第7話 愛と勇気だけが友達さ

「…気持ち悪い…」

 自室のドアの前で立ち尽くしていた私を階段の隅から嫌そうな顔で覗いていた、我が妹『コトネ』

 覗き見していたわりには遠慮のないボリュームで気持ち悪いと報告してきたわけだが、私は部屋の前で立っていただけであり、それだけで気持ち悪いとか?

 もう、この世界に存在すら許してもらえないのかと思ってしまうほどの我が妹『コトネ』の嫌悪感が容赦なく伝わってくる。

 視認はできないが、嫌悪感というやつは真っ向勝負一直線で対象者に放たれるものなのだろう。

「受け止めることができない…」

「はぁ?」

 ズカズカと距離を詰めてくる我が妹『コトネ』

「だいたい何を気持ち悪く見てたのよ…うわぁ~」

 すこぶる嫌な顔をして私を見る我が妹『コトネ』

「うわぁ~…3次元捨ててるんだ~…うわぁ~…ひく…そして臭いからドア閉めてくれる、2次元の世界を愉しんでください、そのまま大霊界へ逝ってください」

 ペコリと頭を下げて隣の自室へ入っていく我が妹『コトネ』を見送り、改めて部屋を眺める。

 客観的に分析してみる。

『湿度は高め』菌類が喜ぶ環境と言えよう。

『廊下とは違う異質な芳香』異臭と言い換えてもいい。

『空気が重い』淀んだ空気がミチッと詰まっている感じ。

 清潔感を拒んだ部屋だ。


 しっとりとしたベッドに横たわる染みだらけの少女。

『抱き枕』というヤツだ。

 2次元を無理やり3次元へ具現化したかのような少女の偶像。

「こんなに目がデカいのか…まるで昆虫のようだ」

 顔の面積に対し目は大きく口は小さい少女が笑いかけてくる。

「私は、何を愛でていたのか?」

 この昆虫少女を愛でる気にはならない。

 記憶の中の私は、この少女に話しかけ、笑いかけ、実に楽しそうであった。

「なんの染みなんだ…」

 それ以上、私は踏み込むべからずと記憶に蓋をした。


 夕食を食べ、風呂に入ろうとすると我が妹『コトネ』が話しかけてきた。

「怪人ブヒーがナニ一番風呂に入ろうとしてやがるんですか‼」

 間違えた…我が妹『コトネ』が怒鳴りかけてきた。

 キーンと記憶がフラッシュバックする。

 どうやら私は風呂は最後に入るものらしい。

 我が妹『コトネ』我が母、我が父…そして私であり、私は風呂掃除をしなければならないようだ。

 そして湯船に浸かってはならないという鉄の掟があるようだ。

 湯船の残り湯は好きに使ってもいいらしい。


 深夜、風呂からあがり湿度の高い部屋へ戻り、私は抱き枕をキツく抱きしめた。

「ツライ…」

 私は抱き枕の存在価値を知り静かに鳴いた…いや泣いた。

 思わず漏れた嗚咽、我が妹『コトネ』の部屋から壁ドンされた。

 もう一度、抱き枕を抱くと、ツーンッと鼻をつく異臭がムワッと部屋を汚染した。

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