第2話:隠し部屋

崩れ落ちたゾンビは、頭にぽっかりと穴が空いていて、ぴくりとも動かない。


まさか、死んだのか?


「あっ。」


さっきまで目に涙をためていた愛瑠が、思わず声を上げた。


目を大きく開いて、崩れ落ちたゾンビを見つめている。


それを見て、愛瑠からゾンビへと視線を落とした時。



俺は目を見開いた。



なんと、ゾンビが灰になって、空に散っていったのだ。


灰になったゾンビの身体は、肉はおろか、骨すら残っていなかった。



突然のことで、何が起こっているのかわからない。


なぜゾンビがこの世に現れたのか。なぜ骨すら残らないのか。

他にも分からないことは山積みだ。


頭の整理が追いつかず、困惑していると、後ろから声が聞こえた。


「君たち!大丈夫か!?」


野太い声のするほうに振り向くと、大きくてキリッとした目に彫りの深い顔、さらには少し髭の生えた、THE・イケおじという外見をした男性が猟銃を構えていた。


「は、はい、大丈夫です」


「そうか、間に合ってよかった」


男性はふうっとため息をついた。


「さて、まだ後ろには奴らがはびこっているから油断はできない。今から大事なことを言うからよく聞け。

その制服からして、君たちは近くの高校の生徒のようだからわかると思うが、向こうの商店街に駄菓子屋がある。シャッターが閉じられているが手動で開けられるだろう。駄菓子屋のレジ側の床に隠しはしごがあって、その下には小さな部屋がある。とりあえず君たちはそこに避難しなさい。私もすぐ戻る。」


「なるほど、そこなら多少は安全ってワケか。弘翔、愛瑠、追いつかれる前に早く行くぞ!」

「う、うん!」

「だな!おじさん、ありがとうございます!」


俺はおじさんに感謝を述べると、二人と共に急いで商店街に向かった。



幸いなことに、奴らの足は遅いので、追いつかれることはなかった。しかし、さっきまでの挨拶が絶えない明るくあたたかい空気とは裏腹に、人気がなく、辺りは静寂に包まれ、暗く冷たい空気が漂っていた。


駄菓子屋に着いた俺たちが床を探ると、先程おじさんが言っていた通り、隠しはしごがあった。


「おぉ、ホントにあったなんてな......こりゃすごいぜ......」

思わず優輝がつぶやいた。


俺たちは早速はしごを降りて、シェルターの扉を開いた。


しかし―――


―――シェルターには、誰一人として避難者はいなかった。



「人、全然いないね。みんな別のとこに避難したのかな......?」

「そうかもしれないな。朝はこんなに静かじゃなかったんだけどなぁ、一瞬にして変わっちゃった。」

「にしても、シャッターが閉まって人気の少ない商店街ってのはやっぱ不気味だったな」

「だよね、こんなに静かだったこと今までなかったから違和感しかない......」


俺は生まれてこのかた何度もここに足を運んでいが、雨の日も雪の日も、台風の日でさえ、音が絶えることはなかった。


人々の話す声。ほうきで床をはく音。

どんな日でも、必ずこの商店街からは音がきこえた。


けれど、今日は何も音がしない。


とても静かで、今まで聞いたことないくらい静かで。

寂しいような、怖いような、何とも言えない気分になった。



それから数時間が経過したが、どうにも気持ちが落ち着かない。


今日は、よく眠れそうにないな。

























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死者が世界を覆うまで。 シエロ* Lv.15 @siero-ciero

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