第16話 大盤振る舞い(泣)

 野営をすることになった。マジックボックスから山ほど食料を取り出す。うお、マジックボックス、ああ、食糧だ〜といって泣きながらみんな食べていた。


 そして落ち着いたのか、目が座り始めたので、タニカルさんが、私たちがみはるから寝なさいと、新米たちを寝かせる。


 みんな、大変だったのだろう。崩れる様に寝てしまった。


「ルシア様、今日も凄かったです!」


 声を落として嬉しそうに言う。そりゃ、金貨4枚分の威力だ。


 あああああ、オーガ酒2本投げたやつ、1本でよかったかも、いや、渋って特攻してきても危ないし。ああ。悔やまれる。


「あなたの機転はすごいわね。あと、そんな魔法の使い方初めて見たわ。」


 ベルタがしな垂れてくる。


「ダメー!」


 声を落としてモニカが間に入る。そして、モニカが取られんとし、私を抱きしめる。


 だから、そう言うのをやめなさいって、ああ、胸が、やわら、こら、良いにお、やめてくれ〜。


 

 翌朝?新米チームが起き出して、少し、軽食をとり、調べられた範囲を教えてもらう。


 まあ、落下場所の横穴からずっと一本道だったけど、確認は必要。新米さんは一度、この部屋の奥まで2日かけて慎重に進んでいったらしい。途中の部屋はどうも古代の住居の様で、昔はここで生活していた様だ。


 そして、最奥で2体の石像が守る扉があって、戻ることもでき無いので、扉に手をかけると、石像が動き出し、走って逃げたのですが、扉がしまっており、昨日のようになってましたようだ。


 扉にはくさびを打ち込んでいたのですが、床がえぐれるほど強い力で扉が閉められたそうだ。


 とりあえず、その4本腕が守っていた扉だけは確認して、その後、先が長そうなら後日、もっと準備して複数パーティーで調査することにした。


 新米くん達は、タニカルさんに一緒に冒険させて欲しいと頼み込んでいた。だが、今回のクエストは新米の救出、ギルドも心配しているので帰らせることにした。そして、もう少し調査することなどのことづてを頼む。


 帰りの非常食も五人で3日分渡した。新米パーティーのスカウトはベルタの後輩に当たるそうで、とても心配していた様だ。でも、二人の傷口をずっと押さえて応急処置していたなんて、えらいと思う。


 扉の両サイドに大きな台座があった、ここにあの4本腕がいたのだろう。またいるかも知れ無いから、警戒して扉を開く。


 碁盤の目の様な通路がたくさんあり、その目の中に正方形の中に割れた卵がたくさんあった。


 そして、奥の方に外の光が差し込む場所がある。整列された卵(の殻)、まるで養鶏場だ。最近のワイバーンの異常発生に関係しているのか?


 建物はとても古く、いわゆる超古代文明ってところか・・・。この世界も古代に超文明があったと言うことか?それとも異世界の技術介入か?


 タニカルさんに自分の推理を言うと、タニカルさんも同じ様に思ったらしい。今のところワイバーンは騎士団とかに撃退されているから安心だが、この施設を復旧されて悪用・軍事利用されかねない。


 こんなのは誰にも利用され無い様に焼き払った方がいい!今後の私の平和な生活のためにも!


「タニカルさん、焼き払おう!」


「ルシア様は、そう言ってくださると思っていました。」


 でも、どうやって、機材は程度の火力が出るまで燃え無いだろう。だが燃え始めればこの施設もろとも燃えてくれるに違いない。どうやって、そこまでの火力を・・・。


 タニカルさんの言葉の真意を理解する。残りのオーガ殺しを使うのだね・・・。


 アウアウアウアウ〜。でも、将来の安寧のため!平和のため!私のため!


 この部屋にあった書物や機材、割れた卵、とにかく何かの元となりそうなものを、天井に大穴のあいたあたりに集める。大量にあったため、半日かかった。


 そして、残りのオーガ殺しをその書物などに撒いていく。1本、2本、3本、4本。そしてみんな離れて、「火矢」を打ち込む。


 火は瞬く間に広がり書物を燃やし、卵を燃やし、そしてその火力は施設の装置も焼いていく。(溶けはしないだろうが、使い物にならなければよし。)


 ああ、俺の酒、大事にチビチビ飲んだ酒、金貨4枚の酒・・・。しばらく燃えるのをみていると、少しだけ火力が落ちた様に思えた。


 大穴のあたりはまだ燃えているが、床に飛び散った燃えかすがまだ燃える部分を残しているのに火は消えていく。


 空気穴があの大穴だけ、火力に比べると空気が足りていない?私たちのいるエリアは二酸化炭素でいっぱいになるぞ!


 やばい、酸欠になる!


「タニカルさん!早く脱出し無いとみんな酸欠になるぞ!」


 タニカルさんは酸欠の意味が分からなかったが、私の鬼気迫る表情に危険を感じとる。


「みんな!縦穴まで戻るぞ!走れ!」


 タニカルさんの掛け声で、みんなが走る。


 タニカルさん、ルモアさん、ベルタ、モニカ(に、脇に抱えられる私)が疾走する。


 縦穴まで戻ったが、やはり酸素が奪われている。低い位置(私の顔のあたり)はもう息苦しい。苦しそうに、みんな、早く上がれと言う。モニカが私を抱き上げる。


 むお、今は文句言え無い、ありがたく抱き上げられておく。ロープはあるが、一人一人登っていられ無い!どうする!


 壁は地属性、金属とかでは無いならあれが出来る!


「足絡み(2消費)」を4列交互に30個、壁に発動する。


 ポコポコポコと壁に10センチくらいの突起が飛び出る。私の意図を理解してみんな登り始める。モニカも私を胸に抱いて登ろうとする。


「ルシア様、自分で抱きついて!両手が使え無い!」


 登るだけなら自分でもできたかも知れ無いが、二酸化炭素の量の進みも解らない。

モニカに任した方が良さそうだ。


 せめて背中に回りたかったが、それでは体重が後ろに持ってかれるので、垂直の壁を登る時は危険かも知れ無い。


 しょうがなく抱きつく。首に手をかけるとモニカの腕の邪魔になるので顔を胸に埋める形になる。


 こんな時にも恥ずかしくなり、少し力が緩まる。モニカが真剣な口調で「もっと強く」と怒る。


 力一杯(筋力6)で抱きつく。


 なんとかみんな上まで登り切る。登る時に捨てた松明が次々に消えていったので、正しい判断だった。私はモニカにありがとうとお礼を言った。


 胸に埋めさせてもらってありがとうって意味じゃ無いからね!モニカが嬉しくなって抱きついてくる。もう、どうにでもして・・・。


「ルシア様、あれって・・・。」


「ああ、密閉空間、密閉された部屋などで、火を炊くと、息苦しくなって、生物は死んでしまうのです。以前書物に書いてあって・・・。」


 前世の常識は化学が進んで無い世界では理解でき無い。とりあえずそれっぽいことを言っておく。


「ルシア様は博識なのですね。だからドラゴン討伐の時、ドラゴンの巣でブレスを受けると、息苦しくなって倒れる騎士が多かったのか。あの時ルシア様の知識があれば・・・。」


 タニカルさんも経験はしていたのか。モニカ、もういいだろう。窒息させる気か!

胸で酸素欠乏症にするつもりか!


 体を押し退けようとするが、力では全く勝てない。やばい、死ぬかも、窒息で・・・。モニカは堪能したのか離してくれた。危なかった・・・。


 ハアハア、息を整える。危うくモニカで酸欠になるとこだった。とにかく、帰りますか。今から帰ればギルドに報告して、シルキーさんの夕食に間に合う!


 急いで帰ろう!


 急ぎギルドに帰り、タニカルさんの方で報告し、施設の破壊も報告した。マスターは私たちの考えに賛同してくれた。


 あと、火力を必要とした為、残りの8本全てオーガ酒を使ったことも報告すると泣いていた。


 泣きたいのは私だ!


 帰り際に、今回のお礼がしたいから、また来てくれと言われたので、明日の午前中に来るとアポを取って帰宅。


 全く、酷い目にあった。まあ、新米さんも助けることが出来てよかったが・・・。

屋敷に帰るとシルキーさんが夕食を用意しておいてくれた。


 ルモアさんが先に帰って伝えておいてくれたのだ。昨日はダンジョンに外泊だったが別に怒るでもなく普通にしていた。


 そう言うこともあると理解してくれている様で、とても安心させる。あまりにもお腹がペコペコだったので、部屋には戻らず、すぐに夕食を取る。シルキーさんの夕食は、非常にうまかった。


 ああ、この先、本当に独り立ち出来るのだろうか。


 家に仕事?から帰るとおいしい夕食が待っているなんて、前世の若い頃に実家で両親と暮らしていたとき以来だ。


 タニカルさんの策略にハマっているのでは無いだろうか・・・。


 食事後、お風呂に入り、自分の部屋にいくと念願の鍵がついていた。内側からちゃんと閉める事ができる。マスターキーはシルキーさんが責任を持って預かってくれるらしい。


 一昨日の朝に、私の気持ちを理解してくれていたので、大丈夫だろう。安心して眠れそうだ。


 安心したので、魔法の訓練をしようと思ったが、残りの魔法力のほとんどを使って壁に、ボルダリング設備を配置したので、実はもうギリギリだった。


 ああ、思い出してしまった。自分からモニカに力一杯(筋力6)抱きつき、自分からモニカの胸に顔を埋めてしまった。自己嫌悪、緊急事態とはいえ、30も年下の女の子になんて事をしたのだろう。


 歳の離れたおじさんが、女の子の胸に顔を埋めている図を想像して、自己嫌悪になる。異世界に来てもはっちゃけれない、素人童貞のおじさんが身悶える。


 済んだことを悩んでもしょうがないのだが、済んだことをうじうじするのが私なんだよ。こう言う時は風俗や酒場に行ってパーと忘れるしか無いな。


 確か、モニカに街案内してもらった時、言い淀んだエリアがあったな。おそらくあのあたりが風俗街、娼館とかがあるのだろう。明日の夜にでも行ってみるかな。


 ふう、ちょっと心が楽になった、寝よ。魔法力も限界だったので、意識が遠のく。

遠のく途中、扉の鍵が開けられるのを見た、人影が入ってくる。


 シルキーさんか?何かあったのかな、ああ、もう、意識が・・・、あれ?

モニカ!?なんで?ああ、シルキーさんは悪戯好きだったか、起きろ、私!起き・・・・。ぐう・・・。


 何時間たったか、目が覚める。魔法力がある程度回復した様だ、久々の昏倒睡眠だった。状況を確認する。モニカにぬいぐるみ扱いを受けている。以上!


 って、力一杯、押し退けようとするがガッチリ腕を回されている。モニカは女の子と言え、剣も格闘も出来る戦士だ。おそらく一般の10以上の筋力があるだろう。


 私の倍、本人はそれほど力を入れていないだろうが、私からすると万力のごとく強敵だ。


「こらあ、お姉ちゃんを困らすんじゃ無いの!」


 むにゃむにゃ言いながら幸せそうに寝ぼけている。本当にタニカルさん、弟作ってあげて!今すぐ、今頃しっぽりしているのでしょ!避妊しないでお願いします!


 流石にモニカに魔法攻撃するわけにもいかないので、諦める。回復した魔法力を使い切って昏倒睡眠をもう一度しようと考える、そう思うと、せっかくだし何か身のある魔法の訓練がしたいと思う。


 ああ、柔らかい、って集中しろ!


 そう言えば、モニカもあの4本腕と戦って傷を受けたに違いない、新米ばかり治療して気にしてやれてなかったかも知れない。


 どこを怪我しいているのかわからないので、抱きしめた手で回復した魔法力を全て使い「小治療」をかけまくった。


 ああ、意識が薄れる、こんな戦略的撤退って男としてどうなんだろう・・・。まあ、いいか・・・。


「ルシア様ありがとう」


 薄れる意識の中、モニカの呟きを聞いた様な気がした・・・。


 翌朝、拘束は解けていたが、服がはだけて、胸元が半分以上見えていた。またか、流石に毎度毎度びっくりしていられない。


 私も大人だから、めっちゃドキドキしてます!


 モニカのパジャマ、ダブダブのTシャツの方がいいよ、絶対。ボタンのはあかん!


 モニカに掛け布団を掛ける。毎日これでは朝から疲れる。そう思っているとシルキーさんが何事も無く入ってくる。


「昨日はお楽しみでしたね」と、ニヤニヤしながら言う。


 この人、転生者じゃないの?ゲーム知ってない?


「シルキーさん、ひどいですよ。鍵かけたのにモニカが忍び込んできましたよ!」


「ええ、モニカにマスターキーを貸したので。」


 しれっと言い切る。


「なんで?どうしてそうなった!」


 といつめると、ヨシヨシと私の頭を撫でながら、


「スイーツで買収されました。」


 またしれっと言い切った。このメイド大丈夫!?マジックボックスから新鮮なサバンナフルーツを1つ取り出して、


「これでどうです?」


 と言うと、シルキーさんはサバンナフルーツを懐に入れて、


「買収されましょう。」と恥ずかしげも無く言う。


 この妖精面白いな、少し迷惑なところもあるが・・・。


「モニカ、起きろ!朝だぞ、朝ごはんだぞ!」 


 掛け布団の上から体を揺する。


「もう、お姉ちゃんだって言ったでしょ!」


 モニカは寝ぼけて、私を抱きしめる。掛け布団越しでもわかる弾力のある胸に、またドキっとする。


 そして、また力で勝てなくて身悶えている姿をシルキーさんがニヤニヤ眺めている。シルキーさーん、助けてよ・・・。


 しばらくしてモニカがやっと起きる。


「ルシア様、おはよ〜。」


 むにゃむにゃしながら言う。


「モニカ、何度も言うけど、人の布団に入ってこないこと!」


「だって〜。」


「だってじゃない!」


「だって、壁を登るときにルシア様に抱きしめられたのを思い出しちゃって、ギュ〜っとしたくなって、いてもたってもいられなくなったんだもん。」


「それでも、男の人の部屋に入って布団に忍び込むなんてだめ!」


「でも〜。」


「わかったら、自分の部屋に行って着替えてきなさい。朝食を食べてギルドにいくよ。」


 昨日、ギルドマスターに言われてた約束を思い出しながら、モニカを叱る(全く叱っている様には見えていないが)


「は〜い、じゃあ、ルシア様、またお水出して!」


「じゃあってなんだ、またってなんだ。」


「お水くれたら、すぐ用意するから〜。」


 いつものお願いポーズをとる。かわいい。私、甘いよな。そう言えば、姪っ子にも甘かった。高校入学のお祝いにノートパソコン(28万円)を買ってあげたりしたな。それに比べたら安い物か。


 可愛さにやられ、論点がすでにずれている事に気付いていない。また、ベッドに座っているモニカの前に立って、手の器に「水作成」で水を作る。


 いつもの様にモニカが私の手の器に口をつけて水を飲み干す。やばい、エロい。コクコク飲むモニカと目が合う。ドキッとする。


「あー、美味しかった、ルシア様、ありがと〜。」


 ぴょんと立ち上がって、部屋を出ていく。また、疲れ果て、ベッドに沈む。


 シルキーさんがヨシヨシと頭を撫でながら、「それで、この果物はあと何個、お持ちなのですか?」


 キリッとした眼差しのブレないシルキーさんにも疲れた。



 朝食で食堂に行くと、すでにタニカルさん夫妻は座っていた。ルモアさんは心なしかツヤツヤしてた。


 私は大人なので(モニカに惨敗しているが)気付いていない振りをしてあげる。弟お願いしますね!


「今日は、ギルドにお礼されに行くのでしたね。」


「そうですね。ルシア様も御足労お願いいたします。」


 タニカルさんって丁寧だけど、まあまあ、我を通してくる所あるから、気をつけないと、前のクエストも丁寧だが強引だったし・・・。


「そう言えば、ルシア様、昨日、神の恩恵は授かりましたか?」


「いや、昨日はなかったよ。まあ、そんなにしょっちゅうは無いでしょう。確かに大変なクエストではあったけど。」


「そうですか、大変な経験、死ぬ様な事を経験しても確定では無いのですね。」


「まあ、一番大変だったのはタニカルさんとルモアさんだった様にも思えますが。」


「ええ、ルシア様がいなかったら、今頃、あのダンジョンで倒れていたでしょう。」


「そうですか?逃げる選択肢もあったと思いますが。」


「いえ、あの4本腕は私たちとモニカとベルタで当たっても倒せるかどうかでした。

あそこで逃げて追われ、縦穴で一人一人ロープを登るのを待っていられなかったでしょう。もしうまく登れても、最後に登る人はあの4本腕を一人で相手しつつ、隙を見てロープを駆け上がらないと行けなかったでしょう。よくて生き残れたのは一人か二人でしょうか。」


 なるほど、確かに、あれを二体同時に相手なんか無理だ。運が良かったのか。


「ルシア様がいてくれて本当に良かったです。」


「いやいや、ですが、もうウンザリです。危険なクエストには誘わないでくださいよ!」


「それは、その時次第ですよ」


 ニッコリ言わないで!


「なになに?なんの話?」


 モニカがひょこっと体を乗り出して話に入ってくる。


「ルシア様にまた助けられたと言う話だよ。」


「そうだよね!ルシア様って頼りになるよね!」


 握り拳作ってニッコニコで言う。そう言う状況がうまく回っただけで、すごいことでは無い。あんまり過大評価はやめてって!次もお願いみたいな空気出さないで!



 朝食は焼いたパンとベーコンエッグ、やっぱ召喚勇者が少し文化を流していると考えた方が良いな。


 現在、どれだけいるのだろう。流石に胡椒は無いか、やっぱ砂金と取引されるのかな?


 そう言うのも知っておきたいが、うかつなこと言うとそのまま就職先が決まってしまうので、今はよそう。山賊風のギルドマスターのお礼ってなんだろうな。


 クエスト報酬って事だと思うが、今回は金貨8枚分のお酒を使う大盤振る舞いだった。それなりの報酬をもらわないと割りに合わない。


 だが、報酬を確認せずにクエストを受けたことを思い出し、そうはうまくいかないだろうと思い直す。


 ああ、オーガ殺し。1本だけでも買い戻したい!ダメかな?あの喜び方では無理だろうな。



 今日もギルドには四人で行く、一応クエスト報酬らしいので全員いないといけない。


 ベルタはギルドにいるだろうか・・・。


 いた。


 ギルドには山賊風のマスターとベルタ、あと、助けた新米さんたち、勢揃いだった。やはり、ワイバーン討伐祭りのせいで冒険者は少ない。ワイバーンは中堅にはおいしい討伐対象らしい。


 だが、戦死者も出ている様で、モブの私や街や村の一般人のために頑張ってほしい!


「ああ、きやがったな。」


 きてやったよ、報酬くれ!


「今回の報酬は、すまない、これだけしか払えない。」


 タニカルさん、ルモアさん、ベルタ、モニカ、私の五人で金貨20枚。一人金貨4枚だ。良い報酬だと思うが、多分、マスターはオーガ殺しのことを言っているのだろう。


 でも、あれは貰い物だし、売って生活の足しにする気はなかったので、残念であったが、十分だと言うと、山賊が唸る!


「お前、見所あるな!お前にはギルドカードでクエストの斡旋を渋ったりしないからな!」


 いや、そこは渋ってください!


 まじで。


 レベル以上のクエストは進めないでください。


「ルシアさん、いい事じゃないか、あんまそんなことないよ」


 ベルタが私の頭に手を乗せて言う。乗せやすい位置らしい。


 モニカがベルタの手を払い、「これは私の」みたいなこと言って引き寄せる。新米チームも一人金貨2枚が渡される。


 新米たちは大喜びだ。


「ところで、タニカルさんは、現役を退いたって聞いていたけど、たまにクエストをうけるんだね」


 素朴な疑問をぶつける。


「そうですね、勘を鈍らせないために、たまに受けますね。ですが、1週間も2週間もダンジョンを潜るには辛いので、軽いのを受けます。」


 やはり足が悪い様で長い期間は無理の様だ。


「魔法で足は治せないのですか?」


 これも素朴な質問、この世界の魔法は完全でないにしろ、それぐらい治せそうなのだが・・・。


「ええ、実は私は1度ドラゴンに右足を喰いちぎられているのです。その後、国の計らいで司祭様や錬金術師のおかげで足は復活したのですが、完全には直せなかった様で、ドラゴンの呪いだと聞いています。司祭様にも解くことはできなかった様です。」


 ドラゴンの呪い、この世界のドラゴンは魔法も使う完全な上位種で、ゲームで出てくる雑魚っぽいドラゴンはいないのだろう。


「ですが、司祭様のお力で、完全ではないですが、呪いをいくらか中和できたらしく、生活・行商の旅や軽いクエストでは問題なく生活できるのです。」


 司祭様すげえ!


 あと、国計らいを受けられる冒険者って、やっぱ、すごい冒険者だったのだろう。


「タニカルさんは今も十分すごいですが、以前はもっと凄かったのですね。」


 素直に感心する。


「ルシア様ほどでは無いですよ」


 謙遜と誤解!そんなことはない!


「あと「様」は、やめません?こんなすごい人から様扱いされると、誤解されます。」


「ルシア様は本当にすごいと思います。ですが、お困りでしたら・・・・、ルシア殿、でもよろしいですか?流石に呼び捨てはできません。」


 義理堅いおひとだ。


「なら、私はルシアさん、でよろしいですか」


 ルモアさんが言う。それでいいですよ。ベルタはさん付けだった、呼び捨てでもいいのだが、マスターは呼び捨てだった。


 この人の呼び方に謙譲語されると笑いそうになるので呼び捨てでいいや。


「モニカも呼び捨てでもいいんだよ。」


 モニカはもじもじしながら


「ルシア・・・、様!」


 真っ赤になって、「私はルシア様でいいんだよ!」


 今更、呼び方を変えるの難しいよね。私も、年上で先輩と思っていた会社の同僚が、年下で後輩だったの知ったのが半年後で、敬語が一生取れなかったよ。社内では年下にでも丁寧で礼儀正しい優しい先輩と思われていたらしい、いいけどね!


 新米達も「ルシア様って呼んでもいいですか?」と言ってくる。


 いや、あんたらは様でなくていいでしょと思ったが、みんなの目にはこの窮地を助けてくれた恩人と映ったらしい。


 だからタニカルさんの活躍あってこそだからね。まあ、目くじらたてるほどでも無いので許可する。


 前衛の戦士君二人はタニカルさん、ルモアさんと、スカウトの女の子はベルタと楽しそうに話している。


 そして、私は魔術師の女の子と、神官風の女の子に捕まっていた。


「ルシア様、ちゃんと自己紹介ができていませんでした。サンシーク神を信仰する僧侶で、ルカです。」


「妹の魔術師のリコです。」


「ルシア様、あれ、どうやったんですか!?」


「『小治療』って聞きましたが、どうやって私たちを助けてくれたのですか?」


 モニカより少し若く、身長も頭一つ低い双子の女の子も、私よりは身長が高く、二人に攻め寄られドギマギする。


 女の子に囲まれた経験がほぼ無いので慌ててしまった。少し考えて、わかるようにやった事を説明する。


 魔術師二人は目をキラキラさせて、「どうやってできるようになるのですか?」と聞いてきたので、とりあえず、たくさん魔法を使うことを勧め、1回1回の魔法も大事に集中し考えて使うことを勧める。


 ただ発動して終わりにしない様にと、そして慣れてきたら、まず魔法力の消費量を下げても魔法が発動できる様に訓練する。


 それができたら消費量を増やして魔法が発動できる様に訓練する。


 また、精密射撃は発動後、当たるところまでを意識して練習すれば、できる様になる。


 消費量を減らす方法を会得し、少ない消費量で練習回数を増やし練習すればできる様になると教える。


 治療魔法も精密発動による局所治療で高い治療力を出せる事も教えておいた。

魔法継続は危ないので黙っておく。


「おーし、まずは消費量調整を会得するぞー」


 双子はオーと拳をあげる。


 カワイイ。


 しばらく雑談して、そろそろ行こうと、スカウトの女の子が皆を呼ぶ。


「ルシアさまー、またねー。会得できたら見せますねー。」


 元気に手を振って出ていく。スカウトの女の子がどうやらリーダーの様だ。すると、後ろから何か殺意の波動を背負ったモニカがヌッと現れた。


「ルシア様、良かったね、可愛い子たちにチヤホヤされて!」


 なにやら怒っている様だ。


「何か怒っているのか?」


 聞くと、「え?」と自分の今の感情が理解できていない様だ。


 ヤキモチか、仲良い友達が他の友達と仲良くしているとたまに思うよね。


 モニカはヤキモチを焼いた事なかったのか。


「ハハハ。」と笑いながら腕を組んで首を傾げている。


 タニカルさん、情操教育はどうなっているの?ベルタ、君だけが頼りかもしれない。

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