第33話 縁との再会
「ジェフリー!」
名前を呼ばれ振り返ると、そこにはロイの姿があった。
ロイはすぐに駆け寄り、ジェフリーの背中に手をそっと置く。その後ろにはアリアとダニエル、ラグナの姿もあった。
「どこか痛いの?」
今にも泣きそうな表情でアリアが近付いてくる。
ジェフリーは木の根元に伏せ、泣き崩れていた。
「ジェフリー、何があった?」
ラグナがアリアの後ろから声をかけてくる。ジェフリーはゆっくりと体を起こすと、涙を拭う。
「ジュンの・・・ジュンの声が聞こえた・・・・」
「ジュンが帰ってきたの!?」
アリアの歓喜の声に、ジェフリーが首を振る。
「あの婦人が私とジュンは縁があると言った。その意味は気付いていた。昔・・・私が幼少の頃、ここに母と食べ物になる物を探しに来ていた。母が木の実を探している間、私はここで母が摘み終わるのを待っていたのだ」
ジェフリーは木を撫でながら、懐かしむように見つめる。
「不思議な事に、ここに来るとこの木の根元から子供の声が聞こえていたんだ。1人で待つ私を慰めるかのように、その声はいつも優しく私に語りかけていた」
「それが何故、ジュンだと・・・?」
ロイが不思議そうに尋ねると、ジェフリーは小さく微笑んだ。
「一度だけ、その少年の姿を見た事があるのだ。母が病に倒れた後、お腹が空いて1人でここに来た。その時、心細くて泣いていたら少年が姿を現して慰めてくれたのだ」
「それがジュンなの?」
ダニエルが少し悲しそうな声で問いかけると、ジェフリーは小さく頷く。
「さっき・・・ジュンの声が聞こえたのだ。私の声は聞こえていないようだったが、私に会いたいと泣いていたんだ・・・」
ジェフリーは声を振るわせそう答える。そして、ジュンが言っていた絵本の話を話し始めた。
すると、ダニエルがジェフリーの側にきて静かに涙を流す。
「ジュンはジェフおじさんを助けたくて、ここに来てくれたんだね。そして、ジェフおじさんが1人にならないように、僕達を引き合わせてくれた。ジェフおじさん、ジュンは本当にジェフおじさんが大好きなんだね」
ダニエルの言葉に、ジェフリーは嗚咽を漏らし泣き始めた。
その声にアリアも釣られて泣き始める。ジュンに会いたいねと声を漏らしながら、アリアは泣き続けた。
その夜、宿に戻ったジェフリーはラグナを連れて貧困街へと向かった。
草原から帰ったジェフリーが、一日でも早く婦人を見つけたいと気を急いていたからだ。
ロイに他の家族を託し、1人では心配だからとラグナが付いてきた形だった。
暗い夜道をランプを片手に歩いていく。
少し距離はあったが、2人にとってはそう遠くない道だった。
貧困街に着いてから向かったのは、あの子供達に譲った昔の家だった。
そこには、数人に増えていた子供達が身を寄せ合って住んでいた。
あの日、出会った子供がジェフリーに気付き、家に招き入れてくれた。
そこには、シドの姿もあった。
あの日からシドは老い先短い自分より子供達が優先に住めるようにと、子供達の手助けをしていたようだったが、その内、子供達に促され一緒に住む様になっていた。
ジェフリー達が去ってから、祖母達が訪ねてきてジェフリーが元気にしている事を伝えたが、会えなかったとまた戻って来ていた事を話してくれた。
ジェフリーは今までの事を話ししながら、ある婦人を探していると告げた。
するとシドから、心当たりがあると言われジェフリーの顔が明るくなる。
「明日の朝、またここに来るといい。きっと会えるはずだ」
そういうシドに、ジェフリーは力強く頷く。
その顔を見たシドが、笑顔でジェフリーを部屋の隅に招く。
そこは、昔、母が寝ていた場所だった。
今は藁とゴザが敷かれ、子供達の寝床になっていた。
シドは藁を少しどけ、壁を指差す。
「最初は勝手に住み着いている私達を疑っていたが、これがあったから、ジェフの家族が信じてくれたんだ」
そう言われ、指先にある壁を見つめると何か文字が彫られた跡があった。
それを指で摩りながら読み取っていく。
そして、ふと以前来た時にジュンが壁に向かって何かをしていたのを思い出す。
少しだけ時間をくださいと言い、一所懸命壁に向かって手を動かしていた。
そこには覚えたてのヨレヨレの字で
(アンナ・モンタナ)と(ジェフリー・モンタナ)2人の名前が彫られていた。
その下には(きっと会える)という短い言葉。
自分の剣だと、太い針を刀代わりにしていたジュンが、いつかの為に掘ってくれていたのだ。
その小さな姿が脳裏に浮かび、ジェフリーはまた目を潤ませる。
その後ろでラグナが何も言わず、ジェフリーの肩を叩いた。
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