第二楽章
第6話 自己責任って選択したからであって
トイレに現れた女神は言いたいことだけ言って去っていった。
曇ってひび割れた鏡には、相変わらず神の最高傑作たる銀髪の私が映っている。
「コレが虚構であり、本体はオークであるとか」
にわかに信じがたい現実だ。
つまり、この宇宙のイケメンとブサイクの比率は均等である。
しかし、今、私がいる世界のブサイク共が簡単にイケメン転生するためにバランスが崩れてきた。
そこで超ド級のブサイクの転生を寝ぼけて受け入れたために、天文学級のイケメンを帳尻合わせに差し出したと…。
通常の人を『0』としてイケメンが『1』ブサイクを『-1』として…ひとつの世界のイケメン数値が『30』となった。
そして別の世界でのトータルブサイク数値が『-30』となった所で単体ブサイク数値『-20』が現れた。
モンスターの出現に焦った結果イケメン数値『50』の私が独りで全てを肩代わりすることになったわけか…で?納得できるか‼
実質70のダウンを一夜で受け入れるわけねぇだろ‼
「どんな姿をしているのだ…私の今は?」
(ハッ!?)
私はスマホを取り出した。
「ダメだ…自撮りなんか一枚もない」
自らも直視できないレベルなのか?
思わず生唾を飲み込んだ。
(ハッ!?)
私はトイレから飛び出し家へ帰ることにした。
登校初日から早退である。
フヒーッ…ブヒィー…息を荒げて部屋に駆け込む。
卒業アルバム的な…なにかピクチャー………無いな…。
「我が母さん‼」
「なに? ヒロシ」
「我がピクチャー、アルバム的なものはどこか?」
「アルバム…ヒロシの?」
「無論」
少し間を置いて我が母は話し出した。
「ヒロシ、アナタの写真は無いのよ」
「なぜ? 深い家庭の事情が?」
「家庭に事情は無いわ…ほら、アナタ、お顔がアレじゃない」
「お顔が…アレ…」
思わず自分の顔に両手をあて、輪郭をなぞってしまった。
この独特なフォルム、そして不快な臭いを放つ顔油の量、私はオリーブで洗顔しているのだろうか?
「アナタ、ほらっ卒業アルバムも買わなかったじゃない、なんかアレで」
「なんか…アレ?」
私は洗面台へ向かった。
鏡の中の美の権化、つまり私と向き合う。
「おい…女神よ、いるか?」
鏡が金色の光を放ち女神の声が聴こえる。
「なんです、口の聞き方が無礼ですよ」
「女神よ、この男の顔が見たいのだが?」
「……おぉ、悩める詩人よ…それは無理です」
「なんでだー‼」
「そういうルールなのです、転生者は器の姿を視ることは叶わない」
「貴様ら神は、ホントにクズの集まりだな‼」
「詩人よ、気安く私を呼ばぬように、転生させるまでは神の範疇ですが、それ以降は自己責任でお願いしますよ」
「強制のうえ、自己責任ってなんだソレ‼」
シューッと金色の輝きが消えていく。
私は自室に戻った。
ベッドでは染みだらけの抱き枕が、私にほほ笑んでいた。
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