第17話 新装備は子供服売り場で?

「本当に今回は助かった、もう一度お礼を言わせてくれ。」


 山賊が頭を下げる。


「ずいぶんあの子達を買っているのですね。」


「ああ、五人とも仲良いのもあるが、とても有望なんだ。あの戦士の二人なんか、第一声が戦士の教官に仲間を守れる様になるにはどうすれば良いかと聞いたんだ。」


 すごい事なのかと聞くと、普通戦士をする者は、相手を叩き伏せたり、倒すことを先に考える事が多いらしい。


 モニカも最初は敵を蹴散らす方法を聞いてきたそうだ。


「え、ええ?そうだっけかな〜」と言っている。


 あの魔術師二人も素養も高いが、魔法の選択の優先順が、戦士たちが自由に動けて、十分に力が出せる方法を教えてくれと聞いたそうだ。


 スカウトの子は四人のお姉さんらしく、みんなを纏める方法を聞いてきたそうで、みんな各役割を知ってからもっと後の頃に考える事を仲良し五人組のために考えて聞いてきたらしい。


 ああ言うパーティーは強くなるし、寿命も長い。ここで失うのはとても惜しい。

だから、一際そう思うらしい。


 ああ言うのが勇者パーティーになるのではと思っているらしい。


 確かに、助けにきた時、あの瞬間は本当に驚いた。3日ぐらい放浪した新米パーティーとは思えない意志の強さを感じた。


 この山賊、めっちゃ、いいおじさんだった!水の洞窟は当分封鎖して、信頼できるギルドメンバーに調査させてから判断するそうだ。


 できれば、あそこは新米冒険者が経験を積める場所にしておきたいそうだ。


 ヴィフトさん、いい人やね。


 とりあえず、今日の用件は以上だそうで、各自解散となった。タニカルさんは今日も商人ギルドに用があるそうで、ルモアさんと出て行った。ベルタは基本フリーで特定のパーティーに所属していないらしい。ダンジョン探索とかに呼ばれて参加するくらいだそうだ。


 どのパーティーからも引っ張りだこだと思うが、あまり深入りしないでおこう。

でもフリーのスカウトって日頃どうして生活しているんだろう。モニカみたいに実家があれば別だが、一人暮らしなら生活費を稼がないといけない。


 全く呼ばれない間、今みたいなワイバーン祭りみたいな時ってどうしているのだろう。ソロ冒険者になる予定の私としてはその辺りだけは興味あるな。


「ベルタ、フリーの冒険者やソロの冒険者って日頃なにやっているんだ?ソロでもできるクエストとかあるんか?」


 今後のことも考えて聞いておく事にする。


「そうだねえ、私はしょっちゅう呼ばれていたのでまだ蓄えがあるから、それほど困ってないけど、最悪、お一人様クエストはやる事があるかな。私の様なスカウトは潜入調査や人探しとか、そっち系をする。普通の冒険と違って面白かったりするよ。」


 シティアクションクエストってやつか。確かにこんな大きい街であれば、厄介ごとや困りごとはたくさんあるだろう。そういう街の便利屋さんって憧れる。


 でも、軒並みそういう漫画の主人公って毎日お金に苦労しているイメージだよな。大家さんと家賃の先延ばしとか話してそう。そういうのはちゃんとした大人はやりたくない。


 冒険者って前世のアスリートと同じで、怪我をしたり、体が思う様に動かなくなると引退し、就職なり自営業をする。


 もともとサラリーマンやっている人より転職が難しそうなイメージあるが、今まで冒険しかしてこなかった人の再就職先ってあるのかな。


 どこも、世知辛い世の中だな・・・。そういう意味では、タニカルさんの勧めで今から商人を目指す方が無難かもしれないと思えてくる。


 夢も希望もないが、露頭に迷いたくないし、痛い思いもしたくないし、冒険もあまりやりたくない、商人もありか・・。マジックボックスあるし、最悪、オーガ殺しの運搬で楽に稼いで平和に生きるのもありか・・・。


「商人もありか・・・。」


 ボソッと言うと、モニカがちょっと微妙な顔をしている。商人としての私と、冒険者としての私を比べているのであろう。


 モニカ、冒険者としての私ってそんなにカッコよくないよ。将来性も全く無いし。


 まあ、商人としての私も、マジックボックスでオーガ酒を運搬して、ヴィフトさんに売りつけるだけのカッコよく無い商人だろうが。


 モニカの色眼鏡には私はどう映っているのだろう。詳しく知りたいが聞くのが怖いのでやめておく。過剰な評価で自分を高めようと意識する人もいるが、私はヘタレなので過剰な評価でストレスになるので、自分の評価が聞けない。


 ともかく、商人ギルドに行って、どう言うシステムになっているか聞きに行こうか。


「モニカ、商人ギルドまで案内してくれ。」


 モニカもまだ悩んでいる様だ。あんたは私のオカンか?子供の将来を考える母親みたいになっている。


「そうなると、タニカルさんに弟子入りした方がいいのかな」


「それがいいよ!」と引きずる様に冒険者ギルドを後にする。


 まだ昼前だが、街には人が多く、日差しが強く、暑い、いつもの濡れタオル(冷)を作って肩にかける。


 おおう、気持ちええ。


 モニカが物欲しそうに見下ろす。・・・、仕方なくモニカの分も作ってあげる。


「ルシア様、優しくて好き!」


 モニカは無邪気に濡れタオル(冷)で顔を拭いて、肩にかける。気の利く出来る男は言われる前に差し出すのであろうが、私はそう言うのは全く解らない。意地悪しているわけじゃ無いよ。


 商人ギルドは漆喰で綺麗に塗装された壁、綺麗に掃除された床、待合室や、受付、会議室もあって、冒険者ギルドとは大違いだった。受付のおねーさんも上品に丁寧に案内してくれる。


 商人ギルドにも紹介が必要だったので、タニカルさんを探す。もう帰ってしまったかな。奥の部屋からタニカルさんとルモアさんが出てくるのを発見する。


「お父さん、お母さん!」


 モニカが手を振る。タニカルさんたちがこちらに気がついて、歩いてくる。


「お父さん、ルシア様がお父さんに弟子入りするって!」


「いやいや、そこまでは言ってない!商人ギルドがどういうところで、商売方法について知っておこうと思っただけだから、でも登録できるのであれば登録したいです。」


「そうですか、なら紹介者は私で登録の手続きをいたしましょう。」


「そういえば、冒険者ギルドでもそうですが、紹介者に幾らかのマージンを渡さなくて良いのですか?責任だけ紹介者が被るのってなんか、理不尽な感じがしますが・・・。」


「冒険者ギルドではそれほど理不尽な責任は取らされませんね。国家反逆罪とか国家転覆罪とか出ない限り。商人ギルドでは、紹介者に報酬の何%を収める様に取り決めをしている人もいますね。あ、私は良いですよ。ルシア様にはたくさんお世話になっているので。」


 なるほど、暖簾分けというやつか、商人に弟子入りして、商売できる様になったら暖簾分けして、紹介者になり、一部を納めさせる。


 そうする事でどんどん大きな商家になるのか。いい人材、信頼できる人材を育てれば返ってくるものも大きい。前世の商売と変わらんな。


 でも、人材育成を責任持って経営者がやるのは商業の発展においても、雇用に関しても正しい。


「冒険者と兼用し、手に入れたアイテムを売るためだけに登録している人もいます。また、商人ギルドからもクエストが発行されます。ただ、冒険者ギルドの評価は上がらないが、冒険者ギルドを通さない分報酬がよく、商人ギルドから冒険者ギルドを通してクエストを受けると、報酬は下がるが、冒険者ギルドの評価は得られる仕組みです。商人ギルドで受けたからと言って冒険者ギルドの評価は下がりません。」


 ほう、しっかりできているな。冒険者ギルドでも握らされた水晶をしばらく握りながら、受付の人にタニカルさんが話しているのを見る。


 受付の人の反応を見るに、タニカルさんは商人としても信頼が高いのか、受付の対応が違う。本当になんでも出来る人なのだな。


 やはり、なんでも成功体験を経験している人は、他のジャンルでも成功しやすいと聞くが、あながち間違っていないと思う。


 なら、失敗しまくってきた私は、どうなるのだろう。でも、ここにきて成功?いや、成功では無い、危なくクリアは成功では無い。この世界でもそうなのかな〜。ちょっと落ち込んで、水晶を渡す。


「夕方には出来るそうですよ。あと、せっかくなのでギルドマスターにも会っておきましょう。」


「え、いいですよ、そんなに大きな案件関わる事ないだろうし。」


「魔法蔵持ちの商人が加入するのです。会って話を通しておく方がトラブルもなくお得です。」


 トラブルとか言われると弱いので会う事にした。タニカルさんも私の誘導を弁えてきた様だ・・・。



「あなたがタニカルさん紹介の魔法蔵持ちの子ね、よろしく、私が商業ギルドのギルドマスター、アナベルです。」


 ルモアさんと同じぐらいの若さの女性だった。ルモアさんとは仲がいいのか、微笑みながら小さく手を降る。


「魔法蔵持ちは少ないので助かるわ、これからもよろしくね!」


「こちらこそ、よろしくお願いします。」


 ペコリと頭を下げる。今後お世話になるだろうし、良い印象を与えておかねば。


「早速、お願いがあるのだけど、いいかしら。」


「内容にもよりますが・・・。」


「タニカルさんにも依頼しているのですが、今、ワイバーンで騒がれている村への物資の輸送です。」


「救援物資ですか?」


「いえ、現在、ワイバーン討伐が難航しており、冒険者達の食糧や衣料品が少なくなっているそうで、今が稼ぎどきと思ってね!」


 拳を握り締めて言いはなった。慈善事業ではないってことか、いい商人だ!


「商売相手は中堅の冒険者、金も持っているし、この先金が入ってくる予定もある者達から、ガッツリ稼がせてもらおうと思っているわ。」


 持っている奴等から稼ぐ、いい心がけだし、冒険者が住人の生活を圧迫させても良くないから物資を送るのはどちらにせよ必要な事ではある。


 今、ワイバーン祭りが起こっているところは、この街から2日ほどのところにあるライアンの村と言うところだ、あまり大きな村でもない、特産の物も少なく、ワイバーンバブルで現在盛り上がっている。


「ルシアさん、あなたには基本的に薬を運んで欲しいです。魔法学院より買い占め・・・、買い付けたポーションを持っていきたいのですが、ポーションをいれる瓶の生産が遅れていて、大瓶で持っていって、あっちで冒険者の空のポーションに入れる様にして販売を考えています。基本、空瓶に補充するスタイルの販売だったので、瓶の大量生産が必要になる事を想定していなかったのです。」


 どうも、その大瓶と言うのが割れやすく、大きい緩衝材入りの箱での輸送も考えていたところだったところにマジックボックス持ちの私は現れたと言う事らしい。


 もし、私が持っていったら、タニカルさんには別の商品をもっと持っていけるそうで、更なる儲けを見込めるらしい。


「でも、ワイバーンのいるところですよね。私は出来るだけ危険な事に顔を突っ込まないと決めていまして・・・。」


「それは多分大丈夫、ワイバーンが少しでも姿を見せると、血気盛んな冒険者達が我先に討伐にかかるのでワイバーンによる被害はほぼ無いと思います」


 でも、確実に安心では無いのだろう、いつも、なぜか命の危険に見舞われるので警戒してしまう。


「ルシア様は、私が守るから!」


 モニカが握り拳を握り、いつものフレーズを言う。だが、あまり信用が・・・。う〜ん、と悩んでいると。


「運搬だけで危険手当含めて金貨8枚、あと、帰りにライアンのシードルを持ってきてくれたら、10本に付き金貨1枚をお渡ししますわ。」


「ルシア様、ライアンのシードルは有名で、オーガ殺しほどでは無いですが、人気の商品です。ですがやはり瓶での運搬が難しく、いい値段が付きます。」


 値段より人気の酒があると言う事に反応した。


「やりましょう!」


 モニカがお酒に負けて悔しがっている。出発はできれば明日にでも言って欲しく、今から魔法学院に行って、ポーションの大瓶をもらってきて欲しいそうだ。

契約は済んでいるのでお金を払う必要はないそうで、受け取って、明日、タニカルさんの荷馬車で向かう様だ。


「では、タニカルさんの荷馬車に他の商品を手配し、屋敷にお持ちしますね。」


「ルシア殿、ポーションの受け取りが済んだら、ギルドに戻って着てください。受取書とギルドカードの交換です。」


 まあ、この先、マジックボックスでの商売をするとき、あまり知られない様に商売するのは大変だ。ギルドマスターからの依頼の方が安全か。


「おーい、モニカ、魔法学院行くぞ〜。」


 モニカが酒に負けて恨めしそうに見ていた。


「じゃ、一人で行くから、先に帰っていいよ。」


 そのあと、風俗街を散策してみるかなと思っていた。


「行くったら〜。」とついてくる。残念。


 魔法学院、西洋風のしっかりした建物、メガネの魔法使いがいそう、転生者ってどのくらいいるのだろう。冒険者ギルドとはまた違う、異彩を放つ建物。


 ま、まあ、魔法の学院だし、なんでも魔法で解決なのだろう。気にしないでおこう、面倒だし。


 この世界の魔法は「魔法」と呼ばれていて「魔術」とは呼ばれない。魔術とは魔法を唱える術(すべ)で、「魔術師」がいる。


 その上に「魔道士」、魔法の道を究めんとする者、そして「魔法使い」魔法を使いこなす者、と言う分け方だそうで、魔法学院には生徒は「魔術師」、研究者は「魔道士」、先生や教員は「魔法使い」と言う感じらしい。


 大学生・研究員・教授・助教授みたいな感じかな。学費はとても高いらしい。


 また、開発した魔法器や魔法薬も販売している。今回はその薬を販売しているところに行く。


 受付に商業ギルドからの注文書を見せる。そして案内される。透明の大瓶にちょっと赤い液体が入っている。


 確かにこの大きな瓶ように緩衝材をしきつめ、箱に入れて、そっと運搬するのは大変そうだ。ちゃんとした瓶でないと、すぐに効力が抜けていくらしく、木の筒ではダメらしい。


 そばに自動販売機みたいな魔法器がある。そこに冒険者風の人が空のポーションの瓶を差し込み、銀貨を1枚入れると瓶に液体が注入されているのが見えた。


 まさかの自動販売機、何回かポーションを使う機会あったが、瓶は捨てていた。

まずったなあ。


「はい、受取書の控えです。どうやって持っていくのですか?」


「ああ、魔法蔵があるので、大丈夫です。」


「へえ〜、魔法蔵持ちですか〜、いいですね〜。実は私もあるのですが、容量が少し小さいのですよ。この大瓶が3つも入るのは羨ましいです。」


 これしか取り柄ないですがねと言って、笑いながら後にする。自分を低く表現、自虐ネタで笑いを取ることは、円滑なコミュニケーションをとるのに便利、やっぱり自信満々の強気の自信家と話すのは疲れるものね。


 ポーションを受け取ったところは研究棟らしく、学院内部はあまり見えなかった。

魔法が日常に存在する世界の魔法学校、冒険者の魔術師とどれ位の差が出るのか知りたいな。


 まだ、商業ギルドに戻る時間まだ少しあるので、武器防具の店を見てみたい、武器や鎧をガッチガチに着込むつもりはないが、暇なので冷やかししたいだけだ。


 もちろん、使えそうなものがあれば買う。


 ちょっと気になっているのは石で出来た武器、土器を飛ばせた経験から試したところ、やはり地属性で出来たものを飛ばすことが可能と分かった。


 なので、石の武器ならマジックボックスからの投射が可能と考えている。

レベルが低いから、片手剣位が限界かも知れないが。


「商業ギルドに行く時間まで、まだありそうだから、武器屋でも覗こうと思うけど、モニカはどうする?」


 相手の都合も確認するのが大人の対応、自分勝手に行動するのは良くない。(後でうるさそうだし。)


「武器屋?ルシア様もとうとう武器を使うの?私が剣術教えてあげよっか?武器も見立ててあげる!」


 一緒に来る様だ。


 まあ、武器を使うことはないと思うし、ファルスにもらった短剣(私からすると片手剣)があるので新たにメインウエポンとして買う気はない。


 出来れば、ファルスの短剣を使いこなせる様にしたいが、筋力的にファルスの短剣を両手持ちで使うことになりそうだ。


 モニカを先生と崇める気が起きない。モニカの剣術は素人の目から見ても凄いとは思う。だが、弱みというか、お願いする事で別の何かを要求されたり、尊厳を失ったりしそうでなんかイヤ。曖昧な返事をして武器屋に向かう。


 武器屋、この自由都市には多くの武器屋があり、冒険者は懐事情や、店主の腕などを見て自分にあった店を決める。


 一つに固定する訳ではないが、何回か同じ店を使うと店主が自分の求めているものを把握してくれたり、アドバイスもくれるので、同じ店を贔屓にする様になる事が多い。


 私はそれほど武器防具に執着はないので、あまり気にしていないが、小人族用の武器防具が揃っている店がいい。


 だが、小人族はガチの前衛はあまりいないので、武器防具屋でも、取り扱っている店は少ない。あとは小人族がとても少ない。


 賢者の塔の情報で、『真実の鏡』を装着している人間の数なので正確では無いようだが、全体の60%が人族、15%がエルフ、15%がドワーフ、9%が獣人、小人族は1%以下だそうだ。100人居れば小人族は一人と言う事になる。


 小人族の性格上『真実の鏡』に抵抗を感じず、便利だから率先して装着するだろうと言う事らしく、割合は正しそうだ。なので基本フルオーダになる事が多いそうだ。



「ルシア様、あそこに小人族専門店というのがあるよ!」


 まじか、そんなお店で経営していけるのか?売れる量も少なく、売れても革鎧とかだと思うが・・・。疑心暗鬼でお店に入る。


「いらっしゃいませー、小人族専門店にようこそ!」


 人族の女性店員が元気な声で挨拶する。店内を見渡すと前世のデパートの子供服売り場とおもちゃの剣などを売っている様なおもちゃ屋を組み合わせた店だった。


 内装も少し、子供向けっぽい色使いだった。店長の趣味か?


 客は2人ほどで、店内の大きさからすると少ない感じがするが、他の店を知らないので何とも言えない。


「わー、可愛い服がいっぱいー、ルシア様にはどれが似合うかなー。」


 モニカが子供に服を選ぶお母さんみたいになっている。あれって、子供のためというより、いかに自分の子供を可愛く見せるかを重点に置いてると昔から思っている。

私はモニカの子供になった覚えはないのだが・・・。


「店員さん、少し質問なのだが、小人族専門にして儲かっているのか?」


「あら、可愛い小人族さん。それは、店長の私の趣味なので儲けは考えていません!小人族さん達に可愛い服、装備をきてもらってそれを愛でるのが私の生きがいなので!もちろん、性能も保証致しますよ!」


 ちょっと、目が逝っているやばいお店に入ってしまったと、少し後悔している。とって食われないか心配になる。背後からモニカが現れ、私の体を引き寄せる。


 守ってくれようとしているのか、所有を表しているのか微妙なラインだが私はモニカの所有物じゃないので前者だけにして欲しい。


「あ、大丈夫ですよ。私の夫は小人族でこのお店の武器関連は夫が作って、防具関連を私が作っているのです。私はただ、世の中の小人族が可愛い姿で世の中を闊歩して欲しい、それだけです。私の愛は夫にしか向けていないので、御安心を!」


 モニカが店長と無言で目を合わせ、無言で握手する。まるで、真の友に出会えた様な握手だった。モニカも最初にあった時からずいぶん印象が変わった。


 もともと、こういう趣味で隠していたのか、目覚めたのかわからないが、将来が心配だ。ベルタも言っていたが勢い余って、どっかの子供を拉致したりしないだろうか。


「ところで、何かお探しですか?」


 目が逝っている店長が体をかがめ、目線を同じ高さにして話しかけてくる。さすがに小人族への配慮がなっている。


 だが、子供扱いされている気分になるのはまだ、小人族に慣れていない私が原因なのか・・・。


「ああ、石で出来たダガーとかは無いだろうか。後は魔術師用の装備が見たい!」


「ま、魔術師!小人族で魔術師!ああ・・・、とうとう現れた!」


 恍惚な目を潤ませ、よろよろと後ろに下がり、振り向き店の奥に向かってさけぶ。


「あなた!あなた!!魔術師の小人族がいらっしゃったわ!あなた!!」


「何だと!」


 奥から、年齢不詳(小人族初心者の私は同族の小人族の年齢がわからない)の小人族が現れる。


「し、失礼ですが、冒険者ギルドのカードをお持ちでしょうか、持っていれば見せて頂きたい!」


 あまりの必死さに、ギルドカードを見せてしまう。


「おおおおお!確かに魔術師、1レベルだがれっきとした魔術師、魔力が12もある!素晴らしい!」


 この反応を見ると小人族の魔術師は希少なのだろう。


 まあ、初期魔力は3だったから、種族的にもあまり選択されない職業なのかもしれない。


「ああ、取り乱して申し訳ない、私は小人族専門店の武器製作担当のイズチだ。魔術師装備あるぞ!いつか魔術師の小人族が現れると信じて作っておいた。」


 イズチさんは奥さんに言って奥から箱を持って来させる。


 箱の中には小人族の大きさに合わせて作られた杖やワンド、ローブ、動きやすそうな布の鎧などが何種類もある。


「どれも一級品で、魔術師の動きを阻害しない様にしている。寸法合わせや、グリップの調整もできるぞ!」


 どれもしっかりした作りの様だ。使う前に品質を理解できるほど武具の目を養っていないので、何とも言えないが、ワンドとか見るとテンションが上がった。


「だが私も本気で作っている!少しお高いかも知れんが、私の誇りに誓って、良品だ。何せ、魔法学院協力だからな。」


 この人も奥さんに似て趣味でやっているのか、お似合いではある。ふむ、性能はこの札に書いてあるのだな。


祈祷の杖:

 自分が所持する魔法の1つをあらかじめ録音でき杖の握りのところにある宝玉に触れながら魔法力を流し込むと魔法が発動する。(自分自身の詠唱と同時に発動可能)魔力補正

+2、精神力補正+2。両手持ち、必要筋力6。

金貨4枚


マジックワンド(青):

 自分の魔法力20ポイント分をチャージしておく事ができ、その魔法力を使用できる。

 魔力補正+1。

 金貨1枚


マジッククローク(上):

 魔法の糸で編み上げられた上着、防御力は装備者の魔力。

 必要能力値 魔力10。(必要魔力に達していない者が装備した場合の防御力は1)

 金貨2枚


マジッククローク(下):

魔法の糸で編み上げられたズボン、防御力は装備者の魔力。

 必要能力値 魔力10。(必要魔力に達していない者が装備した場合の防御力は1)

 金貨2枚


 ぐ、高いな、だが材料費は確かに高そうだ。


 マジッククロークは欲しい!


 やはり防御力が高いに越したことはない、あと動き易そうでもある。武器は杖のほうが補正も性能も高い。


 一度に複数同時に魔法が発動できれば、なんか色々出来そうだし、1ターン行動が増える、これは戦術的に大きい。


 あらかじめ登録も1ターンで出来るっぽいし、無駄ながない、戦況を見て必要そうな魔法をインプットし、次ターンで、2回分発動させるもよし、別の魔法と同時に発動するもよし、すぐに使いたい魔法は普通に発動すればいい。


 一度、インプットした魔法は更新しない限りインプットされたまま、次回ターンから同時発動できる。

 

 金貨4枚でも安いと思う。


 今の所持金は、金貨8枚、銀貨8枚、銅貨18枚。


 金貨を全部失うのは痛い、居候させてもらっているから生活費は大丈夫だが、自立が遠のく、タニカルさんにこれ以上世話になると、いろいろ巻き込まれそうで、助かってはいるけど、いろいろと断り辛い立場になる。


 それに、ポーション運搬の報酬は金貨8枚+αと聞いているが運搬成功し、戻ってきてからだ。


 売り切れることはないと思うが、確実ではない。私みたいな小人族魔術師が一切いない訳ではないはずだ。


 マジックワンド、魔法力20ポイントは普通の魔術師にとっては、微妙かも知れないが私にとってはありがたい。


 だが、やはり祈祷の杖と比べると見劣りする。まあ、4倍の値段はわかる。


 今回の運搬、何か起こった時の事を考えると、このクロークは欲しい。


 2ヶ月民宿暮らしが出来る金額の服って、しかも上着だけで、くう、決めた!マジックワンド、マジッククローク上下を買う!


「毎度あり!杖は良かったのかい?」


「とても魅力的だったが、仕入れ(シードル代)の金がなくなるので、次帰る時までに売れてなかったら買います。」


「まあ、小人族の魔術師なんてあまりいないから大丈夫だろう、私も実際見たのは君が初めてだし、噂で聞いたのもこの10年で五人ほどだったし。」


 いるのか、私以外の小人族の魔術師が、会って見たいな、意見交換したい。


「一応、サイズを計らせてくれ、調節しよう。」


 サイズを計ってもらったら、どれもぴったりだった。小人族は皆、体型に差があまり無いらしい。腕の太さとかはタイプが多いらしい。お金を払い、試着室で着て見る。よければそのまま帰ってもいいな。


 どこで流れ弾が飛んでくるか分からないし、突然暴れ馬に引かれないかも分からないしな。


「着心地も良いし、動きやすい!」


「もちろんだ!内側の生地は絹で作っている。小人族は絹の生地が好きだからな。ワンドもグリップは霊木を純銀で包んで、軽く丈夫で錆びない様にしている。」


 確かに、要所要所にこだわりが感じる。私の魔力だとこのクロークはハードレザーアーマーぐらいの防御力だそうだ。


「ルシア様、カッコよくて、可愛い!」


 カッコいいだけじゃないのか。


「でしょう、素材は魔法学院から購入したけど、服は私が丹精込めて作ったから、見た目も可愛く、着心地もよく、そして抱き心地も良い様に作りましたから!!」


 抱き心地はいらんでしょ、と突っ込もうとすると、背後から両脇に腕を通し、モニカが抱き上げる。視界が急に上がって、ちょっとびっくりする。


 そして、モニカが私抱きしめながら、うなじのあたりに顔を埋めてスリスリしながら、確かに!と呟く。


「店長さん!いい仕事してますね!防具なのに柔らかく、ルシア様のやわこい体の感触がちゃんと伝わってきて、凄い腕です!」


「わかってくれますか!そうなんですよ、抱き心地は大事なんです!夫は性能を重視するので、金属片を付ければ良いとか何の感情も込めずに言いますが、違うのです、性能だけの装備で小人族さんを覆っては駄目なのです!」


「も、モニカ!やめろ!落ち着け!」


 モニカが力いっぱい抱きしめているが、マジッククロークのお陰か、それほど苦しく無い、腕はいい様だ。


 しかも、防御力が高いはずなのに、モニカの胸の柔らかさは背中に届く、確かに腕はいいのだが、そこは通さなくて良かったのではと思う。


 マジ、やめて、ふにゃふにゃしてくる。


 モニカは何とか落ち着いたが、店主と小人族談義をしている。イズチさんがお茶を出してくれる。


 お前も大変だなと、私も結婚したが毎日大変だ、結婚前はある程度遠慮もあったが、結婚すると容赦がなくなる。


 結婚は十分に検討してからにしろと助言を受ける。結婚とかそのつもりは全く無いし、相手は子供だし、と言ったが、イズチさんは二人を親指で後ろ指を立てて、ああいう輩はそんなの関係ない。


 そしてがんばれ!と言われた。


 何かあったらイズチ先輩に助言をもらいに来よう。話せそうな同族にも会えたし、装備を一新出来て良かったが、モニカも同族を見つけてしまって先が思いやられる。

ずいぶん、長居をしてしまったので、イズチさんと奥さんのノニユさんにお礼を言って店を後にする。


 モニカとノニユさんは二人とも親指を立てて挨拶している。



 お昼は前に行けなかった大衆食堂にしようと思ったが、大きな支出のため、ちょっと我慢しようかと思った。


 まだ金貨3枚はあるが、シードルをどれだけ仕入れてどれだけ売れるか、まだよく分からない。そもそも、屋台で売ればいいのか、個人的に売ればいいのか、他のお酒を販売しているとこを無視していいのかとか分からんからな。


 ワレモノの運搬が難しいから需要はあるはずなのだが、なので昼飯を抜いて商業ギルドに向かう。


 モニカも「私が奢るのに」と言ってくれたが、「お姉さんに任せなさい」と一言多かったのでやめた。


 ギルドに戻ると、受付でポーションの受取書を渡し、ライアンの村でサインをもらうための受領書とギルドカードを渡される。


 ギルドカードは冒険者ギルドの様にパラメータなどはなかったが、自由都市ビュアロスの商業ギルド所属している証明と紹介者の名前が記されていた。


 報酬の何%を紹介者に納付するかとかも書かれる様だが、タニカルさんのご好意に甘えて、その欄は無い。


 商業ギルドへの貢献度でレベルが上がると、各街での商業ギルド関連の施設を利用できる特典があるようだ。


 よし、運ぶだけでお金が貰える楽な仕事!がんばろう!ギルドマスターは忙しい様で会えなかった。


 どれくらいシードルが欲しかったか聞いておきたかったが、まあ、仕入れるだけ仕入れておこう、売れなくても自分で飲めばいいし、マジックボックスなら保管もバッチリ。


 酒の行商で食って行けるかな・・・。


 商業ギルドをあとにして、屋敷に帰ってきた。タニカルさん達は私のカッコを見てこれでどんなクエストも行けますね。と言ってきたが、受けるクエストは選ばせて下さいと断った。


 夕食はうまかったが、シルキーさんがまたお出かけですか、と少し寂しそうだったが、今回はライアン村での冒険者の食料や生活必需品の運搬だ。村人に迷惑かけて冒険者のイメージを悪くしても良く無い。


 夕食時にタニカルさんに詳しい話も聞けた。


 運搬はタニカルさんの荷馬車を含め6台の荷馬車と冒険者の乗る荷馬車1台の7台構成のキャラバンになるそうだ。


 護衛に中堅の一歩手前のそれなりに戦える冒険者が3チームついて、1つの荷馬車で寝泊りし、昼夜護衛してくれる。


 行軍中は馬に乗った冒険者が護衛するので、至れり尽くせりだ。まあ、それだけ今回の仕事は大きい儲けになる様だ。


 キャラバンで冒険者も3チームいれば大丈夫だろう。明日も早いし、ちゃんと寝ておこう。そのために、シルキーさんの所にいく。


「シルキーさん、明日は朝から疲れたく無いので、これでお願いします。」


 念の為、サバンナフルーツを2個渡す。1個ではモニカがそれ以上を用意してくる可能性もある。今日のノニユさんに何を吹き込まれたか分からないし・・・。


「承知しました。明日のお出かけ、無事を祈っております。」


 いい笑顔だった。



 寝る前に日課と準備だな。まず、マジッククロークでそのまま寝てもこの着心地なら別に構わないが、せっかくのベッドなので脱いでおこう。


 身軽になったのでマジックワンドに魔法力を20ポイント込める。あとは、部屋を燃やしたり濡らしたりしない魔法ばかりを消費1で発動しまくって熟練度をあげる。

そのうち、「火矢」を練習できる場所を探さないと。


 ふう、体の中の魔法力を使い果たす感がそのまま眠気に直結するのは、最近嫌いじゃなくなっている。


 意識が朦朧としてきて抗えない眠気が・・・。ぐう・・・。


 ああ、昏倒睡眠だと魔法力が回復すると目が覚めてしまうのを忘れていた。まだ、深夜1時ぐらいか、適度に魔法力を残す様な寝方を、いや、昏倒睡眠1回やって、あと半分くらい使って寝れば、もう少し訓練できるか。


 それも、ありだな。


 あと、シルキーさんの買収はうまくいった様で、夜這いされていなかった。まあ、モニカも毎日やるつもりもなかったかも知れない。


 サバンナフルーツも無駄だった可能性もあるな。


 そうだ、マジックワンドの魔法力を使った発動も練習しておこう、チャージの方法は何となくできたが、緊急事態の場合に戸惑っては意味がない。


 ワンドに意識を集中すると、魔法力を感じ取れる。よし、引き出してオーガの短剣に「聖属性付与(1消費)」を発動する。が、「聖属性付与(10消費)」が発動した。


 マジか、最低10消費、消費調節はできないっぽいな。まあ、魔法力消費量調節は自分の内側でやっているから出来ていたのだろう。


 本当にいざと言う時ぐらいにしか使わなさそうだな。事前に分かってよかった。


 そもそも消費量調節という概念が無いのだろう。やっぱ祈祷の杖にしておけば良かったかも。


 いや、まだ全く使えない事はない、調節出来なくても20消費しないといけない場面はありそうだ。事前に理解しておいて良かった、うっかり服を乾燥させようと空気作成したら20消費して服を吹き飛ばしたりしていた可能性もあるからな。


 オーガの短剣を鞘にしまい。マジックワンドに魔法力を詰めて、2度寝するかな。

ライアンの村の酒、楽しみだな。なんだかんだで、実は楽しみだった。



 朝、平和に起きる喜び!別に、何も期待してないぞ!さて、ルーティーンやって、さて出発だ!


 勢いよくドアを開く。


 ガン。


 何だ?ドアの裏側にモニカの死体が転がっている。だ、誰がやったのだ!


「痛い。」


 涙目のモニカがむくりと起きる。生きいてた。


「何やっているのだ!」


 頭を押さえいるモニカにいう。


「だって、シルキーを買収出来なくて、ルシア様分が足りなくて、ドアを力ずくで開けようと思ったけど、硬くて、力尽きて寝ちゃった。痛い。」


 モニカの頭に「小治療(5消費)」をかけてあげる。


「モニカ、朝飯に行こう。早く着替えておいで。それから荷馬車ではまた読み聞かせしてくれよな。」


 うん、と飛び起きて、自分の部屋に行って、着替えて戻ってきた。こういう時のモニカは可愛いが、たまに暴走する。


 どうするべきか、今回は家だったから良いが、これが冒険中の野営地とかだと危険だ。やはり、私は離れるべきなのだろう。そうすれば暴走もなくなる・・・、のか?


 いや、どっかの小人族が犠牲になる可能性も・・・。どうしたものかな。


 朝食を取りながら、モニカの事を切り出そうとしたが、いつもの事ですと言われるのも怖いし、ショックを受けて今日の旅が変な空気になるのも嫌なので、呑み込んでしまった。


 私は昔から先送りする事で失敗しているが懲りてない。明日の私が何とかしてくれると信じよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る