囮女《タンクレディ》~デブスはいらないと追放された女重騎士は退職金代わりのビキニアーマーで身も心も軽くなり追放してきたパーティーを軽々飛び越える~

だぶんぐる

囮女《タンクレディ》~デブスはいらないと追放された女重騎士は退職金代わりのビキニアーマーで身も心も軽くなり追放してきたパーティーを軽々飛び越える~

「おい! デブス! お前は追放だ!」


 冒険者ギルドに併設された酒場。

 一仕事終え、鎧を脱ぎ開放感にひたり、ごはんやお酒を楽しむ冒険者ばかりの場所で、全身鎧で身を包み、全面兜のせいで酒もごはんももらえない私がにやりと笑う男に指をさされていた。


 此処から少し離れた村、プライザ村。

 その村の幼馴染で結成されたパーティー【太陽の剣】から私は追放された。


 私の名はデニス。元、【太陽の剣】の女重騎士。


 重騎士の役割は襲い掛かって来る魔物の群れの牙や爪を一手に引き受け、足止めし、後ろにいる仲間達を守ること。

 痛み、恐怖、色んなものを受け止める囮が重騎士の役割。

 だから、なりたがる人なんて本当にいない。

 誰だって囮役は嫌だ。だからこそ、そこに居場所はあった。

 誰もやりたがらないけど必要な人物。

 私はそれになることで居場所を得ていた。


 私はデブで鈍間だ。

 だから、村でも家族と一人を除いてみんなに馬鹿にされた。

 そんなデブで馬鹿な私でも出来るのが重騎士だった。


 全身を覆う鎧と自分の重みで私は壁になった。

 みんなが倒してくれるまで耐え続ければ役に立てた。

 それが私の居場所だった。


 だけど、その居場所さえも奪われるらしい。


「な、なんで……?」

「なんでってお前、頭の回転も鈍間なのか!? お前が最近魔物の攻撃を受け止められないからだろうが!」


 リーダーであるセイヤのしっ責が続く。

 確かにセイヤの言う通り、私は最近魔物の攻撃を抑えきれなくなっていた。

 でも、それは……。


「で、で、も、でも、それは……」

「ちょっと待て! それは、お前らがデニスにちゃんとしたもんを喰わせてやらねえからだろ!」


 弓士のテラが言葉を出せない鈍間な代わりに私の言いたいことを言ってくれた。

 そうなのだ。

 魔物を倒せないデブスにはやる飯はないといつも私は干し肉を渡された。

 テラがこっそり届けてくれるテラのご飯の半分と干し肉を私は自分の部屋で食べていた。


 食事場所は別。

 最初の頃に、飯がまずくなるからと部屋で食べるように言われて以来、ずっと。


 そうだ。どんなにお腹が空いても耐えた。

 こっそり冒険中に摘み取った実や草で空腹をごまかした。

 そんなに頑張って来たのに追放なのか。


 テラは何度も私への待遇の改善を提案してくれたのに。

 セイヤは決して考慮してくれなかった。それどころか、それを口実にテラをいじめてさえいた。


「ああ~ん? テラ、俺達に口答えすんのか?」

「て、テラ、ダメだよう……」


 これ以上パーティーの輪を乱せば、またテラの立場が悪くなる。

 テラはいつもそうだったプライザ村でもいつも私をかばってくれて……。


「とにかく追放だよ! 追放! デブスでも村のよしみでパーティー入れてやったのに役に立たねえんなら追放に決まってんだろうが!」


 なのに、私は何も出来ない。テラに迷惑かけるばかり。


「わか、った……私、出ていきます」


 もういやだ。ずっとデブスデブス言われて、テラに悲しい顔をさせるんなら出ていった方がマシだ。

 すると、隣のテラが机をたたいて立ち上がる。


「わかった……オレも、出ていく」

「テ、テラ!」


 テラの言葉を待っていたと言わんばかりにセイヤが笑う。


「は! テメエのそのいい子ちゃんも嫌いだったんだよ。じゃあな、テラ」

「ちょっと! テラまで追放するなんて聞いてないわよ!」


 幼馴染パーティーでもう一人の女の子であるスレンダが今度はセイヤにくってかかる。

 多分、スレンダもテラが好き。そして、何かとテラに庇われる私がきらい。


「デブス好きのテラなんて脈なしなんだからよ。いい加減諦めろって」

「……テラ、アタシが説得してあげるから、だから……」

「いや、いい。どうせそろそろ潮時だと思ってた」

「……! あ、そう! じゃあ、勝手にすれば! その女とおしあわせに!」


 スレンダは顔を真っ赤にして、ちょっとキツめの吊り目をもっと吊り上げてヒステリックに叫んだ。

 もうテラの追放もわたしの追放も決定だ。

 私は、ここを出る準備をしようと部屋に向かう。


「おい、デブス。その鎧は置いていくのだぞ」


 今まで黙っていたパーティーの魔法使いリーガが口を開く。

 え? 今、なんて?


「聞こえなかったのか? その装備はパーティーの共有財産だ。だから、置いていけよ」

「そ、そんな! じゃあ、私はこれからどうやったら」


 私にはこの全身鎧と全面兜しか与えられていない。なのに、これを返せなんて!


「ああ、そうだ。こんな素敵な鎧を手に入れたんだった。これをやるよ」


 セイヤがにやつきながら放り投げたのは、今の鎧とは全然違う。たった4枚の小さい鉄で出来た……。


「おい! セイヤ、これって……」

「はっはっは! まあ、俺からの選別だ! 大人の店で売ってた素敵な鎧だよ」


 こ、これって、ビキニアーマーとかいう……ほとんど大事な所しか隠せないような鎧。

 これなら、もういっそ普通の服で暫く頑張るか、いや、もう普通の仕事に……。


「ああ、そうそう。デニスの服が不思議な事に全部破れちゃってたわ。妖精さんの悪戯かしらね」


 スレンダが楽しそうにそう言う。

 ああ……そうか。

 この人たちは追放するだけでは満足できないんだ。

 デブでブスの私がビキニアーマーを着て世間様に恥を晒すまでしないと満足しないんだ。


 じわりと涙がにじむ。

 まあ、誰にも見えはしない。全面兜で隠れてるから。

 その時、全面兜でもしっかり聞こえるほどにびりびり響くほどの叫び声が。


「てめぇえええええええええええ!」

「なんだ! テッ、ラァアアアアアアアア!?」


 テラがセイヤを殴り飛ばしていた。

 その巻き添えにスレンダとリーガも。

 みんな細いからあっけなく吹っ飛んだ。


「はあ……はあ……! もう我慢の限界だ……! いつかデニスの優しさや努力に気づいてくれるんじゃないかって思ってたけどもう無理だ。じゃあな、お前ら」


 テラが私の手を引き連れていく。


「ばあか! 守られなきゃ戦えない弓士と鈍間な重騎士で何が出来るってんだよ! 後悔しろ! ばーか!」


 そうだ。私とテラだけだと間違いなく相性は悪い。

 それでも、私は今、テラが繋いでくれている手を離したくなかった。


 テラと一旦別れてここを出る準備を始める。

 リーガに返せと言われた全身鎧を脱ぐ、全面兜も外す。


「ふう……」


 身体をつっかえさせながらなんとか脱ぐ。

 そして、


「こ、これを着なきゃダメなのか……」


 ほとんど下着。いや、私の持っている下着よりも露出度の高いビキニアーマーを見る。

 服は本当に破られていた。これしか、ない……。

 まだ鎧だ。毛布を巻くよりは人の目が気にならない、かも……。


 私は意を決して、ビキニアーマーを着る。


 ん……! や、やっぱりキツい……! ギリギリ入ったけど千切れそうだ。

 今はこのビキニアーマーの強度を信じるしかない。

 1人前線で戦わされて汗もかいたし結構やせたつもりだったけどそうでもなかったのか。


 ス―ス―する。

 ああ、恥ずかしい! こんな格好で人前に出るなんて。

 でも、今からじゃ、店も空いてない。

 今だけでもこの格好でいるしかない。


 うろうろ悩んでいるうちにドアがノックされる。


「ひゃ、ひゃい!」

『あー、デニス? その、大丈夫か?』


 テラが心配そうに聞いてくれる。

 優しいテラ。大好きなテラ。そんなテラに困った顔をさせたくない。


「だ、だいじょうぶだよ! ちょ、ちょっと、いや、すごい変だと思うけど、気持ち悪かったら見なくていいから……!」

『そんな、こと! ない! ないから! 俺は、大丈夫だから! い、行こうぜ』

「うん」


 テラの言葉に涙が出そうになりながら外に出る。

 テラにビキニアーマー姿の私を……!


 怖くて目をつぶったまま部屋から出た私。

 待っていたのは無言。


「ん?」


 目を開けるとテラが真横を見ていた。私を見ないように真横を。


「あ、あはは……やっぱりだめだったよね。ご、ごめんね……」

「ち、ちがう! お前、ほんとに気付いてないのか?」

「え?」


 テラが、耳も顔も首も真っ赤だ。これって……。


「「「はぁああああああ!?」」」


 突然廊下の向こうからセイヤたちの叫び声が聞こえる。

 なに!? なんなの!?


「お、お前、もしかして、デニスなのか!?」

「うそでしょ! なんで!?」

「ごくり……」


 三人がものすごく驚いている向こう側、窓に映った私を見て、三人以上に私の驚いた顔の私が映っていた。その姿は……。



 一カ月後。



「テラ! まかせて!」

「わかっ……た! 無理するなよ! デニス!」


 私は、魔物の群れに突っ込んでいく。

 大量の魔物は私に狙いを定めてとびかかって来る。

 だけど、私を捕まえるどころか攻撃をかすらせることさえできない。

 私の早さについてこれない。


 そう、いつの間にか私はものすごく痩せていた。


 胸とお尻はそこまで痩せてなかったけどそれ以外はとても痩せていた。

 恐らく、【太陽の剣】での過酷な環境でも無茶な運動と、干し肉を何度も噛んで食べ草や実を摂取したことでとても痩せていた。

 正直、胸が邪魔過ぎて下が見えてなかったし、帰ったら出来るだけ空腹を感じないようにすぐにベッドに入って寝ていたし、部屋から出る時はずっと全身鎧だったのでよくわかっていなかった。


 全身鎧から解放され、ビキニアーマーで超軽量の私は、回避型囮(タンク)として活躍した。

 テラを狙うやつがいても私がすぐにおいついて意識を奪い引き付ける。


 そして、それらを全てテラが撃ちぬいてくれる。


「これで、最後だな」

「うん! テラお疲れ様!」


 私達はたった二人ながら冒険者ギルドトップの冒険者パーティーとなった。

 そして、


「な、なあ……デニス。もう十分稼ぎはあるんだし、ビキニアーマーは止めた方がいいんじゃないか?」

「えー、でも、凄いテラ見てくるじゃない?」


 テラと恋人同士になれた。

 テラは、ビキニアーマーに対して否定的だけどすごく見てくるのは知っている。

 それがどきどきして嬉しくて仕方ない。

 でも、やっぱりテラ以外に見せるのはいやだから街に戻る時にはマントを羽織る。


 冒険者ギルドに行くまでもチラチラと男の冒険者たちが私を見てくる。

 どうやら顔も昔とは違うみたいだ。

 まあ、昔はパンパンで頬がふっくらしていたせいで目が持ち上げられてたし。

 痩せてスッキリした後に気づいたけど私は結構目が大きかったようだ。


 嬉しい。

 色んな人にモテてじゃない。

 テラの自慢になれることが嬉しい。


 テラだけは私の見た目が変わる前から優しくしていてくれたから。

 私の中身を見ていてくれたから。


 彼らと違って。


「な、なあ~、デニス。帰ってきてくれよお~。俺たちじゃあ敵の攻撃を引き付けて食い止めることが出来ないんだよ。こ、このままじゃ、俺たちは終わりだ……!」


 セイヤは顔を泥と涙でぐしゃぐしゃにしながら重たそうな鎧を着て私に迫ってくる。

 私はそれをひらりと躱し、マントを外しテラにしがみつく。

 何もかもから解放された私は自由だ。身も心も軽くて大胆になれる。

 いや、一つだけ違う。


「お、おい! デニス」


 私が解放されたくない、私をとらえて離さないものが1つだけ。


「私はテラのものなの。私のなにもかもはテラのもので、私は一生を、全てをテラに捧げると決めているの」


 だから、私はビキニアーマーを装備し続ける。

 テラが顔を赤くしてチラチラ見てくれるから。

 それが嬉しいから。


 そんなテラが観念したようにつぶやく。


「お、重いなあ……責任重大だ」


 身も心も軽くなった私だけど、愛だけは重くなる一方らしい。

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