩に手を掛けググッと力を込めてきた。

「今回は証拠不十分でだったが、次もこう上手くいくとは思うなよ‼」

 凄みを効かせた警官は、私の足元に唾を吐いてパトカーへ戻った。

 すれ違う時、警官は私にメンチを切っていた。


 ブヨッと大きな身体を小さく丸めて私は帰路についた。

 もう電車にもバスにも乗りたくなかった。

 私が動くだけで通報されそうだったからだ。

 世界中の人が私を性犯罪者として見ている、そんな気がしてきた。


 足早にサッと家に入り、脱衣場の鏡に呼びかける。

「おい‼ 女神いるか?」

 洗面台の鏡が金色の輝きを放ち女神の声が聴こえる。

「だんだん無礼な物言いが加速しているようですね? どうしましたか詩人よ…いや詩人であったものよ」

「耐えられない…」

「なにがですが?」

「この理不尽な交換にメンタルが耐えられない‼」

「かつて詩人であった、ブサイ…ものよ、お聞きなさい、宇宙の理は絶対です‼ 以上‼」

「それが私への断りなく、宇宙の理を押し付けた者の言い様か‼」

「ブサイクなるものよ、貴様に断りとか? 私、神ですけど? なにか?」

「仮にです、私が運命を放棄したらどうなるのです?」

「運命の放棄ですか…それは自らの灯を自身の手で消すということですか?」

「はい…」

「おすすめはしません。なぜなら、あなたの、そのビジュアルの業を埋め合わせるために…あぁ、考えただけで恐ろしい…おやめなさい、私、メッチャ怒られることでしょう」

「貴方都合ですか‼」

「私、神ですけど? 神の都合ですけど?」

「フハハハ、もういい…復讐も兼ねてやってやる…絶対にタヒんでやる‼ ざまあみろ‼ バーカ、バーカ‼」

「脅しですか? 神を脅すのですか?」

 しばし女神は沈黙した。

 そして…

「交換条件をだしましょう」

「はっ?」

「もし、貴方がそのブサイク人生を全うしたなら…という条件でどうでしょう?」

 ついに私は女神とから交換条件を提出させるところまで漕ぎつけたのである。


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