第43話 うさぎと騎士

クリスマス当日、朝から喫茶店では客足も多く賑わっていた。

ジェフリー目当ての客が大半ではあったが、ジェフリーと純が結婚したと噂が広まり、何故か2人への祝いとクリスマスプレゼントを持ってくる客が多かった。

時には、どこから聞いてやってきたのか見知らぬ客からプレゼントをもらい、にこりと余裕そうに微笑むジェフリーと、困惑している純の姿があった。


「あの、コレ、これ結婚祝いです」

そう言ってレジの前で純とジェフリーを呼び止め、女子高校生らしき2人の女の子から二つのぬいぐるみを手渡される。

そのぬいぐるみを見て、純とジェフリーは目を丸くする。

「知ってますか?コレ、うさぎと騎士って絵本のキャラクターなんです。最近、再販されて今、凄い人気なんです。それで、このぬいぐるみ見てたら、なんか2人にぴったりだなと思って、プレゼントに持ってきました」

少し照れたような表情で、声をかけてくる女の子にジェフリーは優しく微笑み、お礼を言う。

純もぬいぐるみを抱きしめ、嬉しいと笑顔を見せた。

その2人の笑顔に、女の子達は小さく悲鳴をあげ、店を出て行った。

「不思議な事もあるもんだな」

ジェフリーはそう言いながら、手元にある騎士のぬいぐるみを見つめる。

「そうですね・・・やっぱり僕達はうさぎと騎士だったんですよ」

純は手元のうさぎの耳を撫でながら微笑む。

ジェフリーはそうだなと小さく笑うと、レジの横にある大きな窓辺にぬいぐるみを置く。純もその隣にぬいぐるみをそっと置く。

「お似合いだ」

純はふふッと笑いながら、ぬいぐるみを見つめた。


その日の夕方、いつもならこの時間帯に来ない老夫婦が喫茶店を訪れる。

そして、ジェフリー達に小さな箱を手渡した。

その箱の中には家の鍵が二つ並んでいた。

「実はね、この家の裏手にあるマンション、私達の不動産なの」

奥さんがそう言うと、旦那さんがにこりと微笑む。

「老後の足しにと思って買って置いたんだ。私達には他にお金をかける物がなかったからね」

そう言いながら椅子に腰を下ろすと、また、にこりと微笑んだ。

「ちょうど、一室が空いたんだ。この家に住むのもいいが、2人は新婚さんだからね。2人の時間が作れる場所も必要だと思って、君達に部屋を譲ろうと思ってな」

「そんな・・・でも、僕達、家賃を払う余裕は・・・」

「いらないよ。住むのも自由だし、ただ2人の時間を過ごすのに使ってくれても構わない。幸い家電は置いて出て行ったから、特に改めて購入する物はないし、そうだな・・・純くんと健二くんのちょっとした別荘だと思ってくれればいい。

純君が2人の時間を過ごしたい時とか、この先、健二くんが大学受験を控えた時に勉強の場として使ってもいい。一部屋くらいの収入がなくても、年寄り2人、十分食べていける。もう家族になったんだ。大事な孫と、息子と息子の伴侶への私達からのクリスマスプレゼントだと思ってくれ」

その言葉を聞いた途端、手伝いに来ていた健二が誰よりも先にやったと喜ぶ。

「俺も本当は2人が気を遣ってるんじゃ無いかって心配してたんだ。それに、たまには俺も使っていいなら、友達と気兼ねなく遊べる!」

「健二・・・僕達より後半の言葉が本音でしょ?」

呆れたように問い返す純に、そんな事ないと健二が返す。

「新婚カップルなのに、家じゃ色々気まずいだろ?俺達も気を使うし・・・早速、今日、2人でクリスマスでもしてきたら?」

そう返されて、純は何言ってるのと顔を赤らめて怒る。

だが、ジェフリーだけは真剣な顔をして、いいのか?と真面目に返していた。

「ジェフリーさんまで・・・もぅ・・・」

真っ赤になる純を見て、皆が声を出して笑う。

「何か作ってやるから、ゆっくり泊まってきなさい。ちょうど明日からここも休みだ。遠慮はいらない」

父の言葉にジェフリーは笑顔でお礼を言うと、早速行こうと純の手を引く。

純はまだ店閉めてないでしょとジェフリーを宥めながら、恥ずかしそうにカウンターへと戻っていった。

その様子を見て周りがまた声を出して笑う。

ジェフリーはふと、窓辺に置いたぬいぐるみに視線を向けると、優しく微笑む。

寄り添うようにもたれかかる二つのぬいぐるみに、自分達の姿を重ねた。

神が生まれた日、聖夜と呼ぶ今日、ジェフリーの願いが神に届くようにそっと目を閉じ、祈る。

ジュンとずっと寄り添って、生涯共に生きれる事を心の底から深く願った。

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孤独な騎士はぬいぐるみに恋をする 颯風 こゆき @koyuichi

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