第23話 つうか、そのレベルってのが正直ピンときてねえ

「というわけで、怪我をしたクロさんの代わりに、次の配信はあたしが出るからね!」

「俺はかまわねえが、配信的にはどうなんだ? いきなり演者が代わるってのは」

「一般的には悪手ですが、今回はプラスに働くと思います。ソラさん、美人ですから人気が出ると思いますよ」

「えへへ、クロさんより人気になったりして」


 三人は食堂で朝食を食べながら今後の話を詰めていた。

 昨夜は契約の件ですっかり遅くなってしまい、アカリが泊まっていくことになったのだ。

 いずれは寮生を抱えることも視野に入れていたため、空き部屋はいくらでもある。

 道場生は兼業で通いの者しかいないので、そっくり部屋が空いているのだ。


「でも、大丈夫なんですか? まずは浅層で実力を確認させていただくとして、なんというか……その……特別体格がよいわけでもないですし……」

「格闘家にしては小柄だって言いたいんだよね? 自分でもわかってるから遠慮しなくていいよ」


 アカリは気まずそうにしているが、ソラは至って平然としている。

 ソラの身長は160センチ。体重は60キロにも満たない。

 平均的な女性より多少ガッチリしている程度の体格だ。


「もしかして、フリーでダンジョンを探索しててすごい高レベルだったりするんですか?」

「ううん、まだモンスターを倒したことないから、レベルもないよ」

「えっ、それじゃ、なぜそんな自信が?」


 クロガネはずずずと味噌汁をすすっている。

 野菜と油麩あぶらふをたっぷり入れた具沢山の味噌汁だ。

 じゅわっと汁の染みた油麩はクロガネの好物だった。

 よく噛んで飲み込んでから、口を挟む。


「ソラなら、あの猪頭やサソリ男じゃなきゃ負けんと思うぞ。人形どもは数次第だが」

「猪頭は相性的に厳しいけど、サソリ男ならたぶんイケるって」

「そりゃ自信過剰だ」

「動画見たけど、アイツの尻尾って腹の下には届かなそうなんだよね。スライディングで潜り込んで、寝技勝負に持ち込めばジャベ・・・で決められる自信がある」

「ふうむ……」


 クロガネは大皿に山盛りにされた肉団子をひとつ頬張り、たっぷり咀嚼して飲み込む。


「単純にプレスされたらどうする? 体重は200キロはあったぞ」

「それは逆に狙い目かな。体重を利用して、腕ひしぎの要領で足を一本もらって離脱。この繰り返しで足を削ってく。そこはクロさんの作戦と一緒だね」

「あの爆発する尻尾はどうする?」

「アイツの上半身を盾にする。クロさんの体格じゃ無理だけど、アタシならそれで十分射線から身を隠せる」

「フィニッシュは?」

「ヘッドシザースで転がして、そこからはジャベ・・・で仕留める。状況次第で尻尾を潰すのが優先だけど」

「ふむ……」


 クロガネは再び肉団子を頬張り、目をつむってゆっくりと味わう。

 その間、ソラは丼飯に生卵を落とし、醤油を垂らして卵かけご飯を作っていた。

 黄身の色が濃く、こんもりと張りがある。近所の養鶏場の直売店で売っている新鮮な卵だ。この味に慣れてしまうと普通の卵には戻れない。


「あの、ところでジャベって何ですか?」


 シャキシャキの白菜漬けをつまみながら、アカリが尋ねた。

 ソラは「いい質問だね!」と親指を立てる。


「ルチャリブレ。メキシカンプロレスの寝技、関節技のこと。ルチャっていうと空中殺法のイメージが強いと思うんだけど、じつはグラウンドの技も豊富なんだよ」


 昨日、長々と話し合ったことで二人はかなり打ち解けていた。

 言葉遣いもすっかり砕けている。


「で、ソラはそのルチャが得意ってわけだ。シミュレーションしてみたが、7:3でソラの勝ちってとこだな」

「本当ですか!? いや、疑うわけじゃないですけど……」

「あくまで見立てだから外れるかもしれねえけどな」

「でも、ソラさんってレベルなしなんですよね……?」

「そうなんじゃねえのか? つうか、そのレベルってのが正直ピンときてねえ」

「え……?」


 アカリは思わず言葉を失った。

 配信者と言えば、モンスターを倒すなどして経験値を貯め、レベルを上げて自身を強化し、それを繰り返して徐々に深層に挑んでいく――というのが常識なのだ。この二人はそんなことも知らずにダンジョンに潜り、強力なレアモンスターを倒していたというのか。


 それならば、これから先、レベルを活用した常識的な・・・・強化を行っていけば、想像もつかない強さに到達するではないだろうか。

 その可能性に思い当たり、アカリは我知らず生唾を飲み込んでいた。


「ひとまず、次にやることが決まりましたね」

「ん、ソラの配信デビューじゃねえのか?」

「その前にやることができました」

「ダンジョンのことなんてわからないし、お任せするけど、何をするの?」

「それはもちろん――」


 アカリはお茶をひと口すすって、残りの言葉を続ける。


「<神社>にお参りです!」

「「神社?」」


 予想外の言葉に、クロガネとソラは揃って首を傾げた。

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