第13話 不平等条約

「条件だと?」

「そうです、珍しいですよ、神から人に交渉を持ちかけるなど…弁えない人風情が…何様の気分やら? そのブサイクなる容姿の分際で…」

「ブサイクはオマエのせいだろうが‼」

「………済んだことです、あくまで私個人が、貴方を不憫に思い、してさしあげることですからね、そこを理解しなさい」

 私は、とりあえず条件とやらを聞くために、煮えたぎった麻婆豆腐のような腸を抑え一度は聞くだけ聞いてみようと低姿勢に応えた。

「言ってみなさい…女神よ」

 しばし考えている風な無言が続き、女神は応えた。

「では…こうしましょう、貴方が人生を全うできた暁には…」

「…には?」

「次の人生を、多少は選ばせてあげましょう」

「……多少?」

「そうです、最大な譲歩ですよ、皆は選べませんからね、完全なガチャですよ生まれ変わりなんて、貧乏だったり、あるいは虫かもしれませんよ貴方」

「虫とかあるのか?」

「そうですよ、最悪ミジンコですよ、ソレを選べるのですよ‼」

「えっ? 虫か人を?」

「いえ…そのタイミングで人とは限らないですが…まぁミミズかゴキブリかとか?は確実に選択肢にははいるでしょうね」

「超絶美形で笑えるほどの金持ち、それ以外に選択肢はない」

「…呆れた図々しさですね…いいでしょう…そういう枠を用意しましょう」

「ホントですか? 女神様」

条件は厳しいですよ」

「条件?」

「悪事を働かない」

「そんなことなら…」

「そして、悪事を見逃さない、この世界において、正義の人で在れ‼」

「弱気を助けろと?」

「それだけではありません、常に立派な人で在れということです」

「なんか…薄っぺらい…」

 私は、意外と浅っさい女神の正義感に戸惑いながらもOKした。

 消え去る前に女神は言った。

「あっ、あと…悪事を働くとマイナスポイントですよ、マイナスポイントになった時点で最高がゴキブリからですからね、気を付けなさい」

 去り際に、とんでもねぇこと、ほざいて消え去った女神に怒りを覚え、思わず洗面台の鏡を拳で割ってしまった。

『マイナス2ポイントですよ詩人よ』

「えっ?」

 私の脳内に女神の声が響く。

 ガラっ‼

「あっ‼」

 洗面台に帰宅した、我が妹コトネが入ってきた。

「お母さ~ん、ブヒーが鏡割ったよー‼ 自分の顔見てイラッとしたんじゃない?」

「まぁ、でも仕方ないわ…その、お顔じゃ…責めないで上げてコトネちゃん」

 もう、何も感じない…私は菩薩となるのだ。

「静かなること…山のごとし…」

 フッと嗤って、やりすごそうとした私に我が妹コトネが言った。

「林だよバカ…ブサイクでバカで性犯罪者って…三重苦見せ付けてんじゃねぇよ‼」

「……」

 なんと私はバカであった。

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