第5話 そういうことか‼ じゃあ理不尽だ
トイレの女神は話し続けた。
「詩人よ、貴方がいた世界ではイケメンが増え過ぎました」
徐々に言葉のチョイスがフランクになったというか、急に砕けてきたというか、どうもトイレの女神は距離の詰め方が少々早いようだ。
「女神よ、私を、そこらに転がる量産型のイケメンと同じに扱われるとは…いやはや恐れ入る」
「黙れ、詩人よ…等価交換という言葉を知っていますか?」
「無論です、1ドル=135円みたいな」
「宇宙のバランスは保たなくてはならないのです」
「女神様的には115円~125円くらいにということでしょうか?」
トイレの女神は私の問いかけに答える気もなく話し続けた。
ストロングスタイルの会話術である。
「昨夜のことです、貴方が今、転生した身体の男が亡くなりました…」
「死因は?」
「仰向けでコーラを飲もうとして…バスクチーズケーキとの合わせ技で窒息でした」
「流しこもうとして失敗したのですね」
「召される前に、その男は言いました…イケメンに産まれたかった…と…」
「誰しもが願うのではないでしょうか? 選べるのであれば、わざわざハードモードは選ばないと思いますが」
「その切なる願いを聞き届け、私は貴方と入れ替えてみたのです」
「……そこ‼?」
「等価交換とは、こういうことを言うのです詩人よ、移ろい易き通貨価値などで一喜一憂していてはなりません、FXと株は視点が違うのです」
一応、私の言葉はスルーしていなかったようだ。
「なぜ、女神さまは、その男の願いを聞き入れたのです? なぜ私だったのです?」
「……なんか深夜だったので…面倒くさいなと思いましたが、決して寝ぼけたわけではありませんよ」
「寝ぼけて? 夢見心地で転生を行ったのですか?」
「詩人よ聞きなさい、貴方は女神の行いを疑うのですか、嘆かわしい」
「そんなことは‼ しかし、あまりに理不尽じゃないですか‼」
「こちらの世界ではブサイクは転生するとイケメンで無双できると信じているのです、それはとても強く信じているのです、根拠もないのに…しかし、それは希望でもあります」
「で?」
「しかし宇宙には等価交換という絶対の理もあるのです、そのバランスが崩壊しようとしています、そんなときに特大のブサイクが転生を希望してきたら…貴方ならどうしますか?」
まさかの問いかけに私は言葉を失った。
「そう‼ 強大なイケメンと交換するしかないじゃない‼」
私は膝から崩れ落ちた。
自分では確認できないことは唯一の救いかもしれないが、私は特大のブサイクとして、この世に転生したのである。
宇宙の均衡を保つために選ばれしイケメン、それが私だったのである。
以前に問いかけた答えが今‼
「あぁ神よ…アナタはなぜに、このような試練を私に与えたもうたのか…」
「この時のためかよ…」
寝ぼけた挙句の帳尻合わせだったのである。
第一楽章 完
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