第24話 仙台駅前ダンジョン第1層 <神社:参道>

■仙台駅前ダンジョン第1層 <神社:参道>


 三人は仙台駅前ダンジョンにいた。


 ソラは今日から夏休みで、しばらく学校に行く必要はない。

 クロガネが「宿題はやったのか?」などとお節介を焼くが、「夏休みの初日から何言ってんの」と一蹴されていた。そもそも、ソラは学業の成績もよく、心配されるまでもないのだ。


 クロガネが勉強に対して口出しするのは、「父親じみたことをしたい」というやや子供じみた父性が源であり、ソラもそれを理解した上で毎度適当にあしらっているのだった。


「で、これが例の神社ってやつか」

「出店だらけでホントの神社みたい」


 眼の前には、朱色に塗られた大きな鳥居がそびえていた。

 立派なしめ縄が渡され、それを潜って参道を進む。

 参道の左右には以前も見かけたことのあるサハンすくいの他、クラーケンたこ焼きやクラーケンせんべい、クラーケン焼きそば、クラーケンげそ焼き、オカアンモナイトのつぼ焼き、焼きウツロハマグリなどの屋台が並んでいる。


「わー、いい匂い! でもなんか、やけに海鮮推しな気がする」

「仙台ダンジョンは海鮮が名物ですからね。気仙沼けせんぬまとか女川おながわの方が有名ですけど。クラーケンが多いのは、大物が狩られたのかもしれないですね」


 目移りしているソラに、アカリが説明をする。

 昔から住んでいる人間は、案外地元の名物などに関心がないものだ。


「何かつまんでいきますか? 4層からとんぼ返りで慌ただしかったですし」

「うん、ちょっとお腹に入れときたいな」


 一行は<神社>に向かう前に、一度4層に降りてアルキキノコを倒していた。

 ソラがレベルを取得するためだ。

 アルキキノコであれば3~4体も倒せばレベルが得られると言われている。

 しかし、無駄足を踏まないよう念を入れて10体ほど狩っていた。

 軽い運動程度ではあったが、ソラは小腹が空いていたのだ。


「匂いはうまそうだが、こんなの食って大丈夫なのか? 魔物なんだろ?」

「ゲテモノって嫌う人も多いですけど、味はおいしいですよ。ただ、ダンジョン内は観光地価格なんで、地上のスーパーとかで買った方がお手頃ですね。クロガネさんも食べてみます?」


 クロガネは眉をひそめ、ボリボリと頭をかく。

 海外での武者修行生活の際、得体の知れないものを食わされて腹を壊した経験は一度や二度ではない。はじめて見る食材には警戒感が先立ってしまうのだ。


「ほふほふ、ふぉのふわーふぇんたこやひっておいふぃよ。ふぉのまんまたこやひ」

「飲み込んでからしゃべれ」


 アカリが勧めるまでもなく、ソラがさっそく買い食いをしている。

 

 その手には紙容器に入ったクラーケンたこ焼きが載っていた。

 価格は1,000DP。日本円に換算して千円ちょっと。

 縁日のたこ焼きがだいたい500円くらいだから、それに輪をかけたお祭り価格だ。


「クロさんも試してみなよ。アカリさんもどうぞ」

「まあ、火を通してりゃ大丈夫か……」

「ありがとうございます。ご馳走になりますね」


 クロガネはクラーケンたこ焼きを頬張る。

 ソースとマヨネーズの濃厚な味の後に、とろりとした生地の旨味、クラーケンとおぼしき具は、噛むと力強く歯を押し返してくる。味はそのまま蛸で、噛めば噛むほど旨味がにじみ出てくる。


「たしかに、たこ焼きだな」

「でしょ?」

「たこ焼きに千円払ったと思うと釈然とせんな」

「ケチなことは言わない。あたしのお小遣いなんだし」

「まあ、金の使い途に口出しはしねえがなあ……」


 やはり、もったいないと思ってしまう。

 普段、スーパーで買物をし、料理をしているクロガネはどうしてもコストパフォーマンスを意識してしまう。クロガネは元より、ソラも道場生も大食漢揃いだ。野放図に外食や買い食いをしていてはあっという間に素寒貧だ。


 ちなみに、今朝の朝食もクロガネが作ったものだし、昨晩のカレーもクロガネがソラに作り方を教えたものである。超日の新人時代から数え、クロガネの料理歴は二十年余りと大ベテランだった。


「それに、これから配信で有名になってチケットも馬鹿売れする予定なんだから! クロさんもどーんと構えてないと!」

「お、おう。そうだな」


 ソラの勢いにクロガネは若干たじろぐ。

 実際、次の興行のチケットの売れ行きは上向いていた。

 これまではほとんど手売りや人伝ひとづたいで売れていたものが、ネット販売分のチケットも売れはじめたのだ。これは明らかに配信による宣伝効果によるものだろう。


 旗揚げから十年、常に逆風にあったせいで順風が吹きつつあるこの状況に、クロガネは浮足立っていた。人前では弱気を見せないクロガネだが、実のところ身も細る思いで団体の経営を続けてきたのである。


 もっとも、この筋肉のお化けのような巨漢がそれを正直に言ったところで、誰も真に受けなかっただろうが。


「さて、あまり道草をしていると配信の尺がなくなっちゃいます。そろそろお参り・・・に行きましょうか」

「ふぁーい」


 ソラは残りのたこ焼き・・・・を一気に詰め込み、アカリの背中を追いかける。

 クロガネも二人の背中を見ながら、自然石が敷き詰められた石畳を歩いた。

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