第4話 鏡の中の女神

 塩っけの強い昼食を終え私はトイレへ向かった。

 用を足すわけではない。

 鏡である。

 朝、洗面台で見た私の容姿に変化は無かったのだ、しかし私は現在『ブッキィ』なのである。

 私の、あの容姿を例える言葉が難しいのは解る。

『美』を超えた表現の言語化だからだ。

 それが『ブッキィ』であるわけがない‼


 バンッ‼

 トイレのドアを勢いよく開け、鏡の前で自らを映す。

「……Beyond『美』…『美』の向こう側じゃない…安心した」

 ホッと胸を撫でおろした直後の事である。

「うっせんだよ‼ Bの向こう?そりゃCのことか‼」

 トイレの先客というか居住者というか、なんというか荒くれた生徒が5人私に詰め寄ってきた。

「ずいぶんな態度でズカズカとテリトリーに入ってくんじゃぁねぇ~の、あぁっ‼」

 身体に残る残留思念のような記憶で解る。

 彼らは私の天敵…いや捕食者プレデター的存在であると。

 そして、私の中の思念が私に訴えかけるのだ。

「ココはコレで…勘弁してください」

 私は制服のポケットから取り出した財布を彼らに献上したのだ。

「お~う、そういうことだよ‼ 理解が早くて助かるぜ…これからも仲よくしような」

 彼らは私の生徒手帳を取り上げ去っていった。

 なに、気にすることはない。

 この場所をレンタルしたと思えば、問題はない。

 俗にいうショバ代というやつだ。

 問題と言えば…次の小遣いまで20日間あるという、世知辛い未来だけである。


「それに…問題はソコじゃない‼ 何が起きたというのだ‼」

 鏡の中の私に問いかけた。

 すると…

 鏡が金色に光り輝き、優し気な女性の声が聴こえてくる。

「聞きなさい、美しき詩人だった者よ…低血圧で朝の説明が間に合わなかったことをまずは詫びましょう…」

「誰なのですか? トイレの鏡からは想像もつかない程の美声ですが…アナタはもしや?」

「そう…私は貴方がいた世界とこの世界を繋いだ女神です」

「おぉう…さすが私だ…女神の方から話しかけられるとは…緊張なさらなくてもいいのですよ、女神様、たとえココが男子トイレであろうとも」

「トイレなのですか? しかも男子の…まぁいいでしょう、簡潔にお話いたします、アナタは昨夜、コッチの世界へ転生したのです、貴方に合わせて説明すれば…そうですね…3か月風呂に入っていないオークのような男にです」

 呆気に取られてしまった私は言葉を返すことができなかった。

『転生』というキーワードだけでフリーズしてるのに『オーク』はキツイ。

 しかも3か月風呂に入っていないというバックグラウンド付。


「どうしました?詩人よ、受け入れましたか? 次に進んでも大丈夫ですか?」

「……いや…だいじょばない…です」

「続けますよ詩人」

 トイレの女神はコッチのことなどお構いなしに話を続けるのである。

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