第34話 縁との再会

翌朝、ラグナとジェフリーは貧困街に来ていた。

シドの話によると婦人は昔は有名な占い師で、元々は中心街に住み、多くの貴族が婦人の元へ訪れていたが、いつの間にか人の欲に疲れたと貧困街の外れに住み着いたという。

今でもたまに貴族が来るが、婦人は進出鬼没で自宅にいる事も少ないらしい。

シドの案内で婦人の家の前まで来ると、ジェフリーはすぐにドアをノックする。

だが、家の中からは物音1つせず、何度ノックしても人が出てくる気配がなかった。

ジェフリーとラグナは、もうしばらくここに残るとシドに伝え、シドと別れた後は玄関先にあった木箱に腰を下ろす。

庭にはよくわからない木箱や、飾りが所々に置かれていた。

一時期、よく当たる為に魔女では無いかと噂が立ったらしいが、古びた建物と飾られた置物が噂を裏付けるかのように重々しい雰囲気を醸し出していた。


「見つけたわ」

突然聞こえた女性の声に、2人は声の方へと視線を向けるとジェフリーが体を強張らせる。

その声の持ち主は伯爵夫人だった。

汚い物を見るかのように眉を顰め、口元には扇子を当てていた。

ジェフリーはゆっくりと立ち上がり、胸に手を当てお辞儀をする。

「お久しぶりです、伯爵夫人」

その言葉にラグナも顔を顰めるが、黙ってジェフリーに続いて頭を下げた。

「よくもコソコソと恩を仇で返すような真似をしてくれたわね。おかげで伯爵家によくない噂が流れたじゃないの」

久しぶりに聞く耳障りな声に、ジェフリーは頭を下げたまま口を閉ざしていた。

夫人はゆっくりとジェフリーに近づくと、持っていたセンスでジェフリーの頬を叩く。鈍い音と一緒にセンスが折れ、地面へ落ちる。

ラグナが慌ててジェフリーの肩を掴み、顔を覗き込むが、ジェフリーが手を翳し、それを制する。

「どなたか存じませんが、コレはうちの物です。口を挟まないでくださる?」

「物って・・・そんな言い方・・・」

怒りを表した低い声で、ラグナが口を挟む。

「お言葉ですが伯爵夫人、ジェフリーはすでに我がモンタナ家の一員です。今までのご恩は十分返したはずです。それに、ジェフリーはすでに成人を迎えていますので、家族を選べる立場にあり、あなた方は正式にジェフリーを籍に入れていないと聞いております。ならば、これ以上、伯爵家へ恩義を返す義理はありません」

「モンタナ・・・?」

ラグナの口から出た名前に、夫人が更に顔を歪める。

「モンタナという事は、あの卑しいメイドの家族ね。没落した身分の癖に伯爵をそそのかし、勝手に子を産んだあの忌々しい女の家族・・・どうりで、無礼極まりないわ。礼儀も知らないのね」

夫人の言葉に、今度はジェフリーが口を開く。

「お言葉ですが、私の家族は母も含め、何一つ恥じる事ない立派な貴族です。私の家族を侮辱しないでいただきたい」

「家を出てから生意気な態度を取るようになったのね。貴族と名乗るには没落すぎる卑しい身分ではなくて?それより、あなた、退職金をくすねたでしょう?」

「くすねた訳ではありません。あれは私の正当な給与です。今まで頂いた給与は全て伯爵家へ渡してきました。昇進を断っていたとはいえ、長年勤め、遠征にも多く出征した私の給与は、それなりの金額の給与だったと把握しています。それに比べれば、今まで伯爵家へ尽くしてきた分を含めても足りないくらいです」

「ふざけないで!あなたに衣食住を与え、面倒を見てきたのよ!?あなたの母親が与えた侮辱も含めたら一生働いても返しきれない額よ!」

「母は・・・母は合意でなかったとあの屋敷の者達は皆知っています。なのに、無一文で追い出した。責めるべきは伯爵様と夫人にあるのでは無いのですか?」

「何を言っているの?金目当てであの女が唆したに決まってるわ」

わなわなと手を振るわせ怒り狂う夫人に、ジェフリーもラグナも視線を逸らさず睨みつける。

そして、夫人が合図したと同時に後ろにいた護衛が、ジェフリーの前に立ちはだかる。

「大人しく来ないとあなたの家族とやら酷い目に遭うわよ」

「・・・・そうしてまで私を連れて帰ろうとするのは、また伯爵様が事業に失敗したのですか?大人しく引退して、ラット様に当主の座を引き渡せばいいものを・・・」

「うるさいわねっ!ラットはまだ若いし、体もまだ丈夫ではないわっ!あなたが黙って働いけばいいのよ」

金切声で叫ぶ夫人と、目の前に立ちはだかる護衛に、ジェフリーはラグナを背にし、腰にある剣へ手をかける。

すると後方から大きな声が聞こえた。

「おやめくださいっ!」

その声の持ち主はラットだった。そして、その側に何故か祖母と付き添うようにロイが立っていた。

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