第37話 共に生きる

「君がジェフリーくんか・・・・」

風呂上がりのジェフリーを、父親がダイニングの椅子に腰を降ろしながら、ジロジロと見上げる。

「兄ちゃんの夢物語だと思ってたよ・・・」

父親の隣にいた健二も不思議そうに見つめながら呟く。

ジェフリーは頭を深々と下げ、口を開く。

「夜分に申し訳ありません。私はジェフリー・モンタナと言う者です」

そう挨拶しながらゆっくりと顔を上げると、優しく微笑んだ。

その隣で純が少し恥ずかしそうに、ジェフリーを見上げていた。

そして、父と健二に視線を戻すと、まっすぐに顔を向ける。

「父さん、僕のとても大事な人で大好きな人なんだ。だから、仲良くして欲しい」

純の言葉に、父は呆然とするがジェフリーから聞こえる腹の音で我にかえる。

「と、とにかく、彼は来たばかりなんだろう?それに、お腹も空いているようだから、先にご飯にしよう。口に合うかわからないが、今日はカツカレーだ」

父はそう言って慌てて席を立ち、キッチンへと向かう。

純はジェフリーを椅子に座らせ、父の手伝いをしにキッチンへと向かった。

残された健二は気まずそうにしながらも、ジェフリーに声をかける。

「いつ来られたんですか?何故、公園に・・・?」

健二の声に純が離れた場所から声を上げる。

「ジェフリーさん、公園にいたの!?」

「あそこは公園というのか・・・。実は、ここに来たのは4日前だ。一度はあの場を離れたのだが、情けない事にジュンが前に言っていた馬のいない馬車の速さに慄いてしまって、またあの場所に戻り寝泊まりをしていた」

「えっ!?」

ジェフリーの話に、三人が声を上げる。それから、料理を運んできた純と父がテーブルに並べると席につき、ジェフリーにスプーンを持たせ、食べるように促す。

初めはカレーの色に難色を示していたジェフリーだったが、恐る恐る口に運ぶと物凄い勢いで口に運び始めた。

あまりにも凄い勢いで食べるジェフリーに、三人はまた目を丸くする。

おかわりまでしたジェフリーに、純は紅茶を入れてやる。

お腹が満ちて満足したのか、ジェフリーはまた話を始めた。


「ジュンの名前を覚えていたから、あの場所に来る者達に尋ねたのだが、知っていると言う人に会えず、食事も持ってきたわずかな干し肉を食していたが、流石に尽きてきてどうしようかと思い悩んでいる時に、健二殿に会ったのだ」

ジェフリーは一口紅茶を啜ると、隣に座っていたジュンへと視線を向ける。

「もう少し早めにくる予定だったのだが、ジュンの世界へ来たら、元の世界に帰るのは困難だと言われて、私自身は覚悟はすぐに決まったのだが、家族との別れの時間を長めに費やしてしまった。想像以上にアリアとダニエルがヘソを曲げてしまって、わだかまりなくここに来たかったから、説得に時間がかかってしまったのだ」

「アリアとダニエルが・・・」

懐かしい名前に、純の目が潤む。その姿に、ジェフリーはそっと純の手を握る。

そして、今度は父と健二に顔を向けると、真剣な眼差しで言葉を繋ぐ。

「ジュンの父上殿、弟の健二殿、突然訳のわからない者が現れて戸惑っていると思います。だが、私はジュンに会いたくて、共に生きたくてここへ来ました。ジュンを心から愛しています。私の生涯をかけてジュンを幸せにすると、私の名の下に誓います。この先ずっと、ジュンと共に過ごすことを許して欲しいです」

ジェフリーは顔を赤めている純を他所に、深々と頭を下げる。

その姿に健二も顔を赤らめる。

「お兄ちゃん・・・俺まで恥ずかしくなるよ」

「ぼ、僕も・・・・」

モジモジとしている2人の側で、父親が小さなため息を吐く。

「君の気持ちはわかった。君の話も純一から聞いていた。君の世界では知らないがここでは同性の結婚は認められていない。それが君達の壁になるかもしれない。それでも、純一の側にいるのかい?」

「もちろんです。私の国でも同性の結婚は認められていません。だが、孤独だった私を救い、心から寄り添ってくれたのはジュンだけでした。諦めていた幸せも、私には縁がないと思っていた家族に会えたのも、ジュンのおかげです。その事を心から感謝しているし、ジュンの心優しさにも強く惹かれています。それは性別も関係ありません。ぬいぐるみだった時ですら愛おしかった。私の幸せはジュンの隣以外ありえない。心から愛しているのだ」

愛おしそうに純を見つめるジェフリーに、純は恥ずかしそうに俯き、健二もやばいと連呼しながら俯く。

その姿を見て、父は小さく微笑む。

「この子は小さい頃から我慢強い子でね。それでいて家族思いの心優しい子だ。涙1つ見せずに私達の為に尽くしてくれた。そんな子が目覚めてからしばらくは泣いて部屋に篭ってしまってね。どうしたら良いのか悩んでいた。

そのくらい君が恋しかったんだと今ならわかるよ。こんなに息子を想ってくれる人が側にいたのなら、恋しくなって当たり前だ。私も昔も今も妻を愛しているからね。

恋しい気持ちは痛いほどわかる。色々と問題点はあるが、ここで一緒に暮らしながら、一緒に考えていけばいい。ジェフリーくん、息子を、純一をよろしく頼むよ」

父はそう言いながら微笑えみ、ジェフリーに手を差し伸べ握手をした。

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