第4話 出会い(男)
「生きていた・・・。」
何時間寝たか分からないが、良い目覚めだった。今までの昏倒睡眠あけとは全く違う、全身に力がみなぎる様な感覚だった。魔法力は全快していた。
あと、また魔力が3、精神力が1上がっていた。まだ、推測の域だが、前世の世界でも筋トレしたら筋力上がるし、勉強したら知力も上がる(数値では分からないが)、この世界でもトレーニングで上がるのかもしれない。
ここ最近、魔法をたくさん使ったと思う。それも1回1回の魔法はとても意識して使った自負もある。それが筋トレの様になったのかもしれない。あとは精神力が1で魔力が3上がったのは、精神力はもともと高かったからかも知れない。
魔力が低すぎたのもあるだろうが、有難い。
まあ、何にせよ、魔法力が10上がったのはでかい。消費量調整もできる様になったし、あと、軍隊蝙蝠との戦闘で魔法の分割とか出来ちゃったし、私、もしかして凄い?
だが、良い気になっていたのは束の間で、この世界のシビアさに打ちのめされる。
コウモリとの戦闘で痛い目にあっただけでなく、服がずいぶんボロボロになってしまった。スライムとの戦闘では気をつけて戦っていたのに、軍隊蝙蝠の時はスイッチ入って、無謀な戦いをしてしまった。
蝙蝠の皮では生地が小さすぎるし、つなぎ合わせる事も難しい。近々、フルチンでの冒険になりそうだ・・・。とにかくいろいろ状況を確認しよう。
能力値
筋力:6
器用さ:12
敏捷さ:12
体力:7
魔力:9(3→6→9)
知力:10
直感力:12
精神力:13(12→13)
最大生命力:80 (体力*10+レベル*10)
最大魔法力:140 (精神力*10+レベル*10)
物理防御:3(体力/2)
魔法防御:6(精神力/2)
装備:
上着(ボロ)ズボン(ボロ)下着。
スライムゼリー3
軍隊蝙蝠の丸焼き5
軍隊蝙蝠の生焼け10
軍隊蝙蝠のリーダーの生焼け1
ソウルリーフ20
小石10
石10
ふむ、消費量調整や分割魔法は技術でスキルとして認識されていないのかな。だが、魔法も熟練次第でどうとでもできることがわかったのは大きい。
「まあ、絡め手っぽい感じではあるが・・・。」
そうなると、精密射撃とかも出来るかも。部位狙いで低い威力で勝つとか、なんかかっこいい。だが、レベルが上がらない私にはその方法で行くしか無いのも事実。鍛えてみるか!
パラメータの上がる契機が不明だが、とりあえず、基本方針を変更する。まず、スライムも狩るが、蝙蝠も狩る。行動範囲を少し広げて、地図を広げる。あとは魔法の訓練!
魔法の熟練度を上げ、いろいろな使い方を試して鍛えていく。威力が高いことが強さじゃ無いと証明する!でも、生命力が低く、防具もないので、ラッキーヒットで即死もあるので慎重に行動しよう。
「あと、流されない事!」
前回、帰路の途中で強制ダウンの危機を起こしているのを心に刻み込む。
「行動開始だ!」
と言ったが、生焼けの軍隊蝙蝠を全て焼いてしまおう。
マジックボックスから生焼けを全て出して、密集させ、「火矢(消費10)」を・24分割にしてまぶす様に放つ。
パチパチと表面が焼かれ、あたりに香ばしい匂いが充満する。そして、素早くマジックボックスに放り込む。いくつか、まだ焼き足りなかったので、もう一度焼いておいた。
軍団蝙蝠の丸焼き15
「ふふふ、当分のタンパク質は何とかなった。ああ、塩で良いので調味料が欲しい!」
魔法力:105/130
そういえば、蝙蝠の内臓や骨があったな、肥料になるか分からないが、ソウルリーフの根元に埋めてみるか、命の恩人だしな。これが原因で枯れても困るので、区分けして試してみる。綺麗に食べられた蝙蝠の骨と内臓部分埋め、少し耕し、ソウルリーフを少し植えてみる。
では、今日は拠点を少し整理して、身体を洗って、服を洗って、ゆっくりしよう!
先ほどの行動開始宣言はすでに忘れてしまった。
そして、やはり日課の昏倒睡眠は続ける。やはりたとえ栄養の当てを見つけたとしても、日に何ヶ月も当たらないのは体に悪いと思うし、精神衛生上よく無いから、魔法の熟練度を高め、魔法技術を上げ、なんとしても早急に脱出する。
そのためにも、昏倒睡眠し、回復し何度も冒険してポイントではない経験値を貯める!そして、じっくり睡眠はたまにする。筋肉では無いがいじめていじめ抜いてからゆっくり睡眠、それが時間効率も良さそうだし、パラメータも上がりそうな気分がする・・・。で、魔法をいろいろな使い方で試しながら昏倒する。
やはり、昏倒睡眠は魔法力の回復で目が覚める様だな。ゲームもテレビも無いのでやることは魔法の訓練。でも、これがとても楽しい。
夢にまで見た魔法、ファンタジーの王道、それを発動するだけで楽しい、そしてやり込み要素が満載であることも知ってしまったのだ。ゲーム脳全開で、色々試すことが楽しいのだ。
ただ、魔法力の上限が低いので限界もある。ああ、無限に魔法が使えるようになりたい。なんかのスローライフ転生ものっぽく「暇だから魔法を訓練してみた」みたいだが、簡単に死ねるので、そんなに平和そうではない。
訓練中に油断すると簡単に死ぬ。訓練に時間をかけすぎても数ヶ月で死ぬ(多分)。気を引き締めて、意識して魔法を訓練、戦闘技術も訓練しなければならない。
楽しみつつも慎重に確実に訓練していた。
そんなこんなを繰り返し、実日数で5日程たった頃(最近効率が良くなり、昏倒睡眠スライム周回は1日6〜7回できる様になった。うち蝙蝠狩りを1回組み込むと1日3〜4回周回できた。)、魔法の部位への精密射撃ができる様になっていた。
まだ、命中率は7割弱だが、威力を下げて速度を上げたり、割って、分割射撃で命中率を上げたりして、戦闘に使える様にしている。練習台はもっぱらスライムだった。
スライムの核を狙うと「火矢(消費1)」でも十分倒せることがわかったので、練習台にはもってこいだった。あと、散々狩っていたので、だんだんとスライムの行動パターンもわかって来て、回避しながら戦える様になっていた。もう、スライムスレイヤーと呼ばれても良いぐらいだ。
軍隊蝙蝠もこの期間で6回ほど狩れて、マジックボックス内の食料事情はとても良くなっている。
ただ、懸念事項もある。軍隊蝙蝠狩りの途中で、人間より大きい足跡(おそらく裸足)を見つけたことだった。まだ、遭遇はしていないが、二足歩行の巨大生物がいることが判明したことが当面の不安事項だ。
もしかしたら意思疎通、会話が出来て友好的な可能もあるかと思ったが、こんな洞窟にいるぐらいだ、確率低いと思う。
とにかく、5日ぶりの熟睡デイだ!体と精神を苛め抜いた後のゆっくり熟睡だ!
準備は寝床の整理、身体を洗い、服も洗い、乾かして、食料はもちろん軍隊蝙蝠リーダーの丸焼き5つ、そして少し冷やしたスライムゼリー。
このスライムゼリーだが、アシッドスライムゼリーという特別なもので、レアなスライムのゼリーだ。スライム自体がレアで、この5日で4匹しか討伐できなかった。
このアシッドスライムゼリーを浄化して食べると、クエン酸風味で少し酸っぱいのだ。少なくとも「浄化」すれば今のところ問題なさそうで、私はレモンゼリーと名付けている。このレモンゼリーがデザートで、出す日はこの日だけと味見した時決めた。
よし、準備万端、軍隊蝙蝠リーダーの肉は通常より脂が乗っててうまいんだよな〜。
「いただきます!」
前世の食事の挨拶とともに、丸焼きにかぶりつく!う、う、うますぎる!!
やっぱ、リーダーうますぎや!通常の蝙蝠も悪く無いんだが、こっちの味を知ってしまうとね。そして次々に食していく。止まらない。
5匹平げて、落ち着いたところに、「熱操作(30消費)」でキンキンに冷やし、アイスっぽく凍らせたアシッドスライムゼリー(浄化済)を取り出す。
ああ、5日ぶりのレモンゼリーアイス〜。う、う、うますぎる!レモンアイスだ!
甘く無いけど酸っぱくて美味しい。味があるだけマシ!物の十数秒で食べてしまった。
ふう、さて「風纏い」かけて、寝ますか。まだ魔法力は余っているが、今日は昏倒睡眠じゃ無いので・・・。ああ、体が休眠状態に移行し始めた・・・。
「次、起きられたら、そろそろ、もう少し進んで・・・、みるか・・・、な・・・。」
崩れ落ちる様に眠ってしまう。
ふわー。死んではいないな・・・。
「水作成(8消費)」で少し飲んで、顔を洗う。
「早速、パラメータチェーーーック!」
ステータス画面を起動し、パラメータをチェックする。まあ、そんなに甘く無いってことか、魔力は1上がったけど、他は無いか。やはり、パラメータは上がりにくいのかも知れない。
ずいぶん苛め抜いたのだが、精神力は上がらず魔力だけが上がった。直感力とかも上がっても良さそうなのだが、やはり12〜13を1あげるのは簡単では無いようだ。魔力はもともと低かったから上がったのかも知れない。
しっかし、あの5日間の魔法の訓練はまあまあ、きつい物だった。そう考えると勇者補正の+25はヤバイ力って事で、殺してでも欲しいってことになるのだろう。あの女魔術師は誰に力を移行させていたのだろうか・・・。悪党っぽくもなかったし・・・。
でも、やはり許せない!
いつか、「ギャフン」(古い)と言わせてやる!
能力値
筋力:6
器用さ:12
敏捷さ:12
体力:7
魔力:10 (9→10)
知力:10
直感力:12
精神力:13
最大生命力:80 (体力*10+レベル*10)
最大魔法力:140 (精神力*10+レベル*10)
装備:
上着(ボロボロ)ズボン(ボロボロ)下着(ボロ)。
スライムゼリー20
アシッドスライムゼリー2(浄化済・冷凍済)
軍隊蝙蝠の丸焼き45
軍隊蝙蝠のリーダーの丸焼き2
ソウルリーフ10
小石20
石20
ステータスには無いが「魔法力消費量調節」「魔法分割運用」「魔法精密射撃」ができる。
ここに落とされて、もう1ヶ月ぐらいになると思う。その間は1ヶ月とは思えない濃密な日々だった。いまだにこのダンジョンの全容はわからないが、脱出に近づいていると実感する。
魔法を習得し、魔力も人並みまで上げることが出来て、生き残る強さは手に入れたと思う。まあ、いまだに一撃死の可能性はなくなっていないのだが・・・・。防御系魔法が無いのだよ!
ともかく、あの巨人の足跡は怖いが、進むしか無い、服ももうボロボロだし、人としての尊厳があるうちに脱出したい!フルチンは嫌だ!
今日は軍隊蝙蝠狩りエリアの向こうを探索する。巨人の足跡もあるので、気を引き締めて進む。今回は、スライムも蝙蝠も無視、見つけても見つかっても逃げることにする。逃走は成功率が高く、小人族の体型と敏捷力の高さのせいかも知れない。
「来たぞ、確かこの辺りに足跡を見つけたのだが・・・。」
足跡はなく、代わりに人間より遥かに大きい獣の白骨死体があった。こんな大きい獣がやられるって、あの巨人か、もしくは別の何かだろうか・・・。うう、早く出たい。泣きたくなる・・・。
「いかん、いかん、心で負けてられない!」
1ヶ月前の私じゃ無いのだ!
気を引き締め直して、あたりを警戒しながら気配を消して進む。
これはきついな。気を張り続けたままってこんなに大変なのか。以前までは1度は拠点には帰っている頃だが、今回は途中でキャンプ、もしくは夜通し探索するつもりで来ている。
先ほどの獣の死体を見て、キャンプは無理と判断し、夜通し歩いているのだ。闇魔法「暗視」も掛け直す必要もあり魔法力も限界だ。やはり、寝床を探そう。
比較的安全なのは高所、特にこの洞窟は横穴が多い、高所にもいくつもある。そういう生物が住んでいるわけでも無い。(以前はいたのかも知れない)なので、高所で良さそうな横穴を探す。
梯子はないが、以前、たくさんのスライムに襲われた時に、「足絡め」をかべに発動させ、それの足場を複数作り登って逃げたことがあったのだ!一人で自慢げに思っていると、良さそうな横穴を発見した。
あの大きさなら大きい生物は入れないだろう。蝙蝠には気をつけないといけないが、最近、蝙蝠がこちらを避けている様で、不意打ちでしか、お肉がゲット出来なくなって来ていた。スライムよりは頭が良いのか、仲間同士で情報をやりとりできているのか・・・。
「足絡め(3消費)」を7つぐらい発動させ、ぴょんぴょん飛び移って、地上5メートルくらいのところの横穴に入り込む。
中は少し広いな、何かの生物がいた形跡もない。まじで、なんの穴なのだろう・・・。念の為、入り口にはソウルリーフを線になる様に並べる。これでスライムは入ってはこない。スライムは壁を登れるのでソウルリーフが必要になる。
よし、今日はもう寝よう、危険だし昏倒睡眠はやめよう。寝る前に腹に何か入れておくか。丸焼きは匂いがするから、無臭のスライムゼリーにしておくか。
スライムゼリーをマジックボックスから取り出し、流し込む。
「う〜ん、やっぱおいしくない。10秒チャージゼリーと思っても無理だな。」
よし寝よう。体を丸めて縮こまって眠る。
「生きていたか・・・。」
初めての拠点外外泊で少し心配していたが、長い警戒探索で疲れたせいか、すぐに寝てしまったのだ。ソウルリーフは少し発光しているが、スライムもこなかった様だ。もうしばらくここにいるか。
水魔法「水作成(5消費)」で少し飲んで顔を洗う。いつものルーティーン。
闇魔法「暗視(10消費)」を発動し、視界を確保する。昨日は我慢した焼き鳥を食べようと、マジックボックスから取り出そうとした時、
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
地響きの様な唸り声を聞き、飛び起き、横穴の天井に頭をぶつける。
「いってーーーー。なんだ、なんだ、何がおきた・・・。」
地上5メートルの横穴から覗き込む、近くには居ないようだ。唸り声は洞窟内を反響して、どこからかは分からなかった。・・・、あの発声量からすると、普通にバケモンだ。
だが、なんとか正体だけでも掴んでおきたい。正体不明の恐怖は耐えられない、せめて正体さえわかれば対策が取れる可能性も見えてくる。別に倒さなくても良い場合もある。
「よし、やるか。」
「風纏い」を発動して、飛び降りる。風纏い中は落下が緩やかになり、ふわっと降りれることをこの前発見していた。着陸して風纏いを解除し、とにかく進もう。できればさっきの唸り声の主に会いません様に・・・。
「フラグだった。」
おそらく先ほどの主と思われる巨人が傷だらけで、壁に寄り掛かっている。こちらに気づき巨人も警戒する。ズタボロじゃん、この巨人をここまでにする奴が居るってことか。
しばらくすると、巨人は力尽きたのか気絶したのかわからないが、崩れ落ちてしまう。どうする?敵対かも知れないし、治療しても恩を着てくれるとも思えないが、こいつがこのまま死ぬと、こいつをやった奴が彷徨くのもキツイ。
「よし、助けて情報を得る。治療して起き上がる前に高所に逃げる。それで行こう。」
どれだけ治療かければ良いかわからないが、今かければ死にはしないだろう。
「小治療(10消費)」を8回使う。
なんとか傷は塞げた様だ。念の為に高所に退避しておこうと、離れようとした時、巨大な手で体全体を鷲掴みされる。
「しまった!起きていたのか!死んだ!さよなら!」
目を瞑り、死を覚悟したが、握り唾されることはなく、しばらくして、地面に下ろされる。
「小さき者、治療、感謝、する。」
辿々しく「人族語」でお礼を言う。あああああ、会話だーーー。1ヶ月ぐらいぶりの会話だーーー。
「いや、困った時はお互い様だよ。」
前世の世界の格言が通じるとも思えないが、何を話して良いかわからなくなり、よくわからないことを話す。巨人もポカンとしている。
「人族語、まだ、あまり、わからない、この世で、一番、多い言語、人族語だった。通じて、よかった。」
私は人族語しかわからんがね。だが、人族語が英語みたいに多くの種族に浸透している共通語みたいになっているって事か。良い情報だ。
「もう一度、お礼、言う。ありがとう。」
ずいぶん礼儀正しい巨人だ。
「あんたは、ここで何をしているのだ?誰にやられた?」
一番聞きたい情報を聞き出そうとすると、巨人が、腹を抱え出す。そして、「ぐごぉぉぉぉぉぉ」と大きな腹の虫がなりだす。
「――――〜―、――――。」
聞き慣れない言語で唸る。お腹減ったと言っているのだろうか。自分の食料を出すか悩んだが、このまま、喰い殺されないとも言えないので、マジックボックスから蝙蝠の丸焼き(リーダーではない方)を5個くらい出して、巨人の足元に放り投げる。
巨人は蝙蝠の丸焼きを1匹丸ごと口に放り込み、バリバリと骨ごと食べ、ゴクリと飲み込む。そして、すぐにもう1匹、5口で全て平らげる。
これは全然たりなさそうだ。本調子になって私が食われるかも・・・。そんな勢いで平らげたので、諦めて、10個を残して30個をざらざらと巨人の足元に出す。
巨人はすごい食いっぷりで、どんどん蝙蝠の丸焼きを胃袋に入れていく。30個全て平らげたところで、ゆっくり息をはく。
「ふいーーー。――――。」
巨人語らしき言葉で満足そうに腹をさする。
「馳走になった。小さき者よ、魔法蔵、を、持って、いるのだな。」
魔法蔵?マジックボックスのことか、そういう表現なのか。
「大きさは大した事ないけどね。蝙蝠の丸焼きももうほとんど無いよ。」
まだ通常が10個、リーダーが2個あるが、そう言っておく。
「それは、すまなかった、治療、も、食い物、も、すまなかった。」
巨人が深々とお辞儀をした。日本のお辞儀みたいな文化があるのか?なんか喋り方も武士っぽいし。
「まあ、食料はまた蝙蝠を狩れば良いから、気にしないでいい。それより何にやられた、この洞窟から外に出られるのか?」
もし、この巨人が外から来ていれば、出口を案内させるし、そうでなくても、巨人をズタボロにした驚異の情報を得ておきたい。
「我を、やったのは、『剣狩り』だ。それを、討伐に、外から、きた。」
きたーーーーー、出口への情報!『剣狩り』?よくわからんが、頑張って討伐してくれ、その前に出口を案内させる。これだけ助けたのだから文句ないだろう。
「出口!教えてくれ、出口まで案内してくれ!」
身を乗り出して、食い気味で巨人に言う。しかし、巨人はすまなそう?に言う。
「出口に、『剣狩り』、陣取り、出られない。討伐、したら、出られる。」
詰んだ。いやいやいや、無理でしょ!このごつい巨人をズタボロだぞ。私が手助けしたとしても無理でしょ。詰んだ、無理ゲー。ガクッと膝をついて落胆していると、巨人が言う。
「俺が、なんとか、『剣狩り』抑える、そのうちに、走り抜ければ、出口、行ける、かも」
ダメだな、どんな化物かわからんが、そんな賭けには乗れない、流れ弾1発で死ぬだろうし、出られたとしても、巨人を殺して追いかけられたら逃げ切れる自信はない。追いかけられたら死亡、追いかけられない可能性に欠けるのは怖すぎる。出るには倒すのが必須だろう。
「まず、情報を整理したい。『剣狩り』とはどんな化物なんだ?」
「『剣狩り』、アンデッド、強き戦士、成り果てた、怪物。我が、一族の、勇者、墓から、魔術師が、奪い、ここに、縛り、置いた。」
人為的に作られたモンスターで、人為的にこのダンジョンを守らせた?このダンジョンに何かあるのか?
「『剣狩り』、由縁、倒した、強者の、剣、自分の、体に、刺す。剣の、攻撃、余り、効かない。」
前世のゲームに身体中に剣を突き刺したラームジェルクってスコットランドの幽霊の化け物がいたっけ、倒した相手の武器を集めるとか弁慶かよ。どこの世界もそういう奴が多いのかな。
「『剣狩り』、我が、一族の、先祖、開放、したい。我が、父、負けた。倒して、弔いたい。」
はあ、やるしか無いのか・・・。だが、この巨人では勝てない理由が、私の協力で勝てる可能性が出て来た。「聖属性付与」だ。
弱点の無いポテンシャルが高い敵だったら無理だったかも知れないが、弱点があるのならなんとかなる。それに、この巨人強そうだし、聖属性武器があればなんとかなるのでは無いだろうか・・・。
「よし、一緒に倒そう!俺がサポートする。」
壁を背にへたり込んでいた巨人に、握手する様なポーズをとり話しかける。
「まずは、自己紹介だ!」
はっ、この世界の名前考えてなかった、流石に日本人の名前は芸がないし、そもそもおかしいと思う、知らんけど。どんな名前にしよう・・・、・・・思いつかねえ!
テーブルトークアールピージーでキャラ作る時は、いつもテーブルに置いてある飲み物から名前をつけてたな〜。
あんまり馴染みのない名前でも声をかけられた時に困るし、その時のキャラの名前にするか・・・。なんだったかな、あれは当時飲みまくっていた、ヘルシア緑茶から、へ・ルシアって名前だったか・・・。
「俺はルシア、お前の名前は?」
少し、間を置いて(名前考えていただけ)巨人に向かって自己紹介をする。
「我、ファルス、オーガ族の戦士!」
ファルス、かっこいい名前じゃん、見かけから濁音の名前を想定していたよ。
ガボンとかドズラとか。オーガ族か、オーガは亜人枠なのだな、ゲームによってはモンスター枠だが。
「とりあえず、準備の為に拠点に戻ろう。帰りがけに蝙蝠も狩っていこう。」
すると、ファルスが私を掴み、肩に載せる。まるで親子だ。地面まで2・5メートルぐらいだ。
「高っか、でも楽だ。」
人間だった頃の視界よりも高く、少し怖かった。あと歩幅が全然違う、こんなのに追いかけられたら逃げきれない。『剣狩り』が動きの鈍いゾンビならファルスが負けるわけないだろう、勝てないのなら、敏捷性を兼ね備えたアンデッドと想定すると、逃げることは敵わなかっただろう。
たとえ、このダンジョンに縛り付けられていたとしても、出口まで競争して決して勝てなかっただろう。
それに、もう見捨てていけんわな。好意的に会話ができた初めての相手だし、こんなところで失うわけにはいかない。
この出会いは大事にしたい。
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