第38話 空白の時間

「ジェフリーさん、少し狭いだろうけど我慢してくれますか?」

純は自分のベットの側に布団を敷きながら、ジェフリーに声をかける。

「僕サイズだから、足が出てしまうかも。でも、布団は寝慣れないだろうから、今日は僕のベットを使って下さい。すぐには無理だけど、その内、お金貯めて大きいのを買いましょう」

ベットを叩きながら、ジェフリーに横になるように促す。

ジェフリーは促されるままベットに入るが、すぐに純へと手を伸ばした。

「一緒に寝てくれないか?」

「え・・?でも、ベット小さいし、ジェフリーさんはずっと公園で寝てたから、ベットでゆったり寝ないと疲れが取れませんよ?」

「構わない。久しぶりに会えたんだ。ジュンの温もりを感じたい。それに、一緒の方がよく寝れるはずだ」

じぇふりーは強請るような眼差しで純を見つめる。

純はでも・・と繰り返しながら、ジェフリーを見つめ返すが、無言の圧力に根負けし、ジェフリーの手を取る。

ジェフリーは優しく、そして力強く純を抱きしめる。

純もまた、懐かしい温もりに手を伸ばし抱きしめた。

「あぁ。ジュンがここにいる。夢でも幻でもない、ジュンだ」

「ジェフリーさん・・・すごく会いたかったです」

「私もだ。毎夜ジュンの夢を見ていた。だが、温もりを感じられない事が、朝目覚めた時に喪失感が酷くて、毎日が辛かった」

「ごめんなさい。寂しい思いさせて、ごめんね・・」

「謝るな。こうして会えたんだ。それに、お前のおかけで1人ではなかった。皆が、家族が支えてくれた。それもお前のおかげだ」

「そう言えば、どうやってここに来たんですか?」

純の問いかけに、ジェフリーは体を離し、純の額にキスをして微笑む。

「あの婦人に会いに行ったんだ」

「王都に戻ったんですか!?」

純は驚いた表情でジェフリーを見つめる。

ジェフリーは純の髪を撫でながらあぁと答えた。

「落ち込んで部屋に篭っている私に、ラグナが会いに行こうと言ってくれたんだ。ついでに、母のお墓にみんなで行こうと提案してくれて、皆と一緒に王都へ戻った。そこで、お前の声を聞いたんだ」

「僕の・・・・?」

「あぁ。あの絵本の話をしていた時だ」

「あ・・・」

純は思い出したかの様に声を詰まらせる。そして、ベットからゆっくり起き上がると本棚にあった本を取り出し、ジェフリーに見せる。

ジェフリーは体を起こし、その絵本を取ると一枚ずつ丁寧にめくった。

そして、ふっと笑みを溢す。

「私も一から文字を覚えないといけないな・・・。それにしても、この絵の騎士が私なのか?」

「少し騎士の背景や物語とは違うけど、僕はこのうさぎで、騎士はジェフリーさんだったと思ってます。だから、僕はジェフリーさんに会えた」

絵本の中の騎士を指でなぞりながら純は微笑む。

ジェフリーはそっと純の肩を寄せ、髪にキスを落としながらそうだなと返した。

それから、貧困街へ行った事、婦人に会った事、そして伯爵夫人とラットにも会った事を話した。


「私は伯爵家を出れば断ち切れると思っていたが、そうではなかった。ただ、あの場所から逃げただけだったんだ。もっと早くそれに気付いていれば、ジュンと一緒にここへ来られたしいんだ。だが、今はラット様と私の家族が鎖を切ってくれた。そして、新たな縁を断ち切る勇気があれば、またジュンに会えると婦人は言っていた」

「新たな縁って・・・・」

「お前が繋いでくれた家族という縁だ。元の場所へ帰る事はできない。その為に家族と別れなければならなかった。欲しかった家族、お前が私の為に繋いだ縁を断ち切る勇気が必要だったんだ」

ジェフリーの言葉に、純は口を閉ざし俯く。

ジェフリーは純の頬に触れ、顔を自分の方へ向け微笑む。

「ジュン、私はここへ来る時、何もかも置いてきた。婦人にあの世界を記すものは何一つ持って行ってはいけないと言われたからだ。だから、思い出も家族も残してきた。寂しくないと言えば嘘になるが、私は後悔などしていない。アリアとダニエルも最後には私の背中を押してくれたのだ。ジュン、私の幸せが自分でありたかったと言った言葉は本心だろう?」

「・・・はい。僕はジェフリーさんと幸せになりたい・・・」

「ならば、涙を流さず、微笑んでくれないか?寂しさはジュンとの幸せの中で埋まっていくはずだ。私は決して後悔などしない。だから、私との幸せだけを願ってくれ。愛しているんだ。ジュンと幸せになりたい」

ポロポロと涙を流す純の両頬を包みながら、ジェフリーはじっと純を見つめる。

純は何も言わず、何度も頷いた。

それを見たジェフリーはありがとうと小さく呟く。

「ジュン、愛している。ずっと私のそばにいてくれ。一緒に幸せになろう。それが私の願いで、家族の願いでもある。そして、お前の願いでもあると信じている。

この先、不甲斐ない私を幾度なく見ると思うが、それでも呆れず、ずっと私を愛してほしい」

「ふふっ。きっと不甲斐ないジェフリーさんも愛おしいと思います。一緒に一つ一つ幸せを作っていきましょう。僕がずっと側にいます。ずっとずっと側でジェフリーさんを愛して、ジェフリーさんの笑顔を守っていきます」

いつの間にか止まった涙を拭いながら、純はジェフリーに微笑む。

ジェフリーもまた微笑み返し、純の唇に自分の唇を重ねた。

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