第11話 運命は変えられない

「お見事です。ルシア様、あなたの様に聡明な方がいらしたおかげで、村もそれほど混乱せずに済みました。」


 村長が疲れから解放された晴れ晴れした顔でお礼を言う。


「まだ、終わっていないから、気を抜かない様に。でも、ずっと気を貼っていたら続かない、適度に休みなよ。村長が倒れたら終わりだからね。」


 そう、たとえどんなリーダーでも崩れるとそこからプロジェクトは終わる。そうならない様にサブリーダーがいるのだが、大概の会社はサブリーダーには別のプロジェクトのリーダーもしくは複数のサブリーダーを兼用させているところが多い。なので、リーダーが落ちて、サブリーダーが代わりを張れない事が多い。我が社もそうだった。


 リーダーは責任感も必要だが、自分自身も守らないといけない。下のものはみんなリーダーを気遣ってあげてね。私はリーダーに抜擢したことはないので、いつも気遣っていました。お気遣いマスターでした!


 そこに、一人の自警団風の村人が飛び込んでくる。


「大変だ!フローネとエスカが帰ってこない、もしかしたら連れ去られたのかもしれない!」


 そこにいた一同は騒然となる。


「詳しく、状況を報告しろ!」


 自警団のリーダー風の村人が一括する。


「はい、今日の襲撃で怪我をした母親に薬草を届けようと、森に入ったみたいで、近所の子は怒られるからやめとけって言っていたが、聞かなく、口止めもされていたらしいのです。薬草のある場所は争った跡があり、そこにはゴブリンの足跡と、子供の靴が落ちていたそうです。」


「ああ、なんたることだ、ちゃんと子供達に配慮すべきだった。連れ去られた子供が帰ってきて油断してしまった。」


「子供たちもゴブリンを撃退して、連れ去られた子供を無事に連れ帰ったことで、油断したのでしょう。」


「ルシア様!助けにいきましょう!」


 モニカが立ち上がる。さっき言ったでしょ!俺たちには無理だって!だが、タニカルさん達も武器を腰に下げ、準備を始める。


「待て、待て、あまりにも無謀すぎる!落ち着け!」


「確かに、ルシア様の言う通り無謀かも知れません。救出できる可能性も低いかも知れません。でも、目の前に助けを求め、それに答える力があるのなら、私たちは見過ごせません。」


 タニカルさんがルモアさんの腰に手を当て引き寄せる。まるで勇者、二人とも美形だし戦闘用の装備を身につけているときはめっちゃかっこいい!だが、勝ち目はほぼ0だ。運良くたどり着いても子供を守って脱出は不可能だと思う。


 は〜、嫌だけど、死ぬのは嫌だけど、もう、見捨てられない。見捨てた後悔でこの先普通に生きていく自信は無い!やるしかないか〜。私が参加されてもあまり状況は変わらないかも知れないが・・・。


「俺はおそらく足でまといになるし、自分の身もまともに守れないからな。」


 ずいぶん情けない事を言っているが本当の事だし、変に強がってもしょうがない。正直に言う。


「なら、私がルシア様を守るから!全力で!」


「任せて!」と拳を握りしめて、目をキラッキラさせて言う。


「ああ、任せるよ。俺を守ってくれ。」


 また、確認するかの様に情けない事をいう。大事な事なので2回言いました。モニカが少し頬を赤らめて「う、うん。」ともじもじ言う。また変な事言っちゃったかな、確かに女の子に守って宣言は恥ずかしい事だ。それを恥ずかしげもなく言う事自体痛いかも。ものすごく引かれた様だ。


「だが、作戦は立てる。ただ突っ込むだけではダメだ。」


「でも、そんな事言っていられないよ!」


「これは確実に成功させないといけないのだ。急ぐが最低限の方針は決めないといけない!」


 そう言って、坑道の地図を求めた。閉じたといえ1ヶ月前まで使っていたので、地図も新しく詳細にわかる。入り口は一つか、倉庫と休憩所か、あとは鉱石を掘り出す横穴が7つ。入り組んでなく迷路にはなっていないが、所々不意打ちに都合の良い場所があるな。


「入り口はここだけですか?抜け道は一切無いですか?」


 村長は無いと言ったが、元坑夫っぽい肌が鉱石で汚れ、取れなくなっている爺さんが、3年前に倉庫用の天井に穴が開き、塞いだそうだ。そうこのあたりはの天井の一部が少し薄いらしく地上に近くよく雨漏りしたので、外側から穴を塞ぎ、内側からも補強したそうだ。


 何とかすればもう一つ侵入路が作れそうだ、しかも敵さんは知らない可能性もある。あと、魔術師(仮)がどこで儀式をするかだ、さすがに凸凹なところではやらないと思うが・・・。


「坑道内で、ある程度の広さがあって、平で舗装している場所はいくつある?」


 坑夫の爺さんは、一番奥の休憩所だけの様で、坑夫20人くらいが休憩できるぐらいの広さがあるそうだ。実は、まだ鉱石掘りで生計を立てていた頃はそこで山の神を崇める祭を開いたそうだった。


 休憩所と倉庫の位置関係は入り口と休憩所と間に倉庫があるそうだ。一度休憩所で掘り進める方針を話して、倉庫で工具を取って仕事し、終われば倉庫に工具を戻し、休憩所で点呼等を行い、明日の事を少し話して、帰路に着く様にしていたらしい。


 爺さんが若い頃、外で点呼や方針決めをしていたが、雨の時とかに中断したりいろいろ面倒だったから、休憩所を広げて、多目的ホールにした様だ。ここの村人は効率を考え、時代の流れも意識して柔軟に生きている。そう言う流れを意識せずに続けている。この村が発展するのも納得がいく。


「自警団のみんなににも協力してもらう、できれば動ける村人全部!」


 自警団のリーダーももちろん!とうなずき、村長も力強くうなずく。おそらく、慎重魔術師(仮)は村に監視を入れているはず。ゴブリン5体を撃退した戦士がいる事も知っているだろう。もちろん連れ去られた事を村人たちが知ったことも認識しているはず。おそらく籠城の準備をして、儀式やらを進めるだろう。


「陽動作戦でいく!」


 自警団は前で最悪ゴブリンとの戦闘はある。ただ、村人達も総出で松明を掲げ、坑道に向かって欲しい、戦う必要はなく最悪襲ってきたら逃げてほしい。慎重派魔術師は反抗に出てきても、小規模でゴブリンだけで対処できると思っているかも知れない。戦闘のプロではない村人が、村人全員で反抗してくるとは思ってもいないだろう。そこに村人が怒り狂って全軍で突撃してくる様に見せるのだ。


 大きい坑道では無い、何十人かは休憩所までたどり着けてしまうと思わせる。そして、坑道自体に入らせない様に入り口に防衛線を張らせ、坑道内の戦力を入り口に集中させる。自警団は弓や投石で間合いを取って戦闘を長引かせてほしい。


 無理はする必要はない、村人達は松明をもち隠れながら威圧だけをかけてほしい、余力があれば投石とかで攻撃もありだ、危険だと感じたら一目散に逃げて構わない。

ゴブリンも防衛を目的に司令を出されると思う。特攻してくるとは思えない。本来の習性ならあり得たが・・・。


 あとは私たちが倉庫の天井に穴を開けて侵入し、何とか休憩所に辿り着き魔法使いを倒す。


「これでいく!あと、命だけは大事に!少々の怪我なら私が治す。決して命を粗末にしないこと!」


 けしかけておいて、言うことではないが・・・。村人たち皆、「ゴブリン供!覚悟しとけよ!」と息巻く。士気は高そうだ。



「ルシア様、すごい!頑張ろう!」


 あー、もう村人をおとりとか何つう作戦だ。最悪だ。しかし、悠長に考えている暇もない。


「タニカルさん、どう思う?成功すると思う?」


タニカルさんは冷静に、


「現状ではこれが最善の案だと思います。あとは全力を尽くすだけだと思います。」


「そうだ。タニカルさん、ルモアさん、モニカ短剣かダガーを持っているかい。」


 みんなの短剣、ダガーに「聖属性付与(5消費者)」を掛けてく。それならランタンの代わりになって、鞘に戻せば明かりを消せる。基本は松明で進み、戦闘中は地面に投げて灯を確保、道中、松明を消されたとき用に持っていてほしい。


 これもゲームの知識でライトの魔法を短剣にかけていたのを思い出した。「暗視」も考えたが、魔術師に解除されたりしたら真っ暗闇だ。各自もう一つ光源を持つのはありだと思う。隠密の場合は断然「暗視」だけどね。


「ルシア様、頭いい!」


 モニカに褒められたが、ゲームの知識なので心苦しい。自分の準備はあまりないが、石をいくつか補充しておいた。魔術師にも石弾なら有効だろう。


「ルシア様、これを」


 村長が何かを手渡してきた。


「これは、マジックポーションと言って消費した魔法力を回復する飲み物です。3つしかありませんがお使いください。回復量は知れているかも知れませんが。」


 まじか!これはありがたい!回復量も私に取っては10でも出来ることが色々増える。節約はするが、少し、ほっとする。


「ありがとう!絶対成功させるから!」


ああ、またいい加減なこと言ってしまった。モニカのが移ったかな・・・。



 村長の家に参加できない子供やお年寄り、怪我人などが集まり最低限の自警団が守る。そして残りの村人全員で松明を掲げ、坑道のあるところまで進む。急がず、入り口に戦力を固めて防衛線を立てさせるのも目的だ。


 私たちは坑夫の爺さんの案内で倉庫の天井にあたる場所へ進む。途中、眼下に案の定坑道の入り口の外側に防衛線を構築していた。


 (私の様に)臆病者は自分のテリトリーに引き込んで倒すことを怖がる。できれば家の外で解決したいと思う。助かったのは休憩所を家と認識せず、坑道全体を家と認識してくれた事だが、これではせっかくの罠もあまり役に立た無いだろう。


 しばらく山道を上ると、坑夫の爺さんが指を差す。知って無いと通り過ぎてしまう所を目を凝らして見ると、人の手が加えられている様に見える。すると、坑道入り口の方で爆発音が走る。


 掘削用の爆発する石を使った音だ。出来るだけ大きい音を立ててくれと頼んだら、掘削用に使う爆発す石で、何とかとうモンスターの角に別のモンスターの体液をかけると爆発するものがあると言う。


 このモンスターも減ってきて、角の価値が上がり、穴掘りのもうけが減ってきたのも行動を閉鎖した原因と言っていた。そんな貴重なもの良いのかと聞いたら、子供のためだと、坑夫の爺さんが残りの分を全て出してきた。


 この爆音に紛れて、天井を破壊するのだ。そして坑夫の爺さんが、「これはワシの仕事だ」と言って、爆破の用意をする。手際良く、設置し、こちらをみる。


 最初の爆破音から一定間隔で爆発させる様に指示している。さっきの爆発から私が数えていた。そして合図を爺さんに送る。爺さんは設置したモンスターの角に向かって、体液の入ったビンを投げる。


 投擲の腕もいい。職人というやつか。瓶がわれ、角が光ったかと思うと轟音を立てて爆発する。入り口がわからも爆音が聞こえる。


 「あとは任せた。」と言って、爺さんは隠れながら入り口の方に合流しにいく。


 爆弾の煙に紛れて、「風纏い(2消費)」を全員にかけて飛び込む。ふわりと着地する。そしてすぐに「風纏い」は効果を失う。


 モニカが何か言いたそうだが、目で静止する。倉庫の入り口について、周りの音を確かめる。ゴブリンは全員入り口に張り付いている様だ。魔術師もずいぶん焦っているんだろう。


 ただ、焦って儀式を早める可能性もある。ちょっと急いだほうがいいかも知れ無い。盗賊スキルがないから、タニカルさんに体で解除してもらう必要がある。


 もう一度「風纏い(10消費)」を全員にかける。これで罠の毒霧や毒針ぐらいなら何とかなるだろう。タニカルさんは一番重装備でフルフェイスを被り休憩室まで走り抜ける、途中、毒煙と眠り煙、矢の罠があった。


 煙系は風纏で何とかなった。矢はタニカルさんが叩き切る。


 やっぱタニカルさんすごい、何者だ?他の冒険者を見て無いから何とも言えんが、昔勇者のパーティーで戦士していましたって言われても納得しそうだ。


 休憩室の入り口に隠れる。入り口付近の爆音などがここまで届き、魔術師も焦って何かをしている。入り口から10メートルぐらいの位置に魔法陣があり、そこに子供が寝かされているのがわかる。


 そこで中に浮かぶ水晶玉?みたいなものに子供から光が吸い込まれる様に見える。そして、入り口側に守護兵だろうか、冒険者風の三人が入り口に向かって立っている。どこから連れてきたのか分からないが、アンデッドの様だ。アンデットの冒険者、一人は大剣、一人は双剣、一人は戦斧。


 時間は無さそうだ、タニカルさんたちに小声で言う。


「聖属性付与をみんなの武器にかける、それを合図にあの3体を倒す、もしくは足止めする。俺は石弾で魔術師を狙う。倒せはし無いだろうが、儀式を中断させる。もし、すぐにアンデッドを倒せたら、魔術師を無力化してくれ。」


 皆、無言でこくりとうなずく。そして・・・、開始だ!


 「聖属性付与(10消費)」の6倍掛け(60消費)を6分割し、タニカルさんの大剣、ルモアさんの両手と(必殺の)右足、モニカの片手剣と(必殺の)右足にかける。


 タニカルさん親子が白く輝く、そして影から出て声をあげてアンデッドと対峙する。魔術師は驚き、水晶玉に手をむけて何やら呟き始める。私は影から出て、魔術師まで射線を確保する。


 どうする、水晶玉を破壊するか、でも破壊が儀式の発動の可能性もある。手を伸ばした魔術師の腕を狙う!


 「石弾(10消費)」を2倍がけして(20消費)マジックボックスの石を2倍の速度で、水晶玉に突き出した手に打ち込む!魔術師はタニカル家族を認識していて私を認識できていなかったはず。とっさに避けることはでき無いだろう。


 思惑通り腕に直撃し、腕をへし折る。やっぱり人型の生物に攻撃を当てるのは、精神的にしんどい。平和な日本に居ればこんなことをする機会はまず無いし、出来ないだろう。魔術師は悲鳴をあげ憎悪の目を私に向ける。


 「殺してやる!」と言おうとしたのだろうか、次の瞬間位はすでにアンデッドを倒したタニカルさんが魔術師に飛びかかっていた。モニカは双剣使いに手間取っていた。


 魔術師を切り伏せ、死んでいる事を確認する。モニカは双剣使いを倒せた様だ。やはりモニカは強い、強くなる。


「ルシア様、子供が回復しません。儀式が止まって無い様です!」


 すでに魔術師の意識から離れているのか!?どうする、やはり水晶玉の破壊か、少なくとも吸い上げているんだ、破壊すれば止まるに違いない。賭けになるが、ゆっくり調査している暇もない。


「タニカルさん、大剣でその水晶玉を破壊してくれ!」


 すぐさま、タニカルさんは聖属性付与がかかった大剣で斬りかかる。しかし、ギィィィンと音がして剣を弾く。まじか、あの剣撃を跳ね返すとは。その後もタニカルさんの剣舞は続くが傷一つ付か無い。


 ルモアさんが「子供が今にも・・・。」


 物理攻撃はほぼ効か無い、水晶玉の魔法属性はおそらく闇、闇神霊魔法には精神に影響を与える魔法があり、私の魔法も相手の魔法力にダメージを与える魔法がある。

おそらくもっと高位の魔法で、対象者の魔法力や生命力を吸い上げるような魔法かもしれない。


 この世界の魔法の概念はまだ分からないが、ゲーム知識で闇の対抗属性は光だと思う・・・。


(直感を信じる!)「光属性付与魔法(10消費)」をかける。


 水晶玉が一瞬震える、そして一部が色が変わる。だが、水晶玉の他の所から闇の力が押し寄せて、元に戻る。


 いける、だがこれはまたあれをやら無いとあかんかも知れんな。マジックボックスからマジックポーションを一本取り出し、飲み干す。魔法力が全開する。おそらく100ポイント回復すアイテムの様だ。


 そして、準備しながら皆にいう。この水晶玉に光属性付与をかける。だが、おそらく魔法力が足りなくなるので、合図したら口にポーションをつけ傾けて飲ませて欲しい。手が塞がっているので・・・。と言って見渡して、ルモアさんに2本渡す。


 「えー。」モニカが口を尖らす。いや、何となく失敗しそうで・・・。


 と、気合を入れる。今回は前みたいなことにはなら無い。ちゃんと構築し、終了処理をいれる。


「聖属性付与(10消費)」を2倍がけし、6分割し、6方向から聖属性を付与する。おそらく、かけている最中にも反発されるので継続させる。魔法力が切れか終了命令で強制終了するとプログラミングする。


 始めよう!


 魔法が発動する、水晶玉が白い光と黒い光が戦っている様にグルグル渦を巻く、ぐううう、魔法力を消費するというより、吸われている感覚がする。だが、少しずつ水晶玉が白く輝き始める。確実に黒い部分が減っていっている。


 もう少しか、だがギリギリ足りなさそうだな。ルモアさんに合図してマジックポーションを飲ませてもらう。と、同時に水晶玉は光り輝き、今まで吸われていた光が子供たちに逆再生がかかった様に戻っていく。


 成功だ。魔法の終了命令を出して魔法を強制終了する。


「ふうー。」


今回は何とかなったな・・・。暴走もせず、ちゃんと落ち着いて制御・構築すれば大丈夫ってことだな。


「ルシア様、すごいすごい!やっぱりルシア様はすごい!」


 中腰になって抱きついてくる、感極まったのだろう。だから、抱きつくのはやめてくれって、体格差から、頭が胸に包まれて気持ち良くなっちゃうから!


「落ち着けって、まだ終わったわけじゃないんだ。入り口の自警団に加勢に行か無いといけ無いんだから。」


 体を押し返す。タニカルさんは脱出の準備をし始める。子供はタニカルさんとルモアさんが背負って、行くように決めた。


「あー、でも、案外あっけなかったな〜。」


モニカが言う。こら、モニカさん、どう見てもフラグっぽいことを言うんじゃありません!


「ねえ、物色しなくても良いの?もしかしたらゴブリンを操っているアイテムとか出るかも知れ無いでしょ?」


 奥の棚や箱を開け始める!


「モニカ!いいから、優先順位!今は、合流を優先して、調査は後日冒険者や騎士団に任せるんだ!」


 と、モニカを連れ出そうと近づくと、


「あ、これじゃない?」


 モニカがワンドの様なものを箱から取り出す。そのワンドからどす黒い光が漏れ出す。まずい!


「モニカ!それを捨てろ!」


 私の叫び声に驚いて尻餅をついてワンドを地面に落とす。すると禍々しい波動の魔法陣が現れる。モニカを渾身の力を使って引きずり出した。


 (重い!)口には出さなかった。


 魔法陣から黒い光が伸び、3体の冒険者アンデットに伸びたかと思うと引きずり込んで、ぐちゃぐちゃと音を出して一つにまとまりだす。そして、とても醜悪な肉塊がふわふわと浮いている。


 顔が3つ外側に突き出され、手や足が至る所から飛び出している。ゲームで見たことがある、レギオンだっけか。とにかく、出てきてしまったらしょうがない、倒すだけだ。すでにタニカルさんも聖属性付与された剣を構えている。


 だが、モニカが腰を抜かして戦意喪失状態だった。確かにあまりの醜悪だし、作られる途中も見ていたら無理もない、だが立ってもらはないと困る。


 この手のモンスターは私と相性が悪い、聖属性の石を用意しておくべきだった。そしてタニカルさんとルモアさんが動く。


 だが、うまくいかなかった。レギオン風のモンスターが私とモニカを含めて結界を構築し、タニカル夫妻の侵入を防いでしまったのだ。レギオンはゆっくり私とモニカを料理して融合して強くなりタニカルさん達に対抗しようと言うのだ。


 やばい、こいつ頭いい!大剣使いだった冒険者の顔がニヤリと笑った様に見えた。


「モニカ、起きろ、立て、立って戦え!」


 だが、モニカは足に力が入ら無い様で、涙目になっている。


 大ピンチ!


 このままでは二人とも喰われて、レギオンの仲間入りになってしまう。すると、レギオンが動く、魔法を発動しようとしている。どう見ても邪魔法だろう。モニカを狙っている。モニカがやられたら詰みだ!ええい、やるしかない!


 モニカの前に飛び出し、黒い魔法の玉を全身で受ける。傷はできず直接生命力にダメージを与える魔法の様だ。多分防御点無視魔法とかだろう。これなら、まだ望みがある!


 『小治療(10消費)』を自分に掛け、持続魔法とする。終了条件は・・・・、魔法力が尽きるまで。


「モニカ!立て!お前は俺を守るんじゃなかったんじゃないのか!!!立って剣を取り、あいつを倒せーーーー!」


 モニカは立ち上がる。そして私を飛び越えて、聖属性の剣を大剣使いだった冒険者の顔に突き立てる。それでは倒せなかったが、結界が解け、タニカル夫妻がレギオンをボコボコにし、戦闘が終わる。


 私は意識が途切れる。魔法力はギリギリだったようだ。暴走もしなかった。モニカが駆け寄ってくるのが見えた様だが、意識が遠のく・・・。


「コクコク、ゴクリ。」


 何かが喉を通りびっくりして目を覚ます。すると、モニカの顔が目の前にあった。今にもくっつきそうな距離だ。


 そして、モニカが涙を流して、寝ている私のお腹でワンワンなきはじえる。モニカの手に空になったマジックポーションが握られている。え、マジ!?口移しか!


 ワタワタと焦るが、私の腹に顔を埋めて泣いているモニカを見ると冷静になれた。

しばらくして泣き疲れたのか、顔をあげて謝りだす。


「ルシア様〜、ごめんなさ〜い、守るって言ったのに、また無理させて、ごめんなさいーーー。」


 また、泣き出した。やれやれ。


「モニカの泣き顔って、めっちゃ不細工だな〜。あ、ご両親の前で本当のこと言っちゃった。」


「ルシア様〜、ひどい〜。」


 泣き止ま無い。でも、まじでブサイクだ。


「モニカは本当に馬鹿だな〜、大馬鹿だ。あまりの馬鹿すぎて感動を覚えるよ。」


「ルシア様〜、ひどいよ〜。うわーーーーん。」


「あ、ご両親の前で娘さんを馬鹿だって本当のこと言っちゃった。すいません。」


 少し体を起こして、タニカルさんたちに謝る。


「いえ、本当のことですから、本当に馬鹿な娘なのですよ。」


「でも、馬鹿な娘ほどかわいいのですよね。」


 タニカル夫妻が笑いながら言う。


「みんな、馬鹿馬鹿言い過ぎ〜、うわ〜ん。」


 モニカが笑いを含んだない声に変わる。


「モニカ、もうやら無いよな。学んだよな。なら、もういいよ。それに、守ってくれただろう。あの状況ではモニカしかあいつは倒せなかった。ありがとう。」


「ルシア様〜。」


抱きつこうとしたときに、さっと転がって避ける。モニカが地面に鼻を擦り付ける。


「ルシア様が避けた〜。」


 また泣き出した。


「モニカ!優先順位!今、何が最優先だ?」


「子供を無事に連れ帰る。」


「そうだな、では最初にやることは?」


「準備して、入り口に向かう。」


「それもあっているが、間違いだ、モニカのそんな顔を起きた子供が見たらどう思う?不安になるだろ、まずは泣き止んで顔を洗え!それからだろ。」


「くすん・・・、ルシア様濡れタオル頂戴、あったかいやつ。」


 注文するのかよ!まあ、何も言わず、タオルに水作成で濡らして、熱操作であっため、モニカに渡す。そして、ゴシゴシ拭く。


 そして、「やっぱりこれ気持ちいい」と言って、呼吸を整えて、「ニッ」といつもの天真爛漫の笑顔になる。


「よし、完全勝利の為、気をつけて帰るぞ!」


 そして立ち上がる。さすがにのんびりしすぎた。まあ、あの状態のモニカを連れてゴブリンとの戦闘は無理だろうが、昏倒したのは数分らしく、ルモアさんに渡していたマジックポーションを飲ませてくれたらしい。


 思い出してしまった。顔に出て無いかな、って小学生か私は。入り口に向かう途中、罠にかかったゴブリンが何体かいた。急いで作業させたため、自爆したのだろう。


 おかげで安全に入り口まで行けた。すると、すでに戦闘が終わっていた。子供を背負って出てきた私たちを見て、自警団や村人が歓喜を上げる。


 どうも、しばらく膠着状態が続いたのだが急にゴブリン達がぼーっとたちすくんで動かなくなったので、また動き出す前に自警団で皆殺しにした様だった。


 その後、中に入るか悩んだが、私たちを信じてまっていたらしい。とりあえず、ゴブリンの死体は全て燃やし、坑道内の調査は後日冒険者に頼むことにして、村に帰ることにする。


 村に帰ると、女子供の出迎えと連れ去られたフローネとエスカの母親がよろよろと出てきて二人を抱きしめる。


 今回もやばかったが、何とか生き残れた。ちょっといつもギリギリじゃね?この世界の神様は私の事嫌いなのかな・・・。


 泣きそうだ。

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