第3話 拝啓、お父さんお母さん、私はなんとか生きてます

「・・・、う、生きている、か。」


 目が覚めると意識が途切れる前の強烈な眠気はなかった。ステータスを見ると魔法力は全快していた。体の疲れはあまり取れていない。空腹のせいもあるかもしれないし、こんなのところで寝て体の疲れが取れるとも思えない。


 洞窟の中で時間感覚が一切分からなく、どれだけ眠っていたか分からないが魔法力が全快しているので、6〜7時間はたったのではないだろうか・・・・。


「とにかく魔法力も回復出来る事は確認できた。」


 昨日のスライム撃破時の経験値を見る事を忘れていたので、ステータス画面で確認してみた。


 だが、女魔術師の肩にいたデビルビジョンとか言うモンスターの元の経験値が100ポイントで、スライムの経験値が0。やはり経験値は入っていない。ガチでレベル上げ出来ないなんて、経験値(エーテル)はどこに行ってしまったのだろうか。


 自分の魔法力で1日に倒せるスライムは多くても3〜5体、しかも攻撃を受けなかった場合だ。受けたら治療魔法もいるし、飲み水も出さないといけない。汚れたら身体を洗うのも必要だ。流石に栄養なしでは、いつか栄養失調で倒れるな。


 やはり動物性タンパク質を補給できるモンスターを倒さないといけないな。


「まあ、考えても仕方がない。生きるために今日も頑張りますか。」


 声に出しておかないと、喋り方忘れるから、朝一?は一声発しよう。


 まず、身体を起こす為に、水作成し、飲み干す。(たくさん溢れて勿体ない。)


魔法力:110/130 


 準備ってほどする事ないが、今はこれで準備完了。穴を潜り昨日スライムにエンカウントしたエリアを進む。すぐにエンカウントした。


 スライムは2匹、まだこちらに気付いていないようだ。まず、1体にむけて火矢を撃ち込み1撃で倒す。ここまでは順調だったが、こちらを認識した残りのスライムが想像以上の敏捷力で突進してきた。そして、体当たりされる。


「グフゥ。」


 口から唸り声になって声が漏れる。痛い!超痛い!ダメージ20だと!4発食らったら死ぬ。スライムがこんなに機敏とは、単細胞だから外敵と認識したら速いのか!?


「あたれ!あたれ!」


 火矢を立て続けに撃ち込む。3発目にやっと当たってスライムは消滅した。


 くそ、合計40も消費してしまった。帰りにエンカウントしたらやばい、急いで隠れて慎重に帰ろう!身をかがめて素早く歩く。体の小ささと人並み以上の敏捷力でなんとか無事に拠点に帰還出来た。


「あ、危なかったーーーー。」


 スライムの本気を見せつけられて、自分の認識の甘さに背筋が凍りつく。最低ランクのモンスターでも生きるために本気?で来るのだ。そしておそらく自分は最低ランク、余裕をかます事なんて出来ない!


「まずはダメージを回復させよう。」


 『小治療』を2回発動させ全快する。体全体が治療されるのは便利だけど、なんか無駄な消費をしている感じもする。細かく調整が出来ると良いのだが。


魔法力:70/130


「ああああ!」


 さっきのスライムのドロップ確認していない!スライムの攻撃を当てられて、取り乱して逃げ出してしまったから・・・。今日は、水だけで腹を膨らますしか無い・・・。


 今日はなんか疲れたし、魔法力使い切って寝るか。まず、今日こそ焚き火を起こすために、ソウルリーフの束に、もう直接、「炎矢」を放つ。


 お、束が弾けて少し散乱したが、火がついたか。あとは裸になって、『水作成』で出した水で体洗って、飲んで昏倒する。



「まだ生きてる・・・。」


 魔法力は全快しているが、体の疲れが取れない。やはり、寝心地のせいか・・・。流石にここまで疲れが取れないと冒険に支障が出るので、体に「小治療」をかけてみた。ふむ、少しは疲れが取れた。肉体的な疲労は「小治療」でなんとかなりそうだな。


「でも、柔らかいベッドや布団でゆっくり寝たい!」


 まだ、ソウルリーフが完全に燃え尽きてなかった。意外と火持ちするのだな。燃えている時も火の進みは遅く感じたが、こんなにも持つのか?まあ、あまり気にする事もないか。ここは異世界、前世の常識は通じないかも知れない。


「よし、やるか!」


 前世?では何事もダラダラ生きて、やろうやろうとして何もやれなかった私が、こんなにも行動的になる事が、自分でも不思議だった。死と背中合わせの状況で生きている実感を感じているからかもしれない。前世は最悪、国がなんとかしてくれるとか思ったり、今さらこの年齢から何も起こせないだろうと諦めたりしていた。


 とりあえず、水魔法「水作成」で水を少し飲んで、残りで顔を洗う。本当は何か腹に入れてから出発したいが、今のところは我慢だ。昨日みたいに動揺してドロップ取り逃すとかしないようにしないと。


「うし、気を引きしめて行くか!」


 まずは、世界に、小人族の体と魔法に慣れる必要があると思う。レベルが上がらないにしろ、チュートリアルは大事だ。それから、少し遠出して見ようと思う。



 とにかくスライムゼリーと魔石を手に入れ、魔法と食料を用意し、遠出が出来る様に準備したい。この先にスライムも出ないエリアで餓死とかも嫌だし、スライムより強力な魔物が出た時のために手札は多く用意したい。あとは、魔法力を使い切るようにして、昏倒睡眠を繰り返していた。


 最初の10日ほどは1日に倒せるスライムは2〜3匹で魔石も滅多に出なかった。

やはり、ドロップは稀のようだ。10日目ぐらいから魔法にも慣れ始め、消費魔法力を減らす事が出来る様になっていた。


 やはり魔法も習熟してくれば、アレンジ出来るようだ。この魔法力消費量を減らしてもスライムなら消費3でも倒せる事がわかった。スライムの耐久力は10ぐらいだ。


 それから1日に倒せるスライムが3倍、あとは動く標的に『火矢』を当てる事にも慣れ始め、さらに倒せる数が増えて、多くのスライムゼリーといくつかの魔石を手に入れる事が出来た。このダンジョンで目覚めて30日ぐらいでスライムを500体ほど狩った結果、手に入れた魔石で習得した魔法がこれらだ。


火魔法

・熱操作:

 取得条件:無し

 魔法力消費量:10

 持続時間:一瞬(発動後、指定の温度に近づいていく)

 対象:1

 距離:接触

 威力:レベル+魔力

 効果:対象(威力立方センチメートルの体積)を威力度だけ上昇もしくは下降させ  

    る。対象が魔法抵抗をした場合、必ず失敗する。


 熱操作なので温めたり冷やしたり出来た。スライムゼリーも冷やすと幾分食べやすくなった。この魔法だけで暖を取るのは難しいが、使い所だろう。


水魔法

水纏い:

 取得条件:無し

 魔法力消費量:10

 持続時間:1時間

 対象:1

 距離:1メートル

 威力:レベル+魔力

 効果:威力分の炎ダメージを無効化する。濡れるので地上での動きが鈍くなる。


 防御魔法としては微妙だった。体を薄い水を纏わすため、服も濡れるし何より重い。ただ、服を脱いだ状態で発動させ、体を洗うことが出来た。風呂に入れないのでとても重宝している。


風魔法

・空気作成:

 取得条件:無し

 魔法力消費量:10

 持続時間:一瞬・1分

 対象:1

 距離:至近

 威力:レベル+魔力

 効果:威力*100㎤の体積の空気を作成する。一瞬で出せは突風を作り出し、

    1分で出せば緩やかな風を出す。


・風纏い:

 取得条件:無し

 魔法力消費量:10

 持続時間:1時間

 対象:1

 距離:1メートル

 威力:レベル+魔力

 効果:全身の周りに空気の層を作り、外気の悪臭や体に悪影響を及ぼす期待を中和 

    し、内側に送り込む。また、対象の悪臭を外気に出さない。

    中和可能な気体は威力に依存。

 悪臭:4

 白煙:10

 黒煙:13

 毒ガス:17〜(ガスの脅威度により変化)


 『空気作成』を発動すると風を起こす事が出来たが、使い所が分からない。突風もスライムを弾き飛ばすほどでもない。『風纏い』は今の所使い所はないが、体臭を感知する魔物には有効だと思う。外部からの防御には魔力が足りなくて、意味は無いだろう。


地魔法

・足絡め:

 取得条件:無し

 魔法力消費量:10

 持続時間:10分

 対象:1

 距離:20メートル

 威力:レベル+魔力

 効果:一時的に地属性の面を威力*㎤の体積を隆起させる。土・石畳などで可能だ 

    が、鉄板などは不可。


・石弾:

 取得条件:無し

 魔法力消費量:10

 持続時間:一瞬

 対象:1

 距離:20メートル

 威力:レベル+魔力

 効果:術者が所持する地属性の物(威力*㎤の体積以下)を、対象に向けて射出

    し、威力×4地ダメージを与える。ただし、射出した物の強度でダメージの

    増減が発生する。


 『足絡め』は相手の行動を阻害する時に便利そうだが、スライム相手には全く意味がなさそうだ。他に何か用途がないかな・・・。『石弾』は石を準備しておく必要があるが、『火矢』より強力だ。マジックボックス内の石も飛ばせる事がわかったので、いくつか持っておくようにしている。『所持する』がマジックボックス内にも適用されていて助かった。


光魔法

・浄化:

 取得条件:無し

 魔法力消費量:10

 持続時間:一瞬

 対象:1

 距離:至近

 威力:レベル+精神力

 効果:対象の物理的なバッドステータスを威力*5㎤の体積以下分解除する。

    解除可能なステータスは威力に依存。

    酔い・二日酔い:6

    毒:10〜(毒の脅威度により変動)

    石化:20〜(石化の脅威度により変動)

    腐食:30〜(腐食の脅威度により変動)


・聖属性付与:

 取得条件:無し

 魔法力消費量:10

 持続時間:6時間

 対象:1

 距離:至近

 威力:レベル+精神力

 効果:半径威力メートルの範囲を淡い光を照らす光源を対象に付与する。

    武器に付与した場合、アンデッドへのダメージが有効な武器となり、威力分

    のダメージが上乗せされる。


 『浄化』は有難い!威力のベースが小人族の高い精神力のおかげで弱い毒なら無効化できそうだ。とりあえずスライムゼリーを食べる前にかけている。『聖属性付与』は明かりの代わりにも魔除けにもなりそうなので、使い勝手は良さそうだ。『石弾』用の石にかけて聖なる弾丸にしても使えそうだ。


闇魔法

・暗視:

 取得条件:無し

 魔法力消費量:10 :

 持続時間:3時間

 対象:1

 距離:至近

 威力:レベル+精神力

 効果:暗闇で威力*2メートルまでの範囲を不自由なく見渡せる、威力範囲から外 

 は段階的に見辛くなっていく。


・闇矢:

 取得条件:無し

 魔法力消費量:10

 持続時間:一瞬

 対象:1

 距離:20メートル

 威力:レベル+精神力

 効果:対象に向けて闇の矢を放ち、命中すれば威力分のダメージを魔法力に与え 

    る。魔法力が0になった生物は昏倒する。生命力にはダメージを与えられな 

    い。


 『暗視』は地味に助かっている。やはりこのダンジョンは光源が少ない。『聖属性付与』で明かりを灯すと格好の的である。弱い魔物なら近寄ってこないかもしれないが、強い魔物に見つかれば、私のような雑魚では絶対絶命だろう。


 だが『暗視』なら光源を作らないので、隠密行動ができる。気を付けないといけないのは、このような光源のないダンジョンでは視覚より嗅覚や聴覚が発達しそうなので、油断はできない。


 『闇矢』は相手を傷つけずに昏倒させる時に便利そうだが、ここではあまり役に立ちそうもないか。毎日眠れないので、自分に打って昏倒させるのには重宝しているが。他に私には習得できない魔石がいくつかあった。


 1ヶ月ほどスライムを狩り続けて、いつの間にか魔力が3増えて6になっていた。

これには驚いたが、あれだけ魔法を使えば上がるかなとも思った。と言ってもまだまだ魔力6は低い(平均10らしい)ほうだ。


 魔力ベースの魔法はどれも微妙な威力だし、魔法力が少ないので連発も出来ない。

魔法力消費削減を使えば回数は増えるものの、実際の威力は下がるのでなとも・・・。


 だが、生活レベルは上がった。体が洗えたり、ゼリーを冷やせたり、浄化させたりと便利にはなった。問題は毎朝?起きても体が疲労で悲鳴を上げていて、毎朝『小治療』が欠かせない、


 これは1ヶ月栄養を摂っていないからかもしれない。それでも生きているのは小人族の特性だろうか。そろそろ死ぬかも知れないな、動物性タンパク質を摂取したい!


 スライムゼリーもたくさん集まって、魔法も充実し、各魔法の熟練度も上がったと思うので、遠出を決意する。そして、何か食べるものを探す。このままではおそらく栄養失調で動けなくなるだろう。


 毎日スライムを狩ったり、魔法の熟練度を上げる事ばかりして、ゆっくりしたことはなかったかも知れない。一刻も早く、日の当たる場所(この世界にあるか分からないが)に出たい一心だったからだ。


 だが、少し遠出を決めたので、今日はゆっくりする事に決めた。体が悲鳴を上げているのも事実、今日一日ゆっくりしたら少しは改善されるのではないかと期待しながら、ぼーっとソウルリーフの火を眺めている。


「何かいろいろおかしい。」


 このダンジョンに来て初めての、のんびり生活でいろいろとおかしい事がわかった。ソウルリーフの燃焼時間、身体の時間感覚がいろいろ食い違っているようだ。

いつもはソウルリーフが燃え尽きる前に起きて、帰ってきた時には燃え尽きている。

だが、今見てる限り12時間近く持つようには見えない。


 広葉樹の薪一束で2時間ぐらい持つが、特殊な薪そうだったのでそういう事もあるかな〜と気にしていなかったが、4時間ぐらいで燃え尽きそうだ。この4時間くらいというのは「暗視」の効果時間の3時間と掛け直して、それくらいと判断した。


「試してみるか。」


近くの二つの石に光魔法「聖属性付与(10消費)」「聖属性付与(5消費)」を掛ける。これで効果時間が6時間もつものと3時間持つ物が出来た。

後は、いつものように魔法力を使い切って昏倒睡眠を実行する。


 目が覚めると、効果時間3時間の方が消えていて、6時間の方はまだ光っている。

昏倒睡眠は6〜8時間の睡眠ではなく、魔法力が回復したら目が覚めるシステムの様で、実際は3〜4時間で目が覚めていた様だった。


 身体の疲れが取れていなかったのは、熟睡していないからの様だった。よって、3〜5時間探索して、3〜4時間寝て、また探索に向かっていた様だ。


 それで計算すると、ざっくりだがここに放り込まれて2週間弱しか経っていない事になる。凄まじい濃密に凝縮された生活を送っていた事になる。


 だから、あまり疲れが取れず、あまりお腹が空かず、栄養失調でフラフラにならなかったのだろう。


 まだ2週間程度だったのか・・・、1ヶ月以上経っても大丈夫だったから小人族は栄養をあまり必要としない生き物かと思っていたが、そうではなさそうだ。


「動物性タンパク質が欲しい!」


 洞窟だし、蝙蝠とかいないのかな?地底湖とかあれば淡水魚とかいそうなのだが・・・。次の朝方にむけて準備をする。


 まず、10本ぐらいを束にしたソウルリーフ、20個くらいの大小の石(小さい石なら1ポイントでも飛ばせるので、攻撃ではない使い方の時に便利なので用意する)、あと、非常食用にスライムゼリー残り4つ。


「そろそろ行くか。」


 できれば脱出、最悪栄養が取れる物を手に入れる。岩塩の様に塩だけでも良いので、何かしらの養分を取りたい。


 魔法力は温存したいので、スライムを見つけても狩らずに、避けて通る様にした。一時間ほどあるき、いつもなら引き返すくらいの場所まで、無傷でたどり着けた。ここからは未知の領域、気を引き締めて進もう。


 水魔法「水作成(5消費)」を唱え、喉を潤しておく。しばらく進むと、スライムエリアより開けており、地面もゴツゴツしていない場所に出る。あまり専門的な事はわからないが、天然の洞窟に平地はあんまりないと思っているので、ここは地上を歩く生物がいるのではないかと思い、さらにいっそう周りに気を配って、出来るだけ、平地の中央に出ない様に壁ぞいに進む。


「キイキイ。」


 なんだ!?立ち止まり、身を低くする。壁に背中をつけ、あたりに気を配る。そこに、黒い渦が視界の外の上から現れたと思うと、ゴーっと黒い塊とすれ違う。


「イタタタ!」


 身体中が痛む。見ると腕などに無数の切り傷があり、血を流している。

そして、また黒い渦が向かってくる。今度はとっさに横に飛んで回避する。


 蝙蝠か!?しかも何匹も!無数の蝙蝠が纏まって突っ込んできていたのだ。


生命力:60/70


 一回のすれ違いで10ポイント持ってかれたか!体が小さいのが幸いして何とか回避できたが、逃げ続けていてもジリ貧だ!倒すか、逃げるか!


 「いや、倒せるかと逃げ切れるかだ!」


 次の特攻を正面から「火矢(5消費)」を打ち込んでみた。蝙蝠の軍勢は直撃と同時に霧散し、また集合する。倒せたのは1匹だけだった様だ。


「これは多勢に無勢だ。魔法力が足りないし、何ターンも耐えられない。逃げるか!?」


 本来なら逃げるべきで、焦っていても通常の思考なら、ある程度のダメージを覚悟し全力で逃げていただろう。ただ、思考を停止する要因があった。


 それは「火矢」で丸焼きにした蝙蝠から、香ばしい鶏肉を焼いた匂いが微かに感じ取れたのだ。


 ゴクリ、無意識に生唾を飲む。


「肉!食いたい!」


 頭の思考の半分以上がそれに支配されて、撤退する思考が消されてしまったのだ。


 どうやって倒す!考えろ!凄まじい速度で頭脳が回転する。敵の動きがスローに感じる。アドレナリンが大量に分泌される。


 1体1体に「火矢」では無理だ、物理攻撃手段はない。相手は鳥、羽根だけ破壊できれば勝機はある。試した事はないが、今なら出来そうな感じがする。出来ないと死だ!


 もう魔法は身体の一部、思考の一部の様に使える。今なら出来る!前世のアニメの映像が頭をよぎる、何度も頭で私ならこうすると考えていた妄想をインプットとし、自分の力をプログラミングしていく。


 威力は最低限で良い。的確に当てる誘導弾でなくて良い。消費量を3倍がけして、威力を3倍にする。そして、弾を「分割」。脳内で魔法の実現を想像する。


 無数に細かく「分割」して握りしめた砂利を、突進してくる蝙蝠の渦に投げつける。何度も弾を「分割」する。「分割」の為の集中で、蝙蝠の軍勢の攻撃を2度受けてしまうが、アドレナリンが出まくっていて、痛みはない。


 ステータス画面を見ながら、「分割」構築を続ける。まだだ、あと一撃なら耐えられる。身体中の切り傷から血が流れ服も赤く染まる。蝙蝠達も奇声?上げている様に思える。


「喜んでおけ!次の特攻がお前達の終わりだ!」


 すでに何かに取り憑かれた様に自分に酔い、アドレナリンに酔っ払っている。


 蝙蝠達がとどめ言わんばかりに突っ込んでくる。


「いけぇぇぇぇ!」


 蝙蝠の渦が10センチぐらいの距離まで来たところの出鼻に、構築した魔法を叩き込む。3倍掛けで威力が21になった「火矢」を21個の細かい「火矢」(炎ダメージ1)をばら撒く。


 一瞬、あたりが昼間の様に明るくなった。眩しい光が包む。細かく「割られた」無数の「炎」が蝙蝠の渦を焼く!狭い空間に密集していた蝙蝠の渦が炎の渦に変わる。勢いは殺せず、火ダルマになった無数の蝙蝠が突っ込んでくる。


「あっぶねえ!」


とっさに身を伏せる。ここでも身体の小ささに助けられる。背中越しに、バタバタと蝙蝠達が地面に叩きつけられる。想像通り、羽根がやかれて飛べない様だ。

さらに、火ダルマの蝙蝠達が折り重なってお互いに火が何重にも燃え移り、身も焼いていく。


「おおおお、焼き鳥の匂いだ!!」


 匂いで喜んだが、アドレナリンが下がってきたのか、体が痛み出した。


「イタタタ、治療、治療!」


 残りの魔法力を気にしながら「小治療」を2倍掛けする。全快はしなかった。


 とりあえず蝙蝠(焼)を片っ端からマジックボックスに放り込む。全て回収出来たら、急いでここを立ち去る。あの光や匂いで別のモンスターが来ないとも限らない。

今の状況で再び戦闘になったらヤバイ。


 「風纏い」を発動し、匂いをたどられない様にして、急ぎ拠点に戻ろうとする。


「ふひひひひ、焼き鳥、焼き鳥。」


 鏡が無いから分からないが、ニヤケが止まらない。どんな顔をしているのだろう。

さっき、確認でイベントリを確認したら、鑑定結果で食用可とあったのを見たのだ。

拠点まであと15分くらいの所まで来て、小休憩時にもう一度イベントリを確認する。


軍隊蝙蝠の丸焼き:

 洞窟に生息し、小動物などを襲い、血を吸う蝙蝠。基本集団で行動し、リーダー1匹に対して20匹ほどの集団で行動する。丸焼き。食用可。


軍隊蝙蝠の生焼け:

 洞窟に生息し、小動物などを襲い、血を吸う蝙蝠。基本集団で行動し、リーダー1匹に対して20匹ほどの集団で行動する。生焼け。食用可(危険)。


 マジックボックスの鑑定は親切設計だな。

この世界はとても厳しいけど、マジックボックスは優しい。結婚したい。


「味見したい・・・。」


 いや、拠点でゆっくり安全に食べた方が良いに決まっている。でも、ちょっとぐらい良いか・・・。もう拠点もすぐだし、ここらはスライムエリアだし。動物性タンパク質の誘惑には勝てずに、一つマジックボックスから取り出す。


「あちあち。」


香ばしい気負いがあたりを包む。皮は一応剥がす、焼けた鶏肉が剥き出る。


「ゴクリ」


 我慢出来ずにかぶりつく。


「う、う、美味すぎる!犯罪的だ!2週間ぶりの肉!身体中に駆け巡る。味気ないスライムゼリーとは全然違う。味付けは無いが、そのままで十分うまい!」


 前世の料理に比べれば味気ない物であったが、全く味のしない物ばかりを食べていたのと、常時空腹だったため、格別の旨さに感じた。あっという間に1匹食べてしまった。


 皮と内臓、骨は捨てようか悩んだが、一応、マジックボックスに放り込んでおいた。


「もう1匹良いかな・・・。」


 本来ならこの先の事も考えて、残しておいた方が得策だ。マジックボックスに入れておけば腐りもせずに、焼きたてで保存されるから。だが、この欲望を抑えられるだろうか・・・。


 なんかの漫画にも「贅沢はきっちりした方が良い、小出しじゃダメなんだ」って言ってたし・・・。


 そして、焼き立ての蝙蝠を取り出しかぶりつく。蝙蝠もそんなに大きいわけでは無いので、食いではあまり無いので満腹までは行っていないのもあり、フライドチキン感覚で手が出てしまう。


 気がついたら5匹も完食してしまっていた。


「ふー、美味かったー、満腹、満腹!生きていてよかった。あ、「浄化」するのを忘れていたな。自身にかけておこう、念のために。」


 自身に「浄化」をかけてから、拠点へ帰ろうと立ち上がろうとした時、凄まじい眠気が襲う。今まで常時空腹で覚醒状態を保って来たが、今の満腹状態で、体が睡眠を要求し始めた。


「まずい、こんなところで寝てしまったら死亡確定だ。」


魔法力切れの昏倒と違って、全身が休眠状態に移行しようとしていて、今にも崩れ落ちそうだ。やはり、帰ってから食べればよかった!


「くっ、仕方ない!」


 左腕に右手をかざし、「火矢(1消費)」を撃つ。


「グアア、いってぇぇぇぇ。あっつううう。ハアハア、でも体が少し起きた。」


 今のうちに帰ろう!もうなり振り構わず、全速力で走り抜ける。途中、スライムにエンカウントしたが、何とか走り抜けられた。ソウルリーフのエリアには入ってこない様だ。


 ハアハア、もう限界だ、本当は体も洗いたいし、服の汚れも落としたいが、無理だ。火も起こしたいが・・・。治癒だけでも・・・。「小治療」・・・。

「小治療」を発動し、生命力を全快したのを確認して、崩れ落ちる様に倒れ深い深い眠りに落ちていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る