第2話 地獄からの解放。のはずだった
目が痛い。
「……………」
さっきの幸せ空間と比べて、周りの景色はもはや地獄だ。地獄。
時の流れは残酷なもので。俺の身が暗闇の中で手を動かしている。
あのクソデコ出し女め。俺はカモかよ。
陽毬は、母親が腰を悪くさせたらしく、休憩終わりにLINEが来て早退した。
俺に仕事を任せて。
「………次は絶対断ってやる……!!」
そう自棄になりながら、スマホを確認する。
一応、時計が11:00を回ったので陽毬にLINEを入れてやる。
――「お母さん大丈夫なのか!!?」
スマホが駄目になりそうなくらいの勢いで机に叩きつけてから仕事に戻る。
以前、俺の“6日連続残業っぷり”を見た同僚から、「お陰でズボン濡らしちまったじゃねぇか!!!」と次の日文句を言われた。
……死ぬほど残業を嫌っていたソイツが俺の代わりに残業してくれたほどだから、きっと残業時の俺は凄まじい
腕の残像が見えるくらいに動かし、仕上げとしてエンターキーを力強く押す。
「っ、お………終わっっったぁ〜〜〜!!!」
ほんとに体が軽くなる。
俺は急いでパソコンを閉じ、書類を片付け
ワイシャツを正す暇なんてない。
今の俺は無敵だ。誰も止められると思うなよ。
そう構えても、いま社員は俺しか居ないのだと思い出して涙が溢れる。
「っ……くそ、陽毬………! いや陽毬は悪くないけど! 誰も悪くないけど!!!」
一人でコントをしながらエレベーターへの廊下を走る。
スキップでもして帰ってやろうと思ったが、流石に監視カメラがあるのでやめておいた。
「帰ったら何食べよ……」
疲れを引きずって、弱音を吐くようにそう呟いた時だった。
外から何かが飛んできたのが分かった。
「――――えっ?」
バリィィイインン……! と「飛んできた何か」にガラスが耐えられるわけがなく、それは、案の定、俺を巻き込んで会議室の壁にぶつかった。
「………いッッ……だ!!!!」
しかも俺はその「飛んできた何か」の衝撃吸収材として使われたらしい。
「……何なんだよ………鳥………か………っ――!?」
俺は息を呑んだ。と言っても、眼前に広がった景色が極楽浄土というわけでも、腕の中にいるのが美女というわけでもなかった。
「クソ……」
ソイツは俺に見向きもせずに起き上がった。
レインコートのような厚ぼったい服のせいで、体格も、顔の輪郭でさえもよく分からない。
「ぁ………あ……」
声を失ったように言葉が出てこない。
「ここまでみたいだな、ギョロ目!!!」
隣のビル位の距離から怒号に似た声が飛んでくる。
………ギョロ目? コイツか?
「うるッせぇ!!!! ……おいお前! 自分の家はあるよな」
「へっ?」
「よし」
急に
「……じゃあ案内してもらう、ぜ!!」
「なっ……
はいぃぃいい!!!!?? ……う゛ッ!?」
俺の襟を引くとソイツは、自分が飛び込んできたところから外へ飛び出した。
あれ? エレベーターに乗る前ってことは、ここ地上16階だったよな??
く、苦じい゛ぃぃい……! 襟、えり、襟がぁぁあ!!!!
ワイシャツの襟は着々と俺の首を絞める。
「お。悪い悪い」
「っ゛はぁ……はぁ……!」
やっと気管が緩む。
一気に涼しくなって、開放感が押し寄せた。
「あぶな………」
首を擦り
「おい」
「は?」
「早く案内しろ」
「えっ?」
「お前の家に早く案内しろって言ってんだ!!!」
状況を確認する。
俺は今、残業から開放された。残業ということは深夜ということ。深夜ということは誰も俺のSOSには気付かないということだ。
オマケに、現在地は東京上空。16階建てビルと同じ高さ。
トドメを刺すように俺は、この得体の知れないヤツの肩に抱えられている。
教えないという選択肢もあるにはある。しかし、それを選んだ時。
「……こっから落とすからな」
「すみません!!!!!」
だから、今の俺には「肩に抱えられながら、自宅の住所を教える」という選択肢しか無いのだと、
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