第9話 長所も短所も紙一重
「アレが私か…」
画質の悪い防犯カメラ映像に映っている姿は、後ろ姿だけでも解る、なかなかのビジュアルインパクトだった。
鏡ではアッチの姿しか映らないが、どうやらカメラにはコッチの姿が映るらしい。
「つくづくいい加減な仕事だ…」
神という名の付く連中は仕事がいいかげんなのである。
「…と、なれば話は早い」
私の記憶を辿ると『スマホ』という便利なツールがあるようだ。
「コレだな」
早速構えてカシャッ‼と自撮る。
油でギトギトした画面をウェットティッシュで、ふき取り確認する。
「……私ではないか…」
画面に映るのは神の最高傑作である私の顔。
「どういうことだ‼」
私の叫びに応えたように画面が金色に光り出す。
「詩人よ…詩人、聴こえますか?」
女神である。
「どういうことだ」
「詩人よ…貴方は神に対して無礼ですよ、だが、お答えしましょう…貴方は自分の意思で自分を認識することはできないのですよ」
「まったく意味が解りません」
女神はスマホを通じて大きく「ハァ~ッ」とため息を吐いてこう言った。
「咀嚼して話しましょうか?」
「いえ結構です、自分では今の姿を確認できないことだけ解ったので、もう結構です」
「そうですか、ではグッナイ、詩人よ」
自撮りではダメなのだ…つまり他人に撮ってもらえばいい。
簡単なことだ。
私は、ちょっと歪んだ抱き枕をギュッと抱いて眠りついた。
翌朝
「ヤダ‼」
我が妹『コトネ』の即答である。
「なぜ? 兄を撮ってくれるだけでいいのだ」
「ヤダ‼ 絶対ヤダ‼ たとえ一時でも私のスマホに性犯罪者のデータが…考えただけでキモい‼ そして…キモい‼」
我が妹『コトネ』の私を見る顔は、キモいというか、恐怖に慄いているように見えた。
「ほらっ、ヒロシ昨夜警察に…ね…それでコトネも…」
そういう我が母も私と必要以上に距離を取っているように思えた。
振り返ると我が父が…そそくさと出勤してしまった。
「おぉぉ…いや…自分の嫌なら、この私のスマホで撮ってくれてもいいんだ」
「……触るのが嫌…」
ボソッと我が妹『コトネ』が目を逸らしながら呟いた。
最後に小さな声で
「自覚ねぇんかよ…」
ハッキリ聴こえる自分の耳の良さに涙が溢れた。
どうも私は昨夜の出来事で性倒錯者として家族に認識されたらしい。
大丈夫…家族以外には知られていないはずだ。
そもそも誤解なんだから…。
我が妹『コトネ』そして我が母との距離感を感じつつ登校する。
ヒソヒソ…ヒソヒソ…
「ほらっ…コインランドリーで…」
ヒソヒソ…ヒソヒソ…
「自家発電してた…」
ヒソヒソ…ヒソヒソ…
「怖いわ~……ウチの娘大丈夫かしら?」
詩人として生きてきた私、
自慢であった耳が良いこと、それが悲しくなる朝だった。
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