第10話 人のうわさも75日…長くない?

 近所の民たちがヒソヒソと私の事を話している。

 慣れっこのはず…いつも私が歩けば、女たちがヒソヒソと話し始める。

 ただ違うのは、向けられた視線の意味というか…なんというか…。

 耐えられない。

 大きな声で否定したい‼

「私は破廉恥ではない‼」と…。

 昨夜の洗濯場自家発電の真相を伝えたい‼

「抱き枕の少女は癒しである‼」と…。

 メンタル的な癒しであると。


 しかし…昨夜の出来事が、光速の如く駆け巡っているとは…ご近所の情報伝達速度には驚愕せざる得ない…というか、こんなネットワークが構築されているのなら回覧板とかいらなくないか?


「アイツだよ…コインランドリー事件の」

「アノ生き物よ…コインランドリーで~抱き枕相手に?」

「マジで…野外で枕相手に…ダブルヘッダーじゃん」

「二刀流よね~、負の二刀流よね~」


 すでに駅でも私の話題が溢れていた。


 当然…校内でも…。

「居心地が…」

 教室の隅で気を消す私。

「よぉブッキィ…あのさ…なんていうか…ドンマイ」

 我が同級生『タカシ』ですらイジれないレベルの、いたたまれなさ…。

 机に書かれていた『ランドリーディファイラー洗濯場を汚す者の意』しっかりと油性のピンクである。

 居心地どころか居場所すらないクラスを飛び出し私は屋上へ走った。

「私は…私の存在とは…私はいったい、どんな姿をしているのだーーーー‼」

 1時限目の開始早々に校内に轟く怪物の咆哮。


 当然、我がクラス担任の先生に生徒指導室へ連れていかれることとなった。

「まぁ…初見からビジュアルモンスターだとは思っていたよ…正直な」

 先生同士のクラス編成会議において、私はジョーカーとしてババ抜きの結果、クラスが決められたそうだ。

「……そんなわけでな、先生、ババ抜きで負けたんだ…人生でな、ババ抜きで負けて、あんなに悔しかったことはないぞ、ジョーカーのカードを握り潰して床に投げつけてやったよ」

「なんか…すいません」

「だからな…性犯罪だけは避けてくれ、頼む‼ 多少のヤンチャは許容する、だけど性犯罪だけは…それだけは嫌なんだ‼」

 我が担任は泣いていた…。


 教室に戻って大人しく席に着く…。

 ヌチャッ…。

 椅子に汚い雑巾が置かれていた。

「コレでコインランドリーを掃除してこいとでも…」

 小さく呟く私に、我が同級生『タカシ』が小声で話しかけてきた。

「ソレで自家発電してろってさ…」

 クラスの女子からの気遣いあるプレゼントであった。


 私は机にひれ伏し、声を殺して泣いた。

 小さく漏れる私の嗚咽に前の席に座る女子から

「キモい…キモくて怖い…後ろで自家発電してそうで怖い…キモ汚な怖い」

 我が担任に涙ながらの席替えの要請があったそうだ。


 在り得るとのことで、私は窓際の最前列で隔離されることとなったのである。


                                第二楽章 完

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