第8話 みんな、そう言うんだよね
私は自分の体臭というか…なんか…全体的に私は臭いのだということを自覚した。
抱きしめた抱き枕の少女によって…。
つまり、この少女も臭いということだ。
「洗えばいい‼」
私のメンタルを支え続ける、この少女から異臭が放たれるとは、あまりに不憫。
私は抱き枕を小脇に抱え洗面台へ向かった。
「なんか入らない」
そう長い抱き枕はドラム式と相性が悪そうだ。
なんかグニャッと曲がって歪んだ少女、見ているだけで可哀そうな気持ちになる。
「コインランドリーだ‼」
私はグレーのヨレたジャージにサンダルを履いてコインランドリーへ向かった。
小脇に少女を抱え。
一番大きい洗濯機に少女をそっと寝かせ500円を投入する。
勢いよく回る少女に放水が始まる。
次はソープの泡が少女を包む。
「ムフッ…フガッ…オホホ」
なんだか解らないが泡に塗れクニャクニャと動く少女を見ていたら、よく解らない興奮が込み上げてきた。
私は何を想像しているのだろう…。
乾燥を終えた少女を洗濯機から取り出すと…。
少女が…少女が…ペラくなっている。
中の綿が寄ってしまったらしい。
「おぉおおお…おおぅ」
私は少女を膝の上に寝かせ、必死で綿を調整した。
振ったり、伸ばしたり、摩ったり…。
必死だった。
「はいはい、何してるの?」
コインランドリーに警察の方が立っていた。
「はい?」
「あのね、ここで何してるの?」
「えっ? 洗濯…意外にすることがあるのでしょうか? コインランドリーで?」
「うん、洗濯以外の事をする人がいてね…まぁ交番の方で事情を聞くから」
丁寧にパトカーへ案内され、交番へ行くことになった。
どうやら私は通報されたらしい。
「誤解です」
「うんうん、皆そう言うんだよ、下着を盗まれたって被害届も…最近もね、アレもキミか?」
「どれが私なんですか?」
「いや…諸々…今日もさ、通りかかった人からコインランドリーで性的不審者がいるってさ、ソレで駆け付けたら、その枕相手に腰振っているキミがいてさ」
「誤解です‼」
「うん、皆、そうなんだって、皆、そう言うの‼」
私は1時間に渡り取り調べをされ、今回は保護者から引き取ってもらうという形で、事なきを得た。
「大変、申し訳ありませんでした…」
引取り来た、我が父は警官に深々と頭を下げた。
家に着くまで終始無言だったが
「ヒロシ…そういうことはカメラの無いところでしなさい」
我が父は一言だけ言い残し、私の肩をポンッと軽く叩いて寝室へ戻った。
寝室から我が母が静かに泣く声が聴こえた。
「カメラの無いところ…」
警官に観せられた防犯カメラ映像には抱き枕相手に必死に腰を動かしている私の後姿が映っていた。
画質は悪かった…。
「アレが私なのか…」
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