第4話 たぴおかみるくてぃー

「お前、自分のせいで俺達に迷惑かけてるって分かんねえのかよ。いつもいつもヘラヘラしやがって、ちっとは迷惑かけてるって自覚しろよ」


 見た目の割には正常なことを言う総大将は、西條さんをギロっと睨んでゆっくりと詰め寄る。

 一方、西條さんはびくともせずに彼を見つめていた。このような状況にも関わらず、相変わらずニコニコしている。


「あら、何かご迷惑をかけたことがあったでしょうか。……申し訳ございません。あまり身に覚えがないですが、不快な気持ちにさせてしまったなら、謝ります」

「ああ? あー、そーかそーか、本人様は何も知らないんだったんだよな。なら、教えてやんよ」


 おい、おい、おい、何を教えるつもりだ!? そんなことしたら……。


「世の中にはお前が知らないことがいっぱいあるんだよ。例えば、俺のここ。なんて言うか知ってるか?」

「えっと、ズボンですか?」

「ちげーよ。ここだよここ。これはな、ちん……うっ!?」


 彼が男性器の名前を言おうとした瞬間、どこからか現れた黒服によって口を押さえられる。


「おい、やめろ! 離せ!」


 彼はそのまま黒服達にどこかに連れて行かれた。黒服の三倍くらいの体格にも関わらず、あっさりと連れて行かれる彼の姿を見て心が痛む。


「あの方、嫌がってましたが、大丈夫でしょうか?」

「大丈夫です。お嬢様が心配することではありません。それよりも、もう少しで始業時間ですので、お席にお戻りください」

「本当ですね。みなさん、そろそろ席につきましょうか」


 本当に彼女は何も知らないんだな。改めてそう思った。

 


 そして放課後。

 何やら廊下が騒がしい。


「うわー、ここまで変わるんだ」

「怖すぎるんだけど」

「一体、何されるんだろうね……」


 大勢の人が何かを見ながらひそひそと話していた。何を見ているかは大方検討がつくが、興味があるので人混みの中をかき分けてが見える所に移動する。


「たんぽぽ、わたがし、とぅいんくる、さとう、きらきら、よーぐると、ひまわり、こんぺいとう、たぴおかみるくてぃー」


 毎度ながら恐ろしいな。さっきからかわいい言葉をぶつぶつ呟いている人物は、朝、黒服に連れて行かれた総大将本人だ。

 

「ぴーまん、くま、ここあ、はんばーぐ、ぺんぎんさん……」


 西條さんの前で性に関する言動をしようとした人は、誰であろうが黒服に連れて行かれる。そして、戻って来たと思ったら、こんな風に人格が一変している。

 既に五人目であり、これがあるからこそ誰も西條家に逆らわなくなった。というか、逆らえなくなった。

 

 怖。


 ……そろそろ行かないと怒られるな。あまりの悲惨さから目を背けるため、現実に向き合うことにした。

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