第3話 午前中の出来事

「ブッキィさぁ~、朝から湯気でてんじゃん…キモウケる」

 我が同級生『タカシ』が引き笑いしている。

 小グループを築く女子達が私をチラ見している。

 仕方ないことだ、神の最高傑作たる私に女性の視線が集まることは必然なのだから。

「なんで、この季節に、あの汗量?」

「フルマラソンしてきたの? あの体重で?」

「やべっ、いつから入ってたんだよっていう『あんまん』買ったときみたいな湯気」

「わかる~、あんこクソ熱くて食えないヤツね~」

 耳をすませば…私の止まらない汗と立ち上る湯気に対する疑問であった。

 昨夜までは、私の身体を濡らすものといえば肌を重ねた女性の歓喜の涙やらなんやらの雫だけだったはずであり、私から立ち上るものといえば神が選ばれし者にのみ与えるフェロモンであったはず。

「この扱い‼ 我慢ならぬ‼」

 ガタッと椅子をひっくり返して立ち上がった私に、我が同級生『タカシ』はバシッと尻を蹴ってきた。

「次…いきなりキレたら、マジでいくぞ」

 我が同級生『タカシ』が握った拳をグッと私の前に突き出した。

「……はい…すいません」

「ブッキィの分際で、高校デビューする気か? 調子のんなよ、女多めの学校だかって、オメェには、ひとチャンスも転がってこねぇから、3年間絶対に‼」

 どうも記憶からすると、こういう関係性であるらしい。

 再び女性達の声が聞こえる。

「ブッキィ? やだ…ウケる」

「豚に失礼じゃね?」

「だよね~アタシ、とんかつ好きだし」

「2席は離れたいよね~ブッキィから」

 どうやら私はクラス内で『ブッキィ』で認識されたようだ。

 登校初日のホームルーム前に…。


 その後、私が理解したことは、どうやら私の体重は記憶より5Kg増えて87.6Kgだということ身長は162cmだというのに…。

 昨夜までは身長178cm体重56kgだったはずである。

 縮んで広がるという感覚の矛盾に心が付いていかない。


 お昼休みに私の前に座る女子が話しかけてきた。

 勇気ある女性である。

 神に愛された存在である私に話しかける女性は大抵、容姿に自信があるタイプが多い。

 あるいは私なら?という自信を可能性に上乗せして話しかけてくるのだ。

「ちょっといい?」

「あぁ…もちろんだとも、今日の予定かい? キミの詩を謳おうか?」

「はっ? あのさー、鼻息がうるさいんだけど、マスクでもしてくれない? イラつくんで…お願いね‼」

 そう言い残し教室を出ていった。

 去り際に舌打ちされたのは初めての経験だった。


 私は教室を出て購買でマスクを買った。

 我が同級生『タカシ』と食べた昼ご飯は塩が利き過ぎていたようだった。

「うぜぇな~汗だか涙だか解らん汁で食欲が失せるんだよ‼」

 どうやら私は泣いていたらしい。


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