第6話 調子に乗ると失敗するのは運命!?

 ダンジョンから脱出後、ファルスの里に向かう事にした。というより、この世界を知らない私にはそれしか無いのだ。ファルスの一族の里までは、ファルスに肩車してもらい向かった。


 最初は断ったが、ルシアの足だと5倍かかると言われたので、渋々了承した。楽なのだが、なんだか悪いし、絵的にもなんか情けなくて。


 だが、今後こういうことは多々ありそうなので、慣れておくしか無いのかも知れない。人の身体が恋しい・・・。道中はモンスターにエンカウントすることなく平和に過ごせた。地上はダンジョンほどのエンカウントは無いようだ。よかった、地上も地獄のような所じゃなくて。


 脱出2日目の朝に、日の光で感動したあと、まず、現状を確認する事にした。ダンジョンほど危険はないにしろ、状況確認は大事だ。ファルスの里までの道のりも何があるかわからないし。なので、3日目は状況確認してから出発しようと決めたのだ。


「状況を確認しておいてよかった。」


 ファルスは完全回復出来てなかったのだ。自分がレベル1で生命力も大したことないので、見誤っていた。ファルスは私に気を使った様だった。


「もう、俺たちの間で気を使うなよ!俺も気を使わないから!」


 全部の魔法力を使ってもファルスの生命力は1/6ほどしか回復できていなかったので、道中で少しずつ治療する事にした。戦闘があっても無理させられない。ファルスは体力18のレベル10なので生命力480だった。オーガの戦士では低い方らしい。


 ファルスも私から見たら十分化け物だったという事だ。オーガの生命力の計算式が小人族と違っていた、当たり前かもしれないが、最大生命力:体力*10+レベル*30、最大魔法力:精神力*10+レベル*5だった。オーガは魔法適性が低いようだ。


 あとは自分の状況を確認。実は「剣狩り」を倒したので何かしら上がっているかも知れないと、期待しているのだ。もう、そろそろ勉強した方が良いのだがファルスはこの戦いで1レベル上がったそうだ。この世界ではレベルアップで全快しない様だ。


能力値

レベル:1

筋力:6

器用さ:12

敏捷さ:12

体力:7

魔力:10

知力:10

直感力:12

精神力:13

最大生命力:80 (体力*10+レベル*10)

最大魔法力:140 (精神力*10*レベル*10)

物理防御:3(体力/2)

魔法防御:6(精神力/2)


 能力も変わりないか、確かに、あの戦闘は死ぬ様な思いもしたが、やったことはあまり無い、足引っ張って、ファルスを危険な目に合わせて、絡め手で大逆転はしたが、うまく「聖属性付与」が効いただけだからな・・・。うん・・・・。


 ファルスもパラメータは増えなかった様で、気を使ったわけではなく本当の様だった。やはり、この世界はあまりパラメータが増えない世界だと確信した。でも、ファルスの体力18とかって、種族ボーナスとかか?


装備:

ズボン(ボロボロ)下着(ボロ)。

スライムゼリー20 

小石20 

石15

魔石4


 上着がとうとう無くなった。ファルスが里に戻ったら見繕ってくれるので我慢だ。アシッドスライムゼリーも無い、最後、あまりの高揚で一気に食ってしまった。1個おいとけばよかった。


 まあ、ファルスの里の甘味を期待しよう。


 わかった、いろいろ。いろいろ上がらなかったし、いろいろ無くなった。あと、ファルスを治療しながらの道のり。油断は禁物だ。気を引き締めて行こう。で、肩車で警戒し、ファルスが行軍で進んでいる。


 ファルスの里は洞窟の近くを流れる川の上流の山奥で、川に沿って進む。

なので、休憩時には川で魚を取りながら進めるので、食糧の問題はあまりなかった。


 川魚は一部川を堰き止めて、「石弾(2消費)」10個の小石を同時に打ち込み、

衝撃で川魚を気絶させ、浮き上がってきたところを取る漁法にした。


 以前、何かの映画で軍人さんが手榴弾を河に投げ込んで、魚を取っていたのを思い出し、実践してみた。「石弾」が思いの外、威力があるのと、複数の同時射撃が効くようだった。ファルスもこの漁法に驚き感心した。実はファルスの漁法も大岩を放り込んで気絶させる漁法だったらしい。オーガらしいと言えばオーガらしい取り方だ。


 焼き方は串焼きもありだが、試してみたい調理があったので試す。調理ってほどでは無いが、「火矢(5消費・128分割)」でまとめて並べた川魚に振りかける(裏表で2回)。川魚の皮はぱりっと、中はふっくらと仕上がった。まあ、串焼きとあまり変わらないかも知れないが、秋刀魚の内臓も食べたい派の私としては、こっちの焼き方がいい。


「っかーー、うまい、うますぎる!ビールが欲しい!焼けた内臓を口に入れて熱燗を流し込みたい!」


 前世も焼き魚をつまみに酒を飲むのが好きな、おじさんだったので、思わず口走る。ファルスはあまり意味が理解できていなかった様だが、里に戻ったら酒も御馳走すると言ってくれた。


 見かけは子供でも中身はおじさん、小人族の年齢はわからないのは常識で、あと子供の小人族もお酒は飲むらしく、あまり驚かれはしなかった。小人族は祭り好きで楽しい物好き、お酒やうまい食べ物に目がないらしい。色物枠種族の様だ。


 一息ついたら、ファルスの傷を癒す。「小治療」は基本、かけた相手の傷を全体的に治していくもので、無駄なところに余分に力が使われている場合がある。傷の深いところを部位狙いで重点的に治療したので、「小治療」で治療できそうもない深い傷も治せた。「小治療」で精密射撃を応用した治療をしたのだ。


 ただ、これはどうも治療箇所が急激に治る副作用で、痛みを発生させる様で、ファルスは治療を受けているにもかかわらず、涙目になっていた。一般の人には麻酔的なものも必要とさせる治療法かも知れない。


 私はファルスの里の地酒と甘味目当てで一刻も到着したい。が、歩くのはファルスで担いで貰っているのもあるし、まだ、無理もさせられないので急かすのも出来ない。移動系魔法が欲しい!ルー○とか、どこでも○アとか!


 そんなことを思っていると、ファルスが急に立ち上がり、真剣な表情であたりを見回す。


「どうした、ファルス。」


 ファルスは口元で人差し指を立てて、沈黙を促してきた。この世界でも「喋るな」は同じなのだな。感心していると、ファルスが山道に出て、駆け出す。


 ビックリして追いかける。何か聞こえたのか!?


 ファルスの駆け寄る先に、盗賊風の輩に襲われている荷馬車を遠目に見つける。


「うぉぉぉぉー。」


 ファルスは盗賊どもを大剣の鎬で弾き飛ばして行く。命は取らない様にしているのだ。あんな体格のやつに大剣で殴られれば普通に死にそうだが・・・。


 物の数秒で決着はついた様で、私が到着する事には盗賊風の者たちは気絶したままガッチリ縛られていた。


「ファルス、怪我は・・・、無さそうだな・・。」


「ルシア、この子を、頼む。」


 しゃがんでいるファルスの足元に肩からバッサリ切られた冒険者風の女性が横たわっている。側に両親と思われる冒険者風の男性と、女性が泣きながら娘の名前を呼んでいる。


 ファルスが言うには、里に行商に来てくれる唯一の元冒険者の商人の家族で、世話になっているそうだ。頼むって言われても、これは・・・。


 私の「小治療」は所詮レベル制限の無い魔法、ちょっと特殊な使い方をして、ファルスの傷を直しているが、それはファルスの生命力と回復力もあるので、他の一般人も行けるわけではないのだが・・・。


 だが、今までこの魔法で窮地をくぐり抜けてきた自信から、いい気になっていた。


 自分ならできるかもと・・・。


「わかった、ファルス、まかせろ!」


 また、切り抜けてやる!ファルスに頼られたのが嬉しくて、変なテンションで少女の前に座る。


 まず、普通にやっても無理だ。それは分かる。傷は肩から斜めに袈裟斬りに切られ、内臓まで到達している。すでに死んでもおかしくない。


 意識はない様だが、奇跡的に生きている。ただ、このままでは長くは持たない。

内臓を治療しつつ、傷を塞ぐ。他の部位の治療は後回しだ。


 「小治療」2倍がけと8分割、局所集中治療、あとやったことがないが魔法の持続だ。魔法の連打ではなく、魔法の継続だ。魔法は構成を決め、構築し、発動する。3〜4の工程がある。魔法によってその工程はまちまちだ。そこまで理解できていた。


 魔法の連打は実は、同じ工程を何度も繰り返し、わずかに無駄な消費もしている。

なので、継続させ、発動までの工程を削り、消費を節約する。あとは、継続維持を続ける事が出来るかだ。


 初めての試みだが、自分なら、今まで窮地を乗り越えてきて、アレンジ魔法でいろいろこなしてきた自分なら出来るはずだと、考えていた。正常な判断が出来ていなかった。いや、魔法と言うチート能力を我流で開発してきて、誰にも魔法の危険さを教えられなかった。


 まず、ステータスを開き、魔法力管理しながら実行する。光魔法「小治療」2倍がけ、8つに割って、傷口に一列に均等に間を開け、局所に魔法を発動させる。そしてそれを維持させる。


 よし、いける!


 掌から8本の白く光る線が、傷口から入り込み、内臓を治療し始め、また別の光線は傷口を治療始める。本来、体全体に影響を及ぼす魔法を一点に圧縮し、高い治癒効果を発生させている。


 ここまでは順調だ!


 やっぱ、俺すげー!いい気になっていた、有頂天だった。しかし・・・。


 く、消費が追い付かない、魔法力が足りなかったか・・・。すまないファルス、あんな強気な事言っといて、でもしようがない。だって1レベルなんだから・・・。1レベルであることを言い訳に諦めてしまった。


 だが、魔法は持続したまま終わらない。なんだ、魔法が消えない。魔法力は無いはずなのに!ステータスを見ると魔法力が5/140のまま変動しない。代わりに耐久力がどんどん減っていく。


 なんだ!?


 なんで耐久力が!?手から伸びた白い光線が血の様に赤い光線に変わっている。

まるで、自分の命を注ぎ込んでいる様に。


 なんだ!?魔法が解除できない!このままでは・・・・、死ぬ!?


 やっと気付く、電化製品も本来の使い方では無い方法で使えば壊れもするし、異常動作をする。自分は魔法をうまく使えていた訳ではない、本来の使い方をねじ曲げていただけだったのだ。そして、その代償が暴走。もう、制御は効かない。


 自業、自得・・・・、か。学習しないな、私は。もっと慎重にならないといけなかったのに。なんかの主人公にでもなったと勘違いをしていたのかも。


 せっかく脱出できて、友達も出来て、前世より華やかに生きられると思っていたのに・・・。


 ああ、失敗した。耐久力は減り続け、意識が途切れた・・・。



「・・・・・、はっ。・・・・生きている・・・のか!?」


 だが、身体中が軋んで痛い、頭もガンガンする。そうしながらも、なんとか身を起こす。寝心地から、とても肌触りの良い毛布の上に、もう一つの毛布を掛けられていた様だ。


 あたりは、朦朧としながらで良く分からないが、どこかの野営地に見えた。


「ルシア!!」


ファルスの大声で、頭を抱える!


「どこか、痛むのか!」


 さらに大きいファルスの叫び声で気絶しそうなところをなんとか踏みとどまる。


「ファルス、もう少し声を落としてくれ、頭がガンガンする。」


 ファルスは黙ったが目から滝の様に涙を流していた。ずいぶん心配させてしまった様だ。


「おお、ルシア様!起きられましたか!!」


 今度は、先ほどの冒険者風のイケメンのおじさんが駆け寄る。この人もまあまあ、大きい声で、意識が飛びそうだった。


「あなた!まだ体調が優れない様ですよ。静かになさい!」


 声は大きくないがとても厳しい声だった。奥さんだろうか。


「あなた様は娘の恩人です。ありがとうございます!」


 冒険者風のイケメンおじさんが男泣きをしながら何度もお礼を言う。そこでやっと何とか助けることが出来たと認識する。そうか、治療が完了したから、魔法も終了したのか。


 そのまま暴走を続ける可能性もあっただろう。まだまだ、魔法には理解の及ばない事が多い。それなのに、無謀にも魔法の深淵をのぞいてしまったのかも知れない。本当に危なかった。


 もう、こんな目に会うくらいなら、人助けなんてしない!自分ファーストだ!強く思った。


「それで、娘さんの容体は?」


 せっかく死ぬ様な目に遭いながら助けたんだ、しっかり生きているところを見たい。すると、奥から涙で顔をグシャグシャにした女性が近寄って、毛布のところで跪く。


「ああ、ありがとうございましたぁぁぁ。うう、うわあああ、いの、命を欠けてまで私の、うっうっ、命を、救って下さって・・・、ありがとうございましたぁぁぁ。」


 もう、ボロボロ涙を流して、ずっと泣き続けていたのだろう。目は充血しまくっていた。ああ、人助けはしないって言ったけど、たまには良いかな・・・。さっきの宣言を取り下げて、晴れやかな気持ちになり、ふうっと、また意識が途切れる。



 再び目が覚めた時には、荷馬車の中で寝かされていた。


「あ、ルシア様が起きました。」


 商人・娘が覗き込んでくる。元おじさんからすると、年齢がよくわからないが、おそらく16〜18ぐらいで金髪の少女で美少女のカテゴリーに滑り込めるぐらいの容姿だった。


 母親より少し背が高い、大きい少女だ。(変な日本語だな。)


「ルシアさま、私、モニカと言います。救って下さって!ありがとうございます。」


 抱きしめられた。


 おおう、自分より大柄な女性に抱きしめられて、気恥ずかしいと言うか・・・、ヤバイ、おじさん、ときめいちゃうよ!ああ、なんかいい匂い・・・。


「わ、分かったから。落ち着きなさい。」


 実年齢はずっと下の女の子に、抱きしめられて、背徳的すぎて身悶える。


「す、すいません、いきなり抱きしめるなんて、失礼でした。」


 モニカがしゅんとしてしまう。


「あ、いや、失礼って訳ではないが、気恥ずかしかっただけだから。」


 あせって正直に答えてしまった。


「ふふ。」


 なんかわからんが、おじさんがすごい年下の女の子に戸惑っていると、冒険者風夫妻が近寄ってくる。御者はファルスの様だ。


「ルシア様、ちゃんとお礼が言えます。娘の命を救っていただいて有難うございます。自己紹介がまだでした。ツーランの里と交易させてもらっている商人のタニカル、妻のルモアと娘のモニカです。本当に、本当に有難うございます。」


 タニカルは堀の深い顔の髭の似合うダンディで、ルモアはモニカをもっと美人にした金髪美女だった。モニカも将来、美人になりそうだ。


「ああ、私はルシア、小人族のしがない魔術師だ、よろしく。」


しがないなんて!とタニカル夫妻もモニカも否定するが、いい気になって魔法の暴走で死にかけて、本当にばかな人間だと思っている。

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